3万打 | ナノ

『あたし観覧車乗って来るね!』

〈…は?〉


ポケモンセンターで借りた一室にて、雑誌を読んでいたヒナタが不意に放った一言。それはまるでトイレに行って来ると言うのと同じくらい軽い調子の声色だった。

あまりにもサラッと言い残して出支度を始めるものだから、雷士も思わず間の抜けた声を発してしまう。そしてヒナタが上着を羽織った所でようやく我に返り、ちょっと待てと原型状態の小さな手で服の袖を掴んだ。


〈待ちなよヒナタちゃん、観覧車ってライモンの?〉

『うん!』

〈じゃあ今この場所は?〉

『ソウリュウシティだね』

〈そうだねならどうやって1人でライモンまで行くつもりなの君がアホなのは知ってるけど冗談も程々にしないと僕怒るよ?〉

『いだだだだもう怒ってる!!静電気バチバチ言ってるよ雷士くん!!』

〈ふん〉

『うぅ…無表情&ノンブレス怖い…』


お得意のお仕置き静電気を流し終えた雷士は、尻尾で床をたしたしと叩きながら少々ご立腹の様子。 対するヒナタは涙目になりながら、余韻でピリピリと痺れる手をそっとさすった。


〈…で、どうやって行くつもりだったの?〉

『電車で…ほら、最近ライモンからソウリュウにも線路引かれたでしょ?それに乗れば1人でも行けるかなーと思って!』

〈成る程ね…でも、時間かかるし僕達を連れて行かないなんて危険過ぎるよ〉

「雷士の言う通りですヒナタ様!もしも貴女が道中でプラズマ団や他のガラの悪い連中に絡まれたらと思うと俺は…!後生ですからお一人での遠出はお止め下さい!!」

『えぇえええ蒼刃ってば泣くほど!?わ、分かったよ分かったから近い近い近い!!』


ヒナタの両肩をがっしり掴み、鼻先が触れそうになるほどの至近距離で懇願されてしまえば押しの弱い彼女は引き下がる他なかった。加えて普段より蒼刃の困り顔に弱いヒナタにとって、プラス涙目というのは精神的に効果抜群である。


「つーか姫さん、何で急に観覧車乗りたいなんて言ったんだ?」

『それはねー、じゃん!これこれ!』

「んー?」


ヒナタが皆に向けて見せたのは、先程彼女が読んでいた雑誌。それは愛読しているファッション雑誌で、ヒナタが指差したページを見ると彼女が敬愛してやまないカミツレが艶やかにポーズを取っていた。

そしてカミツレのバックに映るのはライモンシティの観覧車…更に煽りとしてでかでかと書かれていたのはこんなフレーズ。


「【今だけ!ライモンシティの観覧車に乗った方限定でイッシュが誇るスーパーモデル、カミツレちゃんと記念撮影が出来る!】…あー、なるほどな」

『この観覧車が建てられてから今月でちょうど10周年なんだって!だから今特別にこのイベントがやってて…もうすぐ終わっちゃうから絶対行きたいの!』

「そ、そっか、マスターはカミツレさんのこと、大好きだもんね」

「そうでしたか…分かりましたヒナタ様、ならば俺がお供致します!」

『へ?』

「おや蒼刃、抜け駆けは感心しませんね。何よりヒナタ君を1人で行かせるなど狼の群れに羊を放り込むようなものですし、僕も行きます」

『え?』

「さめっちもずりー!オレもオレも!姫さん心配だしな!」

「…遊園地のクレープは中々だったな。おら、とっとと行くぜヒナタ」

『あ、え、そんな…あたしだってそこまで子供じゃないんだし大丈、』

「ま、マスター、ボクも一緒に行きたいんだけど…ダメ?」

『やっだなぁもうダメな訳ないじゃん疾風くん可愛いぃいい!!』

「疾風はこんな所まで蒼刃に似てきたんですね」

〈ヒナタちゃんの反応は微妙に違うけどね〉


何はともあれ、まんまとヒナタを丸め込んだ一行はライモンへ向かうことになった。

…この時彼女達は大事なことを忘れていたのだが、それは遊園地に着いてすぐに思い出すことになる。


  
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