くらやみにおいてわたくしとは///junk

わたくしは、吸血鬼である。
牙はまだない。

わたくしはまだ幼いので、一年の内数十日しか外に出ることが出来ない。
その内に特に楽しみな日がある。

それは異形の為の祭日、ハロウィンである。

わたくしに人間のことはよく分からないけれど、人間達がわたくしのような異形の仮装をして街を歩く祭らしい。
だからわたくし達のような異形にとっては、堂々と人間の世界を歩ける数少ない機会である。

人間達に混じって家々を回れば、見知らぬ大人の人間がお菓子をくれる。
人間の作るお菓子は普段あまり食べられないので、とても嬉しいことだ。

ところで重要なのは、この祭が夜に行われるということである。

もしもこの祭が明るい昼間に行われるものだったならば、か弱いわたくしは棺桶の外に出ることが叶わずに、ひっそりと眠らなければならなかっただろう。

やはり、わたくし達には夜が似合うのだ。
人間もそれを理解しているようだ。

今宵はハロウィン。

黒々と光る石畳の上を子供の声が駆け回り、大人達は甘いお菓子の匂いを漂わせている。
異形の子らは芳しい血の匂いを追いかけながら、喉の渇きを甘い砂糖菓子で潤すのだ。

嗚呼、祭の主役は子供達だ。

人間も異形も、子供達だけが楽しむことが出来る。

わたくしも牙が生える頃には、もう祭を楽しめないのだろうか。

そんなことを思いながら、わたくしは色鮮やかな砂糖菓子を小さくかじった。



くらやみにおいてわたくしとは
(お菓子を愛し人を愛す)
(一人の小さな異形である)


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Thanks:花洩

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