薬指で約束///恋愛

部屋の中には浮足立った空気が満ち満ちていた。
優しくて、でも少し悪戯っぽい、わくわくするような空気だ。

今日は彼女の誕生日。

俺は一ヶ月も前からちゃんと準備していた。
プレゼントも用意したし、部屋も飾り付けた。
勿論、料理も腕をふるった。

去年よりも格段のパワーアップだ。
何故なら彼女を驚かせるため。
毎年毎年、喜んではくれるけど、驚きは全く無いのだ。
おっとりしているからしょうがないかもしれないが、正直動じなさすぎると思う。
……サプライズが成功しないのは結構ダメージなのになあ。

そんなことを考えながらうろうろしていると、玄関のチャイムが鳴った。

彼女だ。
俺は緊張しながら、クラッカー片手にドアを開けた。

「誕生日おめでとう!」

ぱーん、とクラッカーの音が響いて、紙吹雪が舞う。
だけど、それをもろに浴びてる彼女はにこにこ笑っているだけで、全く驚いた気配がない。

しばらく沈黙が流れた。

「ありがとう」
「……どういたしまして」

お礼さえもワンテンポ遅い。
狙ってるんじゃない。これで素なんだ。
でも……でもなあ。
全力だっただけに、俺はちょっと赤面した。

「どうしたの?」
「……何でもない」

ああ、ついでに彼女は鈍感だった。
小さくて可愛いんだけどな。どこか抜けてるというか。

「わあ。ご馳走ばっかり」
「頑張ってみました」
「私、こんな料理作ったことないのに」
「誕生日と五周年だし、ちょっと奮発」
「もうそんなに経ったんだ」

いつものように、彼女は笑う。
普段通り、小動物のように。

彼女の驚く顔は何処にある?

「ねえ」
「なあに」

ぱちん。
小気味良い音を響かせ、小さなケースを開ける。

俺の手の中に収まる箱。
値段は勿論、給料三ヶ月分。
そして、すべすべした布の中にあるのは、小さな金の輪。

「俺と一緒の墓に入って下さい」
「えっ」

男として一世一代の大きな賭けだ。

彼女の肩が、ぴよっと反応した。
大きな目は開かれて、顔はどんどん赤くなっていく。

「びっくりした?」
「う……ん」

彼女はもじもじ、きょろきょろ、全く落ち着きがない。
近くにあったクッションを抱き寄せて、かと思えばばふばふ叩いて。

可愛い。
こんな驚き方だったのか。新鮮だ。

「えと、私でよければ」

よろしくお願いします、と言って、彼女はにこりと笑った。

って、上手く行き過ぎて逆にこっちがびっくりした。
俺は何故だかわからないけど赤面した。

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