逆ベクトル///日常・その他

薄暗い体育館。
性教育とかいう奇妙な授業が終わった後の、何というかこの色めきたった空気。

鬱陶しいなあ、と僕は思う。
はしゃぐ奴、嬉しそうに語る奴、恥ずかしそうにうつ向く奴。
みんな、馬鹿らしい。
割り切ってしまえば、たかが生殖だ。
そんなに騒ぐ必要はないと思う。

教室へ移動する途中そんなことを考えていたら、突然光一が口を開いた。
「男って悪者だよな」
男子一同、なぜ今ここでそんなことを言うのかがわからずぽかんとしている。
「だからあ、何か男は何も分かってないから女がしっかりリードしましょうねー、みたいなの、何か理不尽じゃん」
それは保健医の言葉だ。光一はそう思ったのか。
確かにそれは言えるかもしれない。しかし、野球部の野田は言った。
「まあ、本当なんじゃね?男は馬鹿だからそんなことになるんだろ」
まあ俺は違うけど、と言って野田は笑った。
「そんなもんかなあ」
「ただ単に力の差かもなー」
「男の方が先にやりたがるっていうのもありじゃん」
同じく野球部の平田が横から口をはさんできた。
確かにそれも正論だと僕は思った。
「うわ、直球」
「平田下品だなー、何、ドーテー捨てたいのか」
「ち、ちげーよ!まず下品じゃないし」
あははは、と笑い声が響く中で僕は、一人だけ露骨に嫌な顔をしている奴がいることに気が付いた。

橋本だ。
顔は一流、成績も運動もすごい。だけど浮世離れしていて、よくわからない謎の人物だ。
「はしも」
「下品だ」
僕の声など耳に入っていないようで、橋本は嫌悪感を露にして吐き捨てた。びびった。
「下らない。意味が分からない」
綺麗な顔を歪めて呟く橋本はちょっと怖かった。
そして、橋本は何故か突然僕の方に真っ直ぐ視線を向けた。
「男とか女とか、くだらないだろう。今は」
「そ、そうかな」
やばい。こいつは何かおかしい。
顔は良いのに言ってることは何か変だ。
「同形が一番美しいんだ。凸凹はよくない」
「あー……」
これは頷けない。言ってることがスレスレだ。
ここまで嫌うってことは、何だ、ほら。まさか同性愛者ってやつじゃないのか。
「橋本は興味とかない……のかな?」
「今は、ない」
橋本は悩ましげに目を伏せて、ぽつりと言った。

「だって僕らは、まだこどもじゃないか」

それに女は嫌いだ、と消え入るような声が聞こえた。
最後のはどうでもよかったが、橋本のその言葉が何故か心に引っかかった。
確かに僕らはまだ子供だ。
こども、子供。
じゃあ何でこんな授業が必要なんだろう。
インターネットの発達とか、情報を手に入れやすいとか。そんなことじゃないだろう、多分。

「……生き物なのか」

例え子供でも、人間である以上生殖という呪縛からは逃れられない訳で。
愛だとか恋だとか、そんな気持ちは後付けなのかもしれない。
そんなことを考えながら、何か哲学みたいだなあ、と僕は思った。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -