3万打 | ナノ

※微裏表現あり&デレ紅矢(当サイト比)






最近のあたしには、大変解せないことがある。






「ヒナタ」

『ん?』


チュッ


『ーーーっま、また…!!』

「はっ、避けねぇテメェが悪い」


そう言って部屋を出ていってしまった横暴キング、そしてその場にポツンと残されたあたし。いや酷いよね。

そう、これ。これが原因。

大体1ヶ月くらい前…かな?ポケモンセンターで借りた部屋にてあたしがテレビを見ていたら、近寄って来た紅矢があろうことか突然あたしの頬にキスをした。

当然驚いたあたしは声にならない叫びを上げて、ソファから飛び退くように紅矢から距離をとった。するとそんなあたしを見てニヤリと笑った紅矢はこう言い放ったのだ。


「おいヒナタ、俺のモンになれ」


…何てまぁ不遜な物言い。紅矢らしいと言えば紅矢らしいけれど。ていうかそれってどういう意味!?

あたしが何か言う前に紅矢はしれっと部屋から出ていってしまったし本当に謎。今のキスって…一体何だったんだろう。

その日から、紅矢がおかしくなってしまったのです。(本人にこう言ったら殴られたけれど)

あたしを無理やり座らせたかと思えば自分は後ろに回って抱き締めてきたり、大好きな甘い物をあーんして食べさせてきたり。

そして何より謎なのは…やっぱりキス。唇にされたことはないけれど、さっきの頬とかおでことか…あと髪を結んでいたら首にもされたっけ。

紅矢は元々何を考えているか分かりやすい方ではないから、逆にこうしてあたしがグルグル悩んでしまう。

普通、キスとかって好きな人にするものじゃないの?紅矢はあの時俺のモンになれって言ったけれど…それからは何も言って来ない。

そもそも俺のモンってどういう意味?…恋愛感情とかじゃなくて、何でも言うこと聞いてくれる存在がほしいという意味なのかな。


(あーもう、何であたしがこんな悩まなきゃいけないの!?)


ブンブン頭を振って必死に脳内を占める紅矢を追い出す。全く横暴キングってば人を振り回してさ!


(…でも、きっと紅矢はあたしのこと好きとかそんなんじゃない。ただからかって遊んでいるだけだよね、多分)


紅矢があたしを好きになるなんて…正直考えられないし。あれ、何でだろ?何か悲しくなってきた。

とにかくもう気にしちゃダメだ。こうやって色々考えてるから紅矢のムカつくくらい整った顔とか低い声とかが頭から離れないんだよ!

あたしはうんうんと1人頷いて、何事もなかったかのようにココアを啜り雑誌を捲った。うん、カミツレさんやっぱり素敵!美しい!

こうして憧れのカミツレさんに紙面越しで癒されたあたしは、紅矢からの謎のスキンシップのことなどすっかり忘れてしまった。









…なんて、無理だったらしい。


「ねぇ、あの人超カッコ良くない!?不良っぽいけどそれがまた良いよね!」

「ちょっと声かけちゃう!?誘ったらOKしてくれるかも!」


いいえ、すみませんがそれは危険な行為だと思われます。紅矢って知らない人に軽々しく声かけられるの嫌いなんだと思う。何回も舌打ちしているの見たことあるしね。

あたしの隣で棚に並ぶお菓子を物色している紅矢をジトリと見上げてみるけど、当の本人は気付いてないらしい。全く…モテる癖に何で乱暴なことしか言わないのかな。

声をかけようか決めかねているらしい女性達は、唐突に視線を紅矢からあたしに移した。それは紅矢に向けるような恍惚としたものではなくて、憎悪に満ちた暗い眼差し。その理由なんてあたしにでも分かるけどね…。


「何あの子…まさか彼女?」

「まさか!あんな子供っぽい女が彼女とか有り得ないでしょ!」


こ、子供っぽくて悪かったね!あたしだって童顔なの気にしてるのに!ていうか思いっきり聞こえているし…もしかしてワザとかな。


(…彼女とか有り得ない、か…そんなの、言われなくても知ってるよ)


紅矢はあたしから見てもカッコ良いと思う。暴言ばかり吐くし実際手が出ることだってあるけれど、それでも紅矢を嫌いにならないのはそんな彼に魅力を感じるからだ。たまに見せる笑顔とか、素直じゃない優しさとか。そんな一面を知ってるからあたしや仲間達は紅矢が好きだ。

そんな紅矢とあたしが釣り合わないことなんて誰が見ても一目瞭然。あたしはカミツレさんみたいに美人でスタイルも良い訳じゃないし、澪姐さんみたいに大人の魅力も持っていない。

…って、あれ?何であたし紅矢と付き合ってもいないのにこんなこと考えているのだろう。そもそも紅矢はあたしのことなんか好きじゃないのに…あれ?


(…じゃあ、あたしは?)


あたしは、紅矢をどう思っている?


「ねぇねぇお兄さん!私達とどこか行かない?」

「…あ″?」

『!』


甘ったるい、艶を孕む女性特有の声。豊満な体をくねらせるように近付いてきた女性達は、あたしを一瞬睨んですぐ紅矢に熱い視線を向けた。

対する紅矢はいつも通り冷たい顔…でもそんな彼に退くことなく誘い続けている。

…やっぱり、紅矢にはこんな大人の女性が似合っている。いや彼女でもないあたしがこんなこと思うのは変かもしれないけれど。

どこか遠い目で女性2人に囲まれている紅矢を見つめていたあたしは、いつの間にかポロポロ涙を流していた。


「ちっ…ウゼェ、離れろ。おいヒナタ!さっさと行…、」


ピタリ、紅矢の動きが止まった。珍しくどこか驚いたような表情…それもそうか、だってあたしは訳も分からず泣いているのだから。


『っあ、えっと、目にゴミ入ったみたいで…部屋に戻って洗って来るね!』

「…おい、」

『へ…!?』


涙でグシャグシャになった顔を何とかごまかす為に嘘をついたら、突然紅矢があたしの腕を掴み強く引き寄せた。


「…戻るぜ、アホヒナタ」

『は、え!?』


ジッと見つめられたかと思ったら一瞬で宙に浮いたあたしの体。まるで荷物でも運ぶかのように、あたしを肩に担ぎ歩き出したからさすが紅矢様とトンチンカンなことを考えてしまった。

無視された女性達の非難の声は当然無視で、ずんずんと廊下を歩き部屋へと辿り着く。乱暴にドアを閉め、リビングに向かったと思えばあたしは思い切りソファに放り投げられてしまった。よかった今誰もいなくて…!絶対蒼刃と喧嘩になっているよ。


『っわ!ちょ、痛いって紅矢!』

「うるせぇ、黙ってろ」

『は…んっ?』


あたしが反論しようと口を開いた瞬間、唇が何か柔らかいもので塞がれた。判別出来ないくらい近くにある紅矢の顔と、あたしの頬にかかる赤い髪でキスされているのだと理解する。

え、ていうか、口に…されてる…!?何で、だって、今までしたことなんか、なかったのに。


『っむ、や、やめて!』


あまりにも突然の事態に頭が追い付かないあたしは必死で紅矢の肩を押して解放を求めた。すると意外にもあっさり離れた逞しい体。

何を考えているのか読めない瞳はただジッとあたしを見つめている。何も言ってくれないのが更にあたしを追い詰めて、再びあたしは泣き出してしまった。

けれどしゃくり上げて涙を流すあたしに何を思ったのか、不意に頬に手をかけて顔を上げさせた紅矢。さっきまでの無表情とは違って、少し眉を寄せてどこか困ったような顔…うわ、こんな紅矢初めて見た。


「…何で泣いてやがんだ」

『へ…?』

「テメェの泣き顔は好きだ。だがそれは、俺が泣かした場合に限る。他の誰かに泣かされたテメェの顔は気に入らねぇ」


やっと言葉を発したかと思ったら予想外のセリフ。本当に理由が分からないといった様子だ。おまけに、気に入らないって…!

そんな紅矢を見て沸々とあたしの中に溜まっていた感情が爆発してしまった。


『…っこ、やの…紅矢のせいだよ!あたしは紅矢のせいで泣いてるの!キスとかしてくる癖に何で何も言わないの!?さっきみたいにモテる癖に…っ何でそうやってあたしをからかうの!?もう止めてよ!あたしの頭の中紅矢でいっぱいになっちゃって、息も上手く出来なくなって苦しいの!もう、訳分かんな、っん…!?』


ボロボロ泣きながら思いを吐露していたら途中で再び口を塞がれてしまった。あ、また…!

あたしの顔をガッチリ固定して逃げないようにされ、口の中に何か滑りを帯びた肉厚なものが侵入してきた。それはあたしの舌を巻き込み粘着質な音を響かせ思考をグズグズに溶かしていく。

口の中で暴れ回るのが紅矢の舌だと理解して必死に抵抗したが一切意味を持たない。やっと解放されたかと思うと、両手を紅矢の片手でまとめられ固定されてしまった。


『っふ、ぁ…っな、何するの…!』

「…煽んな、バカが」

『は…わっ!?』


首元にかかる紅矢の髪がくすぐったい、そう思った途端チクリとした痛みが全身を走る。次いでその箇所をベロリと舐められ体が震えた。


『いっ、な、何?』

「テメェにマーキングした。コイツは俺のモンだってな」


サラッとまた言った俺のモン発言。これは、一体どういう意味なんだろう?でもでも、口にいっぱいキスされたし…今までのとは少し違う感じがするのは気のせいだろうか。

急展開について行けないあたしはそれでもグルグルと思考を巡らせる。するとそんなあたしに構うことなく紅矢は無遠慮にあたしの胸をわし掴んだ。


『え、ちょ!?な、何してるの紅矢!』

「喚くな、もっとイイ声で鳴け」

『は…!?』


わし掴むのを止めて優しく、やわやわと揉まれてメチャクチャ恥ずかしい。真っ赤になったあたしの頬を紅矢が甘噛みした。


「ったく、テメェは…肝心なことは鈍くて腹が立つ」

『は、腹が立つって…それはあたしだよ!こんなからかい方有り得ない!あたしのこと好きじゃないならハッキリ言えばいいのに…!』


つい零してしまった、ずっと気になっていたこと。紅矢は何故あたしにこんなことをするのか。こういった行為をしたことがないあたしをからかって遊んでいるのだとは思うけれど、好きじゃないなら…そうだときっぱり言ってほしい。


「アホ、誰がテメェを好きじゃねぇなんて言った」

『え…?』

「俺はテメェが好きだ、何度も行動で示してただろうが」

『は…え、こ、行動?まさか…抱き締めたり、キスとか…?』

「そうに決まってんだろうが、好きじゃねぇ女に誰がんなことするかよ。俺はそんな酔狂じゃねぇ」


待って、じゃあ…紅矢は、あたしが…好き…?


「…分かってねぇのはテメェだ。俺にキスされる度…俺のことばかり考えるようになったんだろ?」

『…う、うん…』

「それでもテメェは、自分の気持ちに気付かねぇつもりか」


あたしを真っ直ぐ見つめる紅矢の瞳で思い知らされる。…本当は、分かっていたのかな。あたしは…紅矢を好きになっていたんだって。


「つまりさっきの女共に妬いたんだよテメェは。はっ、いっちょ前に嫉妬心は持ってやがんのか」

『な…!?べ、別に妬いてなんか…!』

「俺は妬くぜ」

『!?』

「テメェに近付く野郎は皆気に入らねぇ、ぶっ殺してやりてぇ。テメェは俺だけ見てりゃいいんだよ」


スルスルとあたしのスカートの中に差し込まれた手が太腿を撫でる。いつの間にか両手を拘束していた手も離れて自由になった筈なのに、あたしは紅矢から一瞬も目が離せなかった。

喉に口付けられ下着のホックを外され、直接肌に触れられる未知の感覚に体が震える。元々体温の高い紅矢の体も、まるで火傷してしまいそうなくらい熱く感じた。


『っぁ、ま、待って…!ひゃっ!?』

「はっ…イイ声になってきたじゃねぇか」


紅矢の熱い手や舌があたしの至る所をなぶり理性を取り払っていく。あぁ、もうダメだ。抵抗する気も無くなってしまう。

大人しくなったあたしを見てニヤリと笑い、優しい口付けを落とした紅矢はこう言った。


「もう一度言う。俺のモンになれ、ヒナタ」


…最後まで、横暴キングだ。




ーーーーーーーーーーー




『あー…何でよりによって一番暴力的な紅矢を好きになっちゃったんだろ…』

「いい度胸だなテメェ…!」

『いだだだ!ほらこれ!これが嫌なの!』


頭をギリギリと締め上げられ悲鳴を上げる。本当何でだろう、あたし暴力は嫌いな筈なのに!


「言っとくが今更無かったことにはしねぇからな。テメェはもう俺から逃げられねぇ」

『…わ、分かってるよ』


ていうか、逃げる気なんてないし。…紅矢のこと好きなのは、自覚しちゃったから。


こうしてあたしは、この最狂の王様に陥落したのです。




(どうしよう、自覚したら紅矢がいつもよりカッコ良く見える…!)

(…もう一戦ヤるか、来いヒナタ)

(えぇえええ無理無理ぎゃぁあああ!!)



end


  
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