跳ねた心臓の行方///junk

今日はクリスマス。

いつものように乾いた部屋の中。
ふみのふわふわした鼻歌がうきうきと充満していた。

その投げやりな歌声は、台所にいる僕の耳にも届いた。

「ふみ、静かにしてよ」
「一年に一回だけ浮かれてもいいだろう」
「料理に集中出来ないんだよ」

しかし僕の反論に耳も貸さず、ふみは長い手足を投げ出して僕が買ってきたチキンを眺めていた。
僕が奮発して丸々一羽、大きいものを選んだのだ。

「青葉」
「なに」
「お前家族と過ごさなくていいのか」
「いーの。大体家族ではしゃぐような年じゃないし」
「彼女はいないのか」
「よ……余計なお世話だよっ」

ふみは本当に鈍い。
ちょっとくらい僕の気持ちに気づいてくれてもいいんじゃないか。
いつも本ばっかり読んでるんだから、人の感情に敏感でもいいのになあ。
確かに幼なじみだしずっと一緒に遊んでるし、親も兄弟みたいだなんて笑うけど。
何かこう……ねえ。

「……はあ」
「どうした青葉」
「何でもないよ……」

まったく。
僕が誰のために来たと思ってるのだろうこの女は。

そんなこんなの内にテーブルの上には料理が並び、結構クリスマスらしくなってきた。
まあ、畳の上に引っ張り出したテーブルっていうのが残念だけどさ。

「うん、美味そうだ」
「あ、つまみ食いするなよ」
「少しくらいいいじゃないか」
「よくないよ」

でもふみは美味しそうに食べてくれるからまんざらでもない。
少し不満があるとしたら、僕の隣に立たないで欲しいってことくらいだ。
ふみは僕より15センチくらい背が高いから、ちょっとだけ屈辱だ。

「あのさ、ふみ」
「ん?」
「……何でもない」

何か僕ってふみのお母さんみたいだね、と思ったけどくだらなくて言うのをやめた。
それにふみは今、実質一人暮らし(お手伝いさんはいるけれど)だから良い気分じゃないかもしれないし。

「腹が減った。もう食べるぞ、食べるからな」
「はいはい」

僕の葛藤なんかに気付く訳もなく、ふみは勝手にテーブルに座ってシャンパン(ただの炭酸ジュース)をグラスに注いだ。
まだ料理並べきってないのに。

「それでは乾杯」
「かんぱーい」

僕はもそもそと、ふみはがつがつと料理を食べ始めた。
……相変わらず品が無い。ふみは本能に忠実すぎじゃないだろうか。
難しい本はいっぱい読んでいるのに、いつも考えなしに行動している気がする。

「青葉」
「何だよ」
「シャンパン注いでくれ」

おまけに我儘で、人使いも荒い。
でも、毎回渋々ながら従ってしまう自分が嫌になる。
はあ、とため息をつくと、ふみが嬉しそうに笑った。

「……見ないでよ」
「ははは、面白いなあ青葉は。あ、これクリスマスプレゼントだ」
「んー、どうも…………って、え?プレゼント?」
「そうだ。豪華だろう」

おかしいな。
僕はシャンパンを注いでたのに、ふみが贈り物をするなんて幻が見える。
でも差し出された包みを触ってみたけど本物だ。

「中身は家で見てくれ」
「あ、ありがとう」
「…………何だ」
「いや、何でもないよ」

まさかふみから何かもらうなんて。
いつ以来だろう。あ、初めてかな。
嬉しい。
予想以上に嬉しすぎて頭がものすごく混乱している。訳がわからなくなってきた。

まあ、とりあえず言えるのは、僕がプレゼントを渡すタイミングを失ったってことか。

やっぱり僕はふみに振り回されてるなあ、なんて改めて思った。




跳ねた心臓の行方
(いつもいつも)
(僕は君に驚かされる)

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Thanks/花洩
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