※ここからお題が変わりました。

■何処までも何処までもあなたと■
01.あなたとの初対面は最悪でした 
02.好きになったら負けと思ってた 
03.この止まらない気持ちを教えて 
04.優しすぎると溺れてしまうから 
05.何時までも何処までもあなたと




あたしは今日久し振りにヒウンシティへとやって来ていた。その理由はヒウン名物であるヒウンアイスを食べる為。どうしても定期的に食べたくなるあの味は、さすが年中無休で長い行列を作るだけはあるという感じかな?…かくいうあたしもその味に踊らされてこうして買いに来ているわけだし。

今は冬だから当然寒いんだけど、それでもこのアイスだけは食べないと気が済まないんだよね。風も吹き荒ぶ中、行列に並ぶなんて考えられないという理由で雷士はセンターでお留守番。まぁこれはいつもだよね!ちなみに疾風は付いてきてくれようとしたけれど、寒い中ヒウンまで飛んでもらったのにこれ以上無理をさせられないからセンターで待っていてとあたしからお願いした。ただでさえ冷たいのは苦手な子だからね…。

そして蒼刃と氷雨はバトル続きだったからジョーイさんに回復してもらっている。蒼刃が進んで戦いたがるのはいつもだけど、珍しく氷雨までやる気だったから驚いたなぁ。本人いわく、たまにはちゃんとバトルしないと体が鈍ってしまうとのこと。もしかして太ったのかな…とついポロリと零してしまい、絶対零度の微笑を向けられた時は怖すぎて即行フォローしました。原型が結構大きい体をしているから多少太りやすくても仕方ないんじゃないかなとは思うんだけど…。

最後に嵐志と紅矢は誘う前に2人でどこかへと外出してしまった。多分服屋さんとかコンビニとかかな?半ば嵐志に引きずられる感じだったけど…でも仲が良くていいことだと思う。まぁ長くなってしまったけれど、そんなこんなであたしは今1人で行列に身を投じているわけです。


「お待たせしました!次のお客様どうぞー!」

『あ…はい!』


マフラーに顔を埋めて寒さに耐えている間に順番が回ってきていたらしい。やっと寒さから解放される…!そしてそれに矛盾しているようだけどアイスが食べられる!

注文してから数分後、無事にアイスを購入したあたしは右手に自分で今食べる分、左手に持ち帰る分を持って帰路を辿り始めた。みんな…といってもこの寒い中アイスなんか要らないとほとんどのメンバーに言われてしまったから、食べる気があるだろう人はあたしの他にはたった1人だけだけど。


(紅矢、喜ぶだろうなぁ)


持ち帰り用の小さな箱を横目で見やって思い浮かべるのは彼のこと。怖い顔をしている癖に甘い物が大好きで、スイーツの為なら手間もお金も惜しまないような横暴キング。思えばあたしと紅矢はこのヒウンアイスで繋がったといっても過言ではない。

あの日初めてこの街で出会った時、あたしはガーディだった紅矢にヒウンアイスを奪われた。それはもう正しく強奪といっていい程に。物凄く食べたくて買ったヒウンアイスだったから本当に悔しくて悲しくて、あたしは思わず泣いてしまったりもしたけど…それを見て紅矢は嗤っていた。いつ思い出しても最悪ないじめっ子だと思う。

それに怒った蒼刃と紅矢でバトルが勃発したり、後日プラズマ団との戦いでまさかの共闘をしたり…そして傷を負っていた紅矢を放っておけなかったあたしはポケモンセンターに連行した。当初は断固拒否されて噛み付かれたり色々大変だったんだよね…。血も出たし本当にあれは痛かった!結局紆余曲折を経て仲間になってくれたわけだけど、今でもあの痛みとアイスを奪われたことは忘れられないよ。


「おい」

『え?』


当時の痛みを思い出して無意識に右手をさすった時、前方から不意に声を掛けられた。顔を上げるとそこに立っていたのはまさかの件の彼。あれ、でもどうしてこんなところにいるんだろう?


『嵐志は?一緒じゃないの?』

「…センターに置いてきた」

『そ、そうなんだ…?』


それだけを言って黙ってしまった。つまり、嵐志は既に外出先からセンターに戻ったってことだよね?でも紅矢は何故かここにいて……あ、もしかして。


『あたしがアイスを買いに行ったって聞いたの?』

「…まぁな」


小さな声で呟いてそっぽを向いてしまった。うん、これは多分…アイスを食べたくて待ち切れなかったって感じかな!いつもは甘い物を前にするともっとテンションが高めになるけれど、それを正直に言うのが恥ずかしいのかもしれない。こういう可愛いところもちょっとはあるんだよね…一応。

あたしがそう推測して思わず口元を緩めると、それに気付いた紅矢がムッとした表情を浮かべたから焦ってしまう。いやまぁ、常日頃から眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔付きをしているのだけど。


「テメェ…何をニヤついてやがる」

『なっ何でもないよ!思い出し笑いしただけ!』

「…ふん」

(た、助かった…!)


何とか誤魔化して物理的暴力を回避したあたしは内心ホッと息を吐く。初対面の時から紅矢は容赦ないからね…今だってあたしの頭をわし掴もうとしてたし。

こういう暴力的なところは少しも変わっていないんだよね…と思っていると、紅矢の視線があたしの右手にあるヒウンアイスに注がれていることに気付いた。じっと見つめているから余程食べたいのだと思う。気持ちはよく分かるよ、あたしだってそうだから。だからこそ紅矢にも買ってきたんだし!


『紅矢、アイス食べるでしょ?お持ち帰りにしてもらったから早くセンターに戻ろう!』

「…いや、今食う」

『え?あ、うん、分かった!じゃあ出すからちょっと待ってね』


そっか、よく考えたらわざわざここまで来てくれたんだし今食べたいんだよね。現にあたしも食べて…あ、アイスを持ったままじゃ箱を開けるのは難しいかな。


『ねぇ紅矢、悪いんだけどあたしのアイス持っててくれる?』

「あ?テメェがそのまま持ってればいいじゃねぇか」

『え!?だ、だってそれじゃ紅矢の分が出せないし…!』

「だから、このまま持ってろって言ってんだよ」

『へ…、』


紅矢がアイスを持っているあたしの右手を掴んで、そのままグイと引き寄せた。そして大きく口を開いた紅矢がヒウンアイスにかぶり付く。あたしは冷たいアイスに彼の牙が食い込む様子を茫然と見つめることしか出来ない。心ここに在らず状態だったのが直ったのは、紅矢が自分の口元についたアイスの欠片を舐め取る姿をばっちり見てしまった後だった。


「ん、相変わらずここのアイスは間違いねぇな」

『…っな、何す…!』

「あぁ?何か文句あんのか」

『あ、あるに決まって、』

「炭になるまで焼いてやろうか?」

『嘘ですゴメンなさい!!』


じ、自分が悪いのに何ですぐにこう物騒なこと言うのかな横暴キングは!でも命には代えられないから慌てて謝ると、楽しげに…そして満足げにニヤリと笑った。その笑みを見ると悔しくて腹立たしい気持ちになる。


…でも、決して嫌だとは思わなかった。どうしてだろう、やられたことはあの時と全く同じなのに。…当時よりも紅矢が多少は心を開いてくれたから?


「おい、さっさと帰るぞ」

『え、あ…っ』


何故か気恥ずかしくて俯いていると、あたしの左手から持ち帰り用の箱を奪って紅矢が歩き出した。そ、それも当然のように自分の物にする気なんだ…!元々紅矢の為に買った分だから別にいいのだけど、ついさっきあたしのアイスまで奪ったのにちょっとだけモヤモヤする。


『待ってよ紅矢!』

「…手を出せ」

『へ?』


置いていかれそうになって急いで追いかけると、不意に立ち止まった紅矢がそう言うものだから反射的に空いた左手を差し出す。すると…何故か彼の大きな手でギュッと握り込まれてしまった。


『って、え!?何で…!?』

「ちっ…いちいちうるせぇな、黙って歩けねぇのか」

『だって急に握られたら驚くでしょ!?』


これはあたし間違っていないと思う。べ、別に嫌じゃないけどね?でもさすがに勇気を出して抗議すると、紅矢はあたしの方を振り返って面倒くさそうに呟いた。


「…テメェはすぐにはぐれるからな。元々アイスのついでに迎えに来てやったんだ、大人しくしてやがれ」

『え…?』


それだけ言って再び歩き出してしまった。勿論、手は繋いだままで。

…今のって、つまり…。ついでとはいえ、あたしの為にわざわざお店まで来てくれたってこと…?


『…っ』


だったら初めからそう言ってくれればいいのに…本当に素直じゃないんだから。でも悔しいかな、すごく嬉しかった。紅矢の不器用な手と言葉が、そしてそれを彼の優しさだと理解出来ることが。気付けばあたしは自然と笑みを浮かべていた。


まだ何となくだけど、どうして出会った時と同じことをされても嫌じゃなかったのかが分かった気がする。


(多分あたしは…)


この憎めない俺様に、惹かれてしまったのだ。



あなたとの初対面は最悪でした
 (それがまさか、恋をするなんて)

prev back next


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -