3万打 | ナノ

※ハッキリとは書いていませんが、途中下ネタがありますので苦手な方はご注意を







「ねぇヒナタ、お子様ランチというのはボクも食べられるものなのかい?」

『…えっと、色々ツッコミたいことはあるんですけど…とりあえずそれはちょっと難しいんじゃないでしょうか…?』


あたしの答えを聞いたNさんは、それは残念そうにしょんぼりと肩を落としてしまった。あ、何かゴメンなさい…じゃなくて!


(な、何でNさんはここにいるんだろう…?)



あたし達は今日久し振りにヒオウギの自宅へと戻ってきていた。けれど驚かせようと思い連絡をせずに帰ったことが不味かったらしく、タイミング悪くハル兄ちゃんは不在。イッシュから遠く離れたジョウトで開かれる学会に参加しなければならなくなったようで、斉達も連れて早朝から出張に出てしまったとのことだった。

せっかく帰ってきたのなら1日ゆっくりしていけばいい、と言ってくれたから今日は自宅で過ごすことにしたのだけど…やっぱりハル兄ちゃん達に会いたかったなぁ。斉に言われた通り、次はちゃんと連絡してから帰ろう。

そして夕方近くまで皆とのんびり過ごし、先ほど食材の買い出しから戻ってきたところだった。さぁそろそろ夕飯の支度をしようと思った矢先、インターホンが鳴って誰が来たのかと思えばまさかのNさんが立っていて、冒頭の質問をされたのである。


『…Nさん、もしかしてそれを聞く為にここへ来たんですか?』

「うん、そうだよ」

『マジですか』


さすがNさん、相変わらず何を考えているのかよく分からない不思議さんだ。以前にも一度ヒオウギに住んでいるポケモン達に所在地を聞いて訪問してきたことがあったから、ウチに来たこと事態は特に驚かないけれど…質問の意図は正直言ってさっぱり謎である。


〈電波の言うことを真に受けたって無駄だよヒナタちゃん〉

『こ、こら雷士!』

「やぁ、元気だったかい?」

〈君が来るまでは元気だったかもね〉


あたしの肩によじ登り、さらりと毒を吐く雷士。どうやらNさんのことがあまり得意ではないらしい。まぁ当のNさんは全く気にしていないみたいだけどね…。

雷士にニコリと微笑みかけたNさんだったけれど、先ほどの質問の答えを思い出したのか小さく溜め息を吐いた。うーん…どうしてこんなに落ち込んでいるのかな?Nさんにとってわざわざウチに聞きに来るほど大事な用件だったのなら、その答えだけ言って追い返すのは何だか憚られる気もする。なら何はさておきせっかく来てくれたのだし、お客様として歓迎しながら話を聞かせてもらうのがいいかもね。


『Nさん、立ち話も何ですし中に入りませんか?』

「…いいのかい?」

〈僕は嫌なんだけど〉

『雷士の言うことは気にしないで下さい!さ、どうぞー!』


何が気に入らないのかは分からないけれど、ムスッとした顔の雷士をスルーしてNさんを招き入れる。一応ご機嫌取りで雷士の頭を撫でてみると少しだけ表情が和らいだ。あ、ちょっと可愛いかも…。

靴を脱いでスリッパに履き替えたNさんは何だかそわそわ落ち着かない様子。ひょっとして他人の家に入ったのは初めてなのかもしれない。キョロキョロと辺りを見回すNさんをリビングへ案内すると、そこで寛いでいた皆…主に嵐志が大きく反応した。


「N!?アンタ何でここに…!」

「やぁ嵐志!元気そうで良かった」

「あ、おー…おう。ぶはっ、相変わらずマイペースだな!」


初めはすごく驚いていたけれど、すぐに笑顔を見せて再会を喜ぶ。この2人は昔からの友達だもんね…嬉しそうな様子を見るとやっぱりNさんを招き入れて良かったって思うよ。


「おやおや…珍しいお客様ですね」

『うん!さ、座って下さいNさん。お茶出しますから!』

「ありがとうヒナタ」

「私の分も頼むぞミカン娘」

『はー…い?』


あれ?何か今Nさんでも雷士達でもない、低くて綺麗な声が聞こえたような…


「お前の淹れた茶は中々美味だった。まさかNにのみ出すとは言うまい?」

『れ…っレシラムさん!?』


声がした方をゆっくり振り向くと、そこにはNさんと一緒に悠然と席についているレシラムさんがいた。い、一体いつの間に…!?雷士達も全く気付かなかったようで、それぞれ目を見開いて驚いている。ただ1人、Nさんだけは普段と変わらずほわほわと笑っていた。


『あの、レシラムさんいつ擬人化したんですか…?』

「何を言う。私ほどの存在にもなればボールから出る瞬間に人の姿を取ることなど造作も無い」


そうさらりと言ってテーブルの上に置いてあったお菓子をつまむレシラムさん。な、何かもう既に寛いでいる…。でもすごいな、さすが伝説のお方だ。ポケモンは普通ボールから完全に出ないと擬人化出来ないものだと思っていたのだけど彼は違うらしい。

レシラムさんの要望通り温かいお茶を2人に出すと、ゆっくりと一口飲んで満足そうに微笑んでくれた。あたしが淹れたからというか、茶葉の味が良いから美味しいんだとは思うけれど…。


「おいヒナタ、まさかコイツら茶をたかる為だけに来たんじゃねぇだろうな」

「この私がそのようなセコい真似をする訳がないだろうトマト小僧」

「テメェそのふざけた呼び名やめろっつっただろうが…!」

『ちょ、ちょっと紅矢…!』

〈一応用があって来たみたいだけど?お子様ランチがどうとか…〉

「うむその通り、タンポポ小僧は意外にも人の話を聞いているのだな」

〈何その感心した顔ムカツクんだけどそれに呼び方もムカつくしとりあえず表出なよ〉

『ノンブレス怖い!!』


ていうか物騒だよ2人共!レシラムさん独特のあだ名が気に入らないのは仕方ないけれど、お願いだからこんなところで喧嘩もとい戦争はやめてほしい…。パチパチと頬から火花を散らす雷士と、擬人化状態でも顕在な鋭い犬歯を見せ睨み付ける紅矢を何とか宥める。レシラムさんはそんなあたし達の様子を見て面白がっているような笑みを浮かべていた。


「ねぇマスター、お子様ランチって、どんなの…?」

「僕も単語として聞いたことはありますが…実物を見たことはありませんね」

「俺はお恥ずかしながらお子様ランチなどという言葉も初耳です…。申し訳ありませんヒナタ様!やはり知識ではまだ氷雨に劣る部分があることは否めません…しかし必ずやこの後れを挽回してみせます!」

『い、いや全然謝ることじゃないからね!?気にしなくて大丈夫だから!』

「ははっ、相変わらずキミ達は仲良しだね」

「まーな!」


本気で悔しそうな顔をしてあたしに力強く詰め寄った蒼刃だったけれど、後れが何かもよく分からないし今のままで充分すごいのになぁ。それよりもあたしは蒼刃が至近距離で顔を近付けてくることの方が気になるよ…。いきなり美形の顔が目の前に来るのって慣れないし。でも、そっか…確かに野生のポケモンやその時代が長かったポケモンはお子様ランチなんか見たことないかもね。


『お子様ランチっていうのはね、オムライスとかハンバーグとか…子供に人気のある主食とおかずをランチプレートに盛り付けたものなの。主にファミレスとかで出されるメニューで、子供が食べきれるように量も少なめになってるんだよ!ご飯の上には小さな旗が立てられたりして、プレート自体が可愛いものが多いから見た目もカラフルなんだー』

「う、うわぁ…すごい、ね!」


イメージしたのかキラキラと瞳を輝かせる疾風に微笑みかける。あたしも思い出すなぁ…小さい頃はハル兄ちゃんに何度か食べさせてもらったっけ。


「ミカン娘、お前は先ほどNにお子様ランチなるものを食べるのは難しいと言っていたが…それはその名の通り、子供が食べるものだからなのか?」

『はい…全てではないのかもしれませんけど、大抵のお店はお子様ランチを注文出来るのは小さな子供だけって設定していると思います。年齢は多分…せいぜい10歳以下までとかじゃないかな?なので…、』

「そりゃ確かにNには無理だなー」

「…そうだね…」


あ、またNさん残念そうな顔をしてる。…これはもしかして…


『Nさん、お子様ランチが食べたいんですか?』

「うん…一度も食べたことがなくて」

「たまたまテレビとやらでお子様ランチを見かけたのだが、Nの奴その映像に釘付けになってしまってな。しかしどの店でどう注文すれば良いのかは勿論、お子様と名についている以上果たして注文出来るのかすらも分からず…」

「なるほど、それを聞ける人間はヒナタ君しかいなかったというわけですね」

「うむ。…Nは幼少期の殆どを野生のポケモンと過ごしてきたようだからな、そのようなものを食べる機会に恵まれなかったのだ」


レシラムさんの言葉を聞いたNさんが、目を伏せて湯飲みを握る手に力を込める。やっぱりそうだったんだ…確かプラズマ団にいた頃は人間が苦手だったって言っていたし、ファミレスとか行ったことないのも納得だね。

そんなNさんがあたしを頼って来てくれたのなら…何とかしてあげたい。


『あの、良ければあたしがお子様ランチを作りましょうか?』

「…え?」

『極力本物に近付けられるように頑張りますから!』

「ほ…本当かいヒナタ!」

『は、はい!ちょうど色々食材も買ってきてあるので…』

「ほう、これは楽しくなってきたな」


頬を紅潮させたままあたしの手をがっしり握るNさん。彼にしては珍しく興奮している様子だ。よっぽど嬉しいみたいだし…うん、頑張ろう!


「き、貴様…!ヒナタ様のたおやかな手を握るなど!!」

「まーまー落ち着けって!なー姫さん、オレらも食わせてもらえんのか?」

『え?そりゃもちろん!せっかくだし皆にも食べてもらいたいからね!』

「ほら聞いたかよそーくん!姫さんが作ってくれるって言ってんだからこのまま大人しく、」

「さすがはヒナタ様、お優しい…!俺もお手伝いしますので何なりと命じて下さい!おい離せ嵐志!俺はお前に構っている暇などない!」

「オレの扱いひでーな!!」

〈大丈夫、通常運転だから〉


嵐志の手を振りほどいて、一瞬であたしの目の前に飛んできた蒼刃に思わず苦笑いする。蒼刃は本当に良い子なんだけどたまに暴走しちゃうところがあるんだよね…でも善意だから無下にも出来ない。それなら少しだけ手伝ってもらおうかな?


(まともに料理をするのは久し振りだけど…美味しい物を作らないとね)


ワクワクと心待ちにしているNさんや疾風達の為にも。

あたしは早速食材を確認して、頭の中でメニューを考えながらキッチンに立ったのだった。


  
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