だまし千三つ口三味線///同性愛

俺こと菊池大輔と、友人である吾川桜弥との関係が一部の女子に噂されているのは大変不本意なことである。

俺と吾川はただの友人であって、そのように噂されるような関係ではないからだ。
しかし仕方がない、と笑うことも出来なくはない。
何しろ我が友である吾川は、夜のように艶やかな黒髪と、この世の美しいものを煮詰めて作ったような真っ黒な瞳、それから透き通るように白い花のかんばせを持つ青年だからだ。
その瞳は何故かいつも真っ直ぐ俺を見ていて、というか俺しか見ていなかったのだからまあしょうがないのかなあ、とは思う。

とは言え、俺と吾川は本当の本当にただの友人同士である。
外を転げ回っていた昔から今まで、俺と吾川は親友だ。皆が期待するような事態になることはない。

そう。例えバレンタインに吾川が手作りのチョコケーキをワンホール俺にくれたとしても、悉く祝い事を共有しようとしても、毎日登下校時に俺と自転車の二人乗りをしても。
それは大いなる友情があってこそのことだ。俺が言い張ってる訳じゃない。吾川本人が言ってるんだ。

いつだってあいつは、「友人だからね」と一言言うだけ。これが奴の口癖だ。
俺に向ける友愛のひとかけらでも、女子に与えてやったらあいつの世界はもっと上手く回るだろう。

そうすれば、今、吾川が俺の机の上で手作り弁当を広げるような妙な事態にはならない筈だ。

「……おい、吾川」
「あれ、もしかして今日お弁当持ってきた?」
「そうじゃなくて、何だよこれ」
「何って、お弁当だよ」
「誰のだよ」
「僕と、菊池の」
「何で俺のまであるんだ」
「だって、菊池が最近購買か食堂しか行かないから。心配してるんだよ」
吾川の薔薇のかんばせがほころぶ。
途端、あちこちからため息やらひそひそ声やら、視線やらがぶつかってくる。
そろそろ、その笑顔を使うタイミングと相手を見極めて欲しい。
「別に頼んだ覚えは無い」
「僕の一方的な好意だよ。友人だからね」
ぱちん、とウインクが飛んで来たが、これもやるべき相手を間違えている。
「ほー、わざわざ。恋人でも何でもない俺に手作り弁当かよ」
「何だか今日の菊池は意地悪だなあ」
「普通に考えてみろよ」
「だって普通じゃないか」
「どこが」
「友人だからね」
「おかしいだろ」
「恋愛よりも、友情の方が尊いのは本当さ」

重い沈黙が流れる。ついでに視線も俺達に集まる。
吾川の言うことは確かに正論らしくはあるけれど。

「……まあ、友人だからな」
「そうとも。友人だからね」

ここまで言ってる人間を論破する技術なんて、俺は持ち合わせていない。
とにかく大人しく従っておけばいいのだ。
やましいことなど何もない。だってこれは友情だからな。

「さあ菊池、口を開けて」
「……お前が食べさせるのかよ」
「勿論。友人だからね」

確かに何か色々と引っかかるものはあるが、細かいことを気にしてはいけない。
これは断じて友情だ。清く美しい友人関係だ。
しかし、吾川が厄介な友人であることは変わりなく。
俺はこれからもこの細かな違和感に悩まされ続けるのだろうなあ、と思った。



だまし千三つ口三味線
(題:男の子同士の友情)
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