クレイジーシュガーカーニバル///幻想
部屋中に漂う甘い香り。
菓子と果実とお砂糖が混ざった、あの独特の香り。
「ねえ……まだやるの?」
「う、うるさいっ!次こそはちゃんと出来るわよ!」
部屋の中にはケーキの山。
文字通りケーキで溢れかえっている。
ホワイト、ピンク、チョコレートに塗られた生地。
それにアラザンやシュガーのきらきらと、マジパンの人形の視線。
「もうやだあっ!何で蛙にならないのお!?」
「……ていうか蛙にしたかったんだね」
私が呟くと、彼女はこっちを睨んできた。
そんなことしても何もならない。魔法が下手なそっちが悪い。
彼女はその行為に意味がないのを理解したのか、私に背中を向けて杖を振った。出てくるのはやっぱりケーキだけど。
私は本を読みながら、その奇妙な光景を見ていた。
彼女が杖を振る度、ドスン、と音をたてて大きなケーキが落ちてくる。
……想像力がないんじゃないだろうか。
「ああぁぁっ!!またっ!?」
「……はあ、やれやれ」
甘ったるい匂いが部屋に充満して、空気中に溶けた砂糖がべたべたする。気がする。
もう限界だ。
合理的な方法で修行の産物を片付けよう。
幸い今日は10月31日だ。
「今日はもうやめなよ。蛙出す方法なら明日教えてあげるからさ」
「うぅ……」
「それよりも早くこれ、片付けようよ」
「……うん」
「で、私にね、名案があるんだけどやっていい?」
「いいけど……何するの?」
「見てればわかる」
許可は取れた。
後は本気で楽しむだけ。何だか笑いが止まらない。
すう、と息を吸って杖を振る。
色とりどりの箱、すべすべのリボン。
想像通りのラッピングを。
魔法って本当に便利だ。
「……ま、こんなところかな」
私にとっては簡単だから、たくさんあったケーキは一つ残らず綺麗に箱詰めされた。
「す……すっごーいっ!!」
「簡単じゃん。こんな魔法」
ふっ、と余裕たっぷりに笑うと、彼女は少し拗ねてしまった。今はそんなことしてる場合じゃない。
「今からこれを、人間達に配ります」
「はあ?」
「今日はハロウィンなので、魔女がいても目立ちません」
「いや、だから」
「魔女もたまには慈善事業をしてみましょう」
彼女はぽかんとしているけれど、そんなのかなりどうでもいい。
私が楽しみなのは、堂々と街を歩けるってこと。
ハロウィンってそういうお祭りでしょう?
「……ねえ、本当にやるの……?」
「当然」
私達は近くの街にやって来た。
とびきりのおしゃれをして、黒とかぼちゃ色のそりにケーキを山盛り乗せて、石畳の上を駆けていく。
「トリック・オア・ケイク?」
道行く子供がそう言いながら、ケーキをどんどん減らしていく。
ああ、楽しい。
私達が魔女だとばれていないけれど、子供達はわかっているかのようににやりと笑う。
砂糖の空気、甘い闇、笑い声!
ハロウィンに必要なものが全て揃ってる!
「これ、楽しいかも」
途中でもらった砂糖菓子をかじりながら、彼女はにこやかにそう言った。
「来年も来ようかなあ」
「今度はちゃんと怖がらせられるようにね」
「……う」
今日は本当に下らないことをした。魔女としては最悪かもね。
でもこうして笑い合うことが出来た。
それだけで十分。
私も砂糖菓子をかじりながら、ハロウィンってすごい、と思った。
クレイジーシュガーカーニバル
(私達魔女だって)
(楽しんだっていいじゃない!)
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お題:ケーキ
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