悪食の果てに悪戯///幻想
「お菓子をくれたら悪戯しないわ」
真っ黒で、金色で、赤い彼女はそう言った。
ソファで軽く足を組みながら、少しばかり気怠げに。
「お菓子をあげたら悪戯しないんだね?」
「ええ。ワインがあればもっと良いわ」
「君はまだ子供じゃないか」
「失礼ね。一人前のレディよ」
どこからどう見ても少女だ。
床に流れるように長い金の髪に、潤んだ深緑の瞳。
黒いマントを羽織った幼い体に、ひどく不釣り合いな赤い唇。
少なくとも酒が飲めるような年には見えない。
「……分かったよ、少し待ってくれ」
「早くして頂戴ね」
彼女は薔薇の飾りがついたブーツで、床をかん、と踏み鳴らした。
そして、まるでこの家の主人であるかのようにそこに君臨している。
面識もない、知り合いでもない少女。
さっき突然家に上がり込んでいた。
多分、今日がハロウィンだからこうして街を練り歩いているのだろう。
しかし、一人で来たと言うのは不思議だ。
普通なら友達を連れて行くだろうに。
「さあどうぞ、お姫様」
僕は小さな袋に入れた菓子を差し出した。
彼女は無表情のままそれを見ていた。
「これで、悪戯しないんだろう?」
僕が言うと、彼女は無表情のまま言った。
「ええ、約束よ。悪戯なんてしないわ」
しかし突然、彼女は尖った犬歯を剥き出しにして笑った。
「なんてね」
彼女は突然そう言って、僕の細い指をぱくりと啣えた。
温かい舌が指に触れ、どろりと唾液が絡まる。
噎せ返るような甘い匂い。
「お菓子なんかに興味はないのよ」
彼女は口から僕の指を放すと、マントを脱ぎ捨て、黒いレースのドレス姿になった。
身の危険は感じたけれど、彼女から目が離せなかった。
深緑の瞳が僕を見ている。
細く小さな指が僕の首筋を撫でる。
「骨までしゃぶって、愛してあげるわ」
首に爪を立てる、がりっ、という音が聞こえた。
どくどくと、心臓が鳴る。
束の間の恍惚。
寸の間の享楽。
目の前の少女は美しい。
それ故に恐ろしい。
そうか、僕は。
どうやら僕こそが、彼女の為のお菓子だったみたいだよ。
悪食の果てに悪戯(私はただ)(好きなものを食べているだけ)--------------------
Thanks:
カカリア