「ヒナタ、掘る深さはこれくらいでいいのかい?」

『あ、はい!そしたら次に種を蒔いて…』

「ボクにやらせて」

『超絶キラキラした瞳で見ないで下さいNさん!』


こんな綺麗な男性にピュアな表情でお願いされたら当然断れる筈もなく、はいどうぞと渡すしかない。

それを受け取ったNさんは嬉しそうにパラパラと花の種を蒔いた。綺麗な手が汚れることも気にせず、ゆっくりと土を被せていく。

そんな姿を見てあたしは、本当にこの人は生き物が好きなんだなと暖かい気持ちになった。




ちなみに何故あたしがNさんとこうしてガーデニングに勤しんでいるのかと言うと、話は1時間ほど前に遡る。

あたし達一行は束の間の休息の為、ハル兄ちゃん達が待つヒオウギの自宅へと帰省していた。すると誰が予想しただろうか、まさかまさかのNさんがふらりと現れたのである。

何でも聞く所によると偶然ヒオウギの近くを通った際、ポケモン達があたしのことを話しているのを聞いたのでここに寄ったらしい。

ちなみにそのポケモン達は旅に出る前に仲良くしていた野生の子達で、ヒオウギに戻るあたしの姿を目撃していたんだって。何それ話題にしてくれるとか超嬉しい。

そしてたまたま樹の趣味であるガーデニングを手伝っていたあたしを見つけ、ボクもやりたい!とNさんたっての希望で参加している訳なのです。


「楽しいねヒナタ!こんな風に土に触れるのも、花の種を見るのも初めてなんだ」

『そうだったんですか…あは、確かに楽しいですよね!この小さな種がいつか綺麗な花を咲かすんだと思うとワクワクしますし!』


あたしは割と小さい頃からやってきたけれど…そっか、Nさんは土いじり初めてなんだ。だからこんなにハシャいでいるんだね。


「不思議だね…花のように自然の中でも充分綺麗に生きているけど、ヒトの手が加わることでより美しくなるモノがある。ボクは…そんな風に何かを輝かせるヒトもいるということすら知らなかったんだ」


…たまに感じていたNさんの一面。危うい脆さの中に守ってあげたくなるような純粋さを持っているとあたしは思う。優しくて、綺麗な人。だからポケモンともすぐに仲良くなれるんだろうね。


「ヒナタ、この鉢植え貰ってもいいかい?」

『へ?』

「ボクが責任を持って咲かせてみせる。大事にするから…ダメかな?」

『い、いえ!どうぞどうぞ差し上げます!Nさんなら本当に大切にしてくれるでしょうし!』

「本当かい?ありがとうヒナタ!咲いたら見せに来るよ。」

『楽しみにしてます!そんなに喜んでくれてあたしも嬉しいですよ。きっとNさんなら立派に咲かせてくれますね!』


そう言うと小さな鉢植えをギュッと抱き締め、「これからよろしくね」と嬉しそうに言った彼を見てキュンとするのは多分あたしだけじゃないと思う。
 
何かこう…Nさんって年上だけど、一緒にいるとまるで疾風と接しているような気分にもなってしまう。つい頭撫でたくなっちゃうっていうかね!

やっぱりNさんには幸せになってほしいなぁ…そういえばNさんを変えた2年前のトレーナーさんってどんな人なんだろう。いつか会えるだろうか、きっとその人も優しい人なんだろうな。

あたしが1人心の中でそんなことを考えていると、不意にNさんが微笑みを浮かべながらあたしを見ていることに気付いた。顔に何かついているのだろうかと思わず焦れば彼がクスクス笑う。


「ヒナタ、ボクは何かを育てるのも初めてなんだよ。命の尊さをより深く感じられる機会を得て嬉しい…。それにこれはヒナタと一緒に植えた種だから、まるでキミが傍にいてくれるような気がするんだ。これなら離れていても寂しくないよ」

『えぇ!?もー、大袈裟ですよNさん!』


ていうか何か恥ずかしいです!そう言って誤魔化すようにあたしは笑う。するとNさんは梳くようにあたしの髪に触れ、とても優しい声でこう言った。


「ウソじゃないよ。ボクは、キミと一緒に生きていきたい」


…その時のNさんが凄くカッコ良く見えてしまって、あたしは赤くなった顔を隠す為に慌てて花の植え替えを再開したのだった。



このひだまりの種が
(あなたに幸せを届けてくれますように)

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