小さな砂糖菓子の国///恋愛

「入ってこないで」

小鳥のように可憐な声が俺をぴしりと拒絶する。
いや、声だけじゃない。

チョコレート、キャンディ、グミ、クッキー、ケーキ、マカロン。

俺の目の前にはカラフルで甘ったるいお菓子がうずたかく積まれ、その向こうにいるちっちゃな幼なじみと共に俺を拒んでいた。
しかしいくらあいつが小さいとはいえ、人一人をすっぽり隠す量のお菓子なんてよくもまあ集められたもんだ。正気の沙汰とは思えない。

「結花、出てきなさいって」
「いや」
「ほーら、ぐるぐるキャンディだー」
「ばかにしないでよ」
「……ごめんなさい」

さすがにここまで拒絶されると悲しくなってくる。
で、俺は何をしているかというと、この引きこもり癖のある幼なじみをどうにかして外へ出そうとしているって訳だ。
何せ可愛いぬいぐるみとお菓子のお城に住んでるわがままなお姫様だから、引きずり出すのが大変だ。
しかも二人暮らしの父親に甘やかされ放題。
だからこそ俺が投入されたんだけどな。

このちっちゃいお姫様は、一週間前から突然学校を休んで引き込もってしまった。
理由は言わないけど分かってる。つまらない意地なんか張るから、女子とぎくしゃくしてるんだ。
昔っからそうだ。チビの癖に強がって男子と遊んで怪我したり、人の厚意を無駄にしたり。
もうそろそろ、頑固でいる方が疲れるって分かれよ。
まあ他にも、こいつがめちゃくちゃ頭良いとか可愛いとか、そういうのもあると思うけど。

「……お邪魔しまーす」
「あ、ばか!入ってくるなって言ったのに!」
「知りませーん」
結局強行突破することにした。
案の定、キャンディやらマカロンやらがぽこぽこ投げつけられたが全く効かないぜ。
何とか向き合えるだけのスペースをこじ開ける。

真っ正面から俺を睨みつける強気な視線。真ん丸の瞳がぴかぴかしている。
茶色のボブヘアに父親からもらった赤いカチューシャ。
どう見たって小学生くらいの小さな体。
お気に入りのうさぎのぬいぐるみをぎゅっ、と抱きしめ不機嫌そうな顔をしている。

「ばか、ばか、ばか。コウは入っちゃだめ」
「……あのなあ、いい加減機嫌直せよ」
「何で。わたしは悪くないもん。向こうが悪いもん」
「お前が文句ばっか言うからだろー。あいつらだってお前と仲良くしたいんだからさあ」
「知らない。別にいいもん」
「……じゃあ何でまた引き込もってんだよ。本当はちょっと後悔してんだろ?」
「してないもん」
「嘘つけ」
「嘘じゃない」
ぽこん、とキャンディが投げつけられた。
「コウなんかに私の気持ち分からないもん」
「何かされたのかよ」
「別に」
「ちゃんと言えって」
ふるふる、と首を横に振る結花の目には涙がいっぱいで、今にも溢れそうだった。
「俺は別に何もしねーよ」
「大丈夫だもん、別にっ、コウなんかいなくても」
限界だったのか、真ん丸の瞳からは次々に涙が溢れていく。
ああ、もう。素直じゃない奴め。
そういえば、昔からこいつが泣くのはお菓子に囲まれた時だけだった。
まるで、童話のお姫様だ。
しかし、お話の中よりもずっとわがままで、意地っ張りで、泣き虫な小さなお姫様を放っておけないのが俺だった。

「ほら、泣くな」
「うええぇん、コウのばかああぁ」
「ぐるぐるキャンディやらねーぞ」
「ひっく、そんなの、いらないもん」
「じゃあ食ってしまおう」
「コウのばかああぁぁっ!」
「痛え!殴るなよ!」

キャンディ一つで釣れてしまうこいつは可愛くて、俺はいつまでも従者なんだろう。
まあでも、お菓子に埋もれているくらいが、子供の俺達には丁度いいんだろう、と思った。




小さな砂糖菓子の国
(涙で溶けちゃうの)
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お題:お菓子の家
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