太陽は沈み街中が妖しく光るランプで彩られる頃、あちらこちらで正しくモンスターと呼ぶにふさわしい出で立ちの人々が楽しげに踊り歩く。
鋭い牙を覗かせる者、悪魔の羽が生えた者、大きな獣の耳を乗せた者など様々だ。そして彼らはめぼしい民家の戸を叩き、声を揃えてこう叫ぶ。
『トリック オア トリート!!』
「英語の発音及び仮装も出来ない子は出直して来なさい」
『えぇえええ酷い!!』
そう、今日はハロウィンです。
あたし達一行は旅の途中、宿を探してある街に立ち寄った。無事ポケモンセンターで部屋を借りて荷物を置き一休み…しようと思ったんだけど、
『あ…見て見て雷士!ジャック・オー・ランタンだよ!』
〈ふぅん…よく出来てるね〉
部屋の窓際に飾ってあったジャック・オー・ランタンを見て今日がハロウィンであったことに気付いた。同時に昔からこの日は斉やハル兄ちゃんにお菓子を貰っていたことを思い出し途端に懐かしさが込み上げる。
そうなればもういてもたってもいられない訳で、早速近くで本を読んでいた氷雨に定番の決まり文句を言ってみた。
……すると、冒頭のあのセリフを返されたのです。全く氷雨ってば笑顔で冷たいんだから!
「ほらヒナタ君、trick or treat。repeat after me」
『何その無駄に良すぎる発音!?』
さすが我が家の広辞苑、氷雨様。雑学も英語もペラペラなようです。
『ていうか発音はともかくさー…仮装は無理だと思わない?衣装なんて持ってないし』
「おや、それなら心配なさそうですよ?」
『へ?』
どういう意味?と聞く前に背後からあたしの頭に何かがカポッとはめられた。突然の違和感に驚いて慌ててその正体を確かめようとすると、目の前に鏡を差し出される。
恐る恐る覗いてみると…そこにはニコニコ(ニヤニヤ?)笑う嵐志と、
『…猫耳?』
真っ白でフワフワな猫耳のついたカチューシャを装着されたあたしが映っていた。
「〜っイイ!!姫さん最高可愛すぎ!!ほらこっち上目遣いプリーズ!!」
『眩しっ!ちょ、ちょっと嵐志!何で写真なんか撮ってんの!?ていうかこの猫耳どうしたの!?』
「やー澪ちんに貰ったんだよそれ!勿論装着した姫さんを写真に撮って送るっていう条件付きだけどな!」
「ほう…尻尾付きですか、中々良い趣味してますね」
『澪姐さんんんん!?』
目の前にはバシャバシャ写真を撮りまくる嵐志と、背後にはあたしのお尻に装着された尻尾を興味深そうにニギニギ触る氷雨。…あれ、尻尾なんていつ付けたの嵐志さん?
「ふう…イイもん見せてもらったぜ姫さん。今夜のおかずは決まりだなさめっち!」
「白い猫耳というのがまたそそりますねぇ。この子の純真さを現しているようでグチャグチャに犯してしまいたくなります」
「おいおいさめっち、それは妄想だけにしといてくれよ?本物を頂くのはオレなんだからな!」
『雷士…何も聞こえないんだけど』
「聞かなくていいよ、あのバカ2人は蒼刃に制裁させとくから」
嵐志が氷雨に話しかけた辺りから擬人化した雷士に耳を塞がれて2人の会話が何も聞こえなかった。何で塞がれたのか分かんないけど…表情だけ見ると嵐志も氷雨も楽しそうだし、ハロウィンで盛り上がってるのかな?
(…そうだ、せっかくだし皆にもお菓子ねだってみようかな)
何故か分からないけど澪姐さんが用意してくれたこの猫耳と尻尾、このまま捨ててしまうのは申し訳ない。それにまぁ…可愛い、し。
『よっし、それじゃ行ってくるねー!』
「あ、姫さん!?」
「…行ってしまいましたね。どうします?まぁ蒼刃辺りにそんな恰好するなと止められるとは思いますが」
「…それよりももっと危険なヤツがいると思うけど。まぁでもヒナタちゃんだからこそ簡単には手出さないだろうけどね」
「ん?何だらいとん、どーした?」
「眠いから寝る」
「相変わらずですね…さて、どうなることやら」
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