ハロウィンというだけあってポケモンセンターにいるお客さん達も思い思いの仮装をしている。極めつけはジョーイさんの天使の輪っかと小さな羽。し、真の意味で白衣の天使…!
(んーと…紅矢はお酒買いに出てていないし、疾風と蒼刃は…)
2人を探して広い室内を歩く。するとリビングの方から何やら甘い香りが漂ってきたので覗いてみた。
そこにいたのは件の2人。仲良さげにお茶を酌み交わして、静かな空間を楽しんでいるみたい。
蒼刃と疾風も仲良しなんだよね…まぁ2人共落ち着いてて相性はいいと思うけど。
よーし、早速突撃しますか!
『蒼刃、疾風!トリック オア トリートー!』
「あ、マス、ター……、」
「ヒナタさ、ま………!?」
……あれ、何か2人共止まったぞ?蒼刃に至ってはいつものキリッとした吊り目が大きく見開かれている。
『あの、蒼刃…?』
「―――っごはぁっ!!」
『わぁああぁあ!!??』
な、なっ何事ぉおおお!?
蒼刃に声をかけた途端、急激に真っ赤になったかと思ったら鼻血を出して倒れてしまった。いやいやいや大変じゃん助けてジョーイさんタブンネちゃん!!
『そ、蒼刃!大丈夫!?』
「ぅ…っヒナタ様…何故そのようなお姿に…!!嵐志ですか、氷雨ですか!それとも紅矢ですか!?いっそのこと3人まとめて成敗してきますので貴女はここにいて下さい!今のヒナタ様を晒すなど俺には耐えられませんどうせならば俺の前だけでお願いします後生ですから!!」
『怖い怖い大丈夫だから落ち着いて蒼刃くん!!ステイ!ハウス!』
「ま、マスターも落ち着いて!」
疾風に深呼吸を促されて大きく息を吸って吐く。はぁあ…ビックリした。いつも冷静であんまり無駄なことは話さない蒼刃があんなまくし立てるように喋るんだもん!
『え、えっと…とりあえずビックリさせてゴメン。ほら、今日ハロウィンでしょ?だから仮装してみたの』
「あ…確かハロウィンって色んな恰好してお菓子を貰う日、だっけ…?だからマスターも、ボク達にお菓子貰いにきたの?」
『そう、そうなの!さすが疾風くん!』
「そ、そうでしたか…俺の方こそ取り乱して申し訳ありませんでした。ではヒナタ様、お菓子ならばこちらで如何でしょう?」
そう言って蒼刃があたしに差し出したのはお化けの形をした棒キャンディ。うわ、可愛い…!
『これ貰っていいの!?』
「勿論です!先ほどセンターの売店で見つけた物なのですが…ヒナタ様が喜ばれるかもしれないと思って買ったんです。甘い物お好きですよね?」
「ぼ、ボクもこれ…マスター好きそうだなと思って買ったんだ。こんなのでよかったら、貰ってくれる?」
対する疾風がくれたのはピンクのリボンをつけたカボチャ型のクッキー。うわぁあこっちも可愛いし美味しそう!
『ありがとう2人共ー!もう大好き!』
感激のあまりガバッとまとめて抱き付き、嬉々としてキャンディとクッキーを頂戴する。すると何故か2人共真っ赤な顔をして固まってしまい、反応してくれなくなったのを不思議に思いつつその場を後にした。
(…お、あれに見えるは横暴キング!!)
リビングを出たあたしの目に映ったのは廊下を歩いてくる甘党ヤンキーもとい紅矢。彼ならばきっとお菓子を常備しているはず!
『こーやー!トリック オア トリート!』
「…あ?」
ちょ、ガンつけないでドスのきいた声出さないで。ちっちゃい子一発で泣いちゃうよあたしだからまだ良かったものの!
『あ?じゃなくて!今日ハロウィンでしょ?お菓子ちょーだい紅矢様!』
「………無い」
…あれ、何か今紅矢がニヤリと笑ったよ?今の笑い方は経験上ろくなことが起きないんだけど…!
「無い、つっただろ」
『うぇ!?』
ずい、と壁に追い詰められたあたしに逃げ場は無くなる。え、え?何この状況?
「菓子をくれなきゃイタズラ、だろ?俺は今菓子は持ってねぇ。ならテメェは俺にイタズラしなきゃならねぇよなぁ…?」
ひぇええええ怖すぎる横暴キング!!ていうか殺される!!
「なぁヒナタ…どんなイタズラしてくれんだ?」
『ひぃっ!?』
スルリと腰を撫でられ上擦った変な声が出る。うわわわゾワゾワするからやめてぇえええ!!
「テメェが出来ねぇっつーなら俺がやってやる。拒否は認めねぇ」
『うわぁあああ暴力反対!助けて蒼刃ぁあああ!!』
「紅矢貴様ぁあああ!! ヒナタ様から離れろケダモノが!!」
「…ちっ、」
間一髪、すごい勢いとスピードで現れた蒼刃の回し蹴りをかわした紅矢はさすが喧嘩慣れしてる。それにしても助かったよありがとう蒼刃…!あのままじゃあたし死ぬ所だった!
「邪魔すんじゃねぇよ蒼刃、俺のモンに何しようが俺の勝手だろうが」
「やはり貴様は1度死ななければ分からないようだな…!そもそもヒナタ様は貴様のものではない!」
一触即発、というか既にゴングが鳴った。擬人化状態の肉弾戦でも迫力あるとか怖いよこの2人!巻き添えくらわないようにこっそり逃げよう…。
−−−−−−−−−
『はー…結局お菓子くれたの蒼刃と疾風だけだったなぁ』
何とか紅矢と蒼刃の修羅場から抜け出したあたしは自分にあてがわれた個室へと戻った。
せっかく貰ったんだしどちらかのお菓子を食べようかなーと思っていた時、ベッドでスヤスヤ眠っている雷士を発見。珍しい、擬人化して寝てるよ。
(まーた人の寝床占領して…。あ、そういえば雷士にはまだ絡んでなかったよね?)
寝起きの雷士にお菓子をねだったらどんな反応をするだろう。何か普段は見せない面白い反応をしてくれるかもしれない。そんな風に思い立ったあたしは雷士にそっと近付き揺り起こした。
『らーいーとー!トリック オア トリート!』
「…ヒナタ、ちゃん」
『わ…!?』
突然腕を引っ張られ、為す術もなく倒れ込む体。それでも雷士に全体重を預ける訳にはいかないと踏ん張った瞬間、
ちゅっ
『…へ?』
唇すれすれに触れた柔らかい感触。あたしの目に映るドアップな雷士の整った顔にそれが彼の唇であることを理解する。
そしてゆっくり顔を離した雷士が放った言葉に、放心状態だったあたしは一気に覚醒した。
「…僕が、イタズラしちゃったね?」
『―――……っ!?』
そのまま何事もなかったかのように再び眠り始める雷士。対するあたしは体の力が抜けてしまい、しばらくまともな思考回路には戻れないだろう。
『……っ雷士の、バカ!』
そんなあたしの真っ赤に染まった顔を窓際のジャック・オー・ランタンがニヤリと見つめていた。
end
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