君が赤点だから///恋愛
「やばい」
私の目の前で黒田がテーブルに突っ伏している。
手には模試の結果。もちろん、受験生としては崖っぷちの数字。
受験シーズン初期とはいえヤバイ。本当にヤバイ。
「もうだめだ俺はなにをやってもだめなきがする」
「今に始まったことじゃないじゃん」
「お前はこんな点数取ったことないからそんなことが言えるの!」
がばっ、と黒田は顔を上げたが髪はぼさぼさ、眼鏡はずれていて、いかにも敗者の相が滲み出ていた。ていうか敗者だ。
「ああ……もう駄目だ頑張れない」
「やる気出しなよ」
「……どうやったら勉強やるぜー、って気持ちになんの?教えてよ」
「うーん」
今さらそれを聞くか?
将来の成功未来図を描いてみる……はコイツには通用しないだろうなあ。黒田は目先のことしか見れないから。
やっぱり単純にいくしかないよなあ。
「自分にご褒美用意したら?」
「ご褒美ぃ?」
「ある程度勉強したら、お菓子とか休憩とか」
「それがご褒美になるって今初めて知った……いつもとるものじゃないのか……」
「……本とか漫画とか」
「絶対読みふける」
「ゲームとか」
「1日潰れる」
駄目だ。予想以上に馬鹿だこいつ。
早くどうにかしないと一生馬鹿なままな気がする。
「ちょっ、待て待て待て!今頑張って考えるから!」
「ちゃんと真剣に考えろよ」
黒田はうーん、と唸っている。
早くも知恵熱出そうな感じがする。
「お前」
「は?」
突然、黒田の指が私をばっちり指した。何なんだ。意味分からん。
「おっ……まえと帰る権利とかどうでしょうか」
「……はああぁ?」
待って。ちょっと待って。
唐突過ぎる。てか何私なの。どういうことなの。何でだ。
「げ、現在の状況を200字以内で説明せよ」
「要するに、ずっと好きでした」
「字数が足りません」
「えっ」
聞けば聞くほど分からない。ていうか今言うことなのかそれは。ねえ。ラブコメかよ。いつのだ。劣化してんじゃねーか。
「……本気ですかよ」
「だいぶ本気です……」
気まずい沈黙。
何か互いに空気読み損ねた感じだ。確実にミスってる。
「駄目……ですか」
あれ、こいつ成績上げたいんだよね。何でこんなことに。ていうか驚きすぎて頭の色んな場所から覚えた単語が抜けていくよ。わあい。そんなことより成績だよ成績。
「70点」
「え」
「とりあえず、次のテストでそれだけ上げたら考えてやらなくもない」
「お前は鬼か」
主題はきちっと叩き返す。それよか成績だよ成績。
ヤバイの?どうすんの?
ていうか今までのセリフ女ッ気ないし。枯れまくりだよね。
「おっ……けいです!」
「本当かよ」
「今の俺はがぜんやる気さ」「嘘だ」
何か、なるようになった。
黒田は馬鹿だったのか。
「ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「……ただし、次の試験までは行動を制限します」
「むごい!」
私はもしかして馬鹿なのか。
成り行きで、びっくりして、唐突で、まあ普通でいられる私は変なのか。
「出来なきゃ配流」
「はいる、って何」
「……もう一回勉強頑張りなよ」
とりあえず、入れてみた。
まだこれからどうなるか分からないけど、孤独な勉強からはちょっと離れそうだ。結局は一人だけどさ。
「何にやにやしてんの」
「いや別に」
恋も受験も、花が咲くのは来年か。
その頃にはもう少し女らしくなってたら良いのに。
私はほんの少しうきうきしながら、そんなことを思った。
----------------
2000打記念
110128 七瀬さまへ