あえかな花///同性愛

「菊子さん。また来てくださったの」

珍しく、爽やかな風が吹く日だった。
菊子が彼の洋館を訪れると、沙羅は真っ白な寝台の上で半身を起こし読書をしていた。
「沙羅さん、お加減はいかが」
「今日は大分良いのよ。歌も歌えそうだわ」
「まあ、お元気ね」
沙羅の微笑が美しかったので、菊子は恥じらうように目を伏せた。
菊子は女学校の四年級である。そして沙羅は菊子と同級であった。
だが哀れなことに沙羅は生まれつき体が弱く、同級でいられたのもほんの少しの間だけだった。
しかし、その短い間に沙羅と菊子は一番の友人になった。
なので、菊子はこうして度々沙羅を訪ねるのであった。

一番の仲良しと言っても菊子と沙羅は全く似ていない。
菊子はお転婆と言われるくらい元気で、顔立ちもはっきりとしている。
沙羅は物静かで、西洋人形のように繊細な美貌であった。
その上菊子はあまり裕福ではなかったが、沙羅は大きなお屋敷に優しい両親とたくさんのお女中と住んでいた。
この通りに全く反対の二人だったが、仲の良い姉妹のようであった。

「ねえ沙羅さん。何か欲しいものはあるかしら。わたし、今とてもなにかを差し上げたい気分なの」
「あら、おかしな気分ね。でも私、菊子さんがくださるなら何だって嬉しいわ」
菊子の弾むような言葉に、沙羅はいつも静かに答えてくれる。
その様子がまるで自分と違って西洋のお姫様のようだと菊子は思う。
「それなら、白いリボンを贈りましょう。沙羅さんの綺麗な髪にお似合いの、すべすべしたのがいいわ」
「まあ、楽しみ!私、白いものは好きよ」
ぱちん、と手を合わせた様子。少し赤く染まった頬。細い肩。艶やかな髪。長い睫毛。
全てが美しい、と菊子は思った。

本当の本当に、いつの日か見た外国の本の中に出てくるプリンセスのようだ。
そしたらお女中も、この洋館も、庭にたくさん咲く白薔薇も、そして菊子自身も、みんな沙羅の添え物だ。
沙羅は本当にお姫様なのだ。
白薔薇の咲き誇るこの館で、ひっそりと生きている白薔薇姫。
下級の人も上級の人も、みんな憧れている。
一年の人たちなんか特にそうだ。教室の前で毎日ため息が聞こえるくらいに。

それだからこそ、菊子は嬉しくなる。
例え添え物でも、沙羅の一番近くにいるのは自分なのだから。
この愛らしさを見ていられるのは菊子だけなんだから。

「沙羅さん、好きよ」

熱っぽく、囁くように菊子は言った。
私もよ、と沙羅は微笑んだ。
その美しい表情を見て、友情とそれより少し後ろめたい何かを考えながら、菊子は自然と笑顔になった。





あえかな花/あえかなはな
(花言葉:あなたの全ては可愛らしい)
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