『紅矢ぁああああ!!』


部屋中に響き渡るヒナタの声。俺はその喧しさにくわえていた棒付きの飴を噛み砕いちまった。

バタバタと走ってきたかと思えば、俺の目の前に立ち毛を逆立てるガーディみてぇに必死に威嚇してきやがる。全然怖くねぇが。


「…ちっ、何だうるせぇ」

『何だじゃない!またあたしのプリン食べたでしょ!?』

「あぁ?…あぁ、冷蔵庫に入ってたヤツなら食っちまったぜ」

『それ!それがあたしの!名前まで書いてあったのに何で食べちゃうの!?』

「知るかよ、あったら食うだろうが普通」

『普通食べないよ甘味キングのバカぁあああ!!』


空っぽの容器を持って指差した箇所には確かにヒナタの名前が書いてある。だがそんなもん本気で知らねぇし興味もねぇよ。つーか前にもあったなこんなこと。

うるせぇ蒼刃がいなくて良かった…あと雷士もか。アイツも結構過保護だからな、面倒くせぇ。


『うぅ…っ楽しみにしてたのに…』


ついにはめそめそと泣き出したこのガキ。あぁクソ、雷士じゃねぇが本当に面倒くせぇ。

俺が舌打ちをするとビクリと震えたヒナタ。んなにビビるくれぇなら最初からつっかからなきゃいいじゃねぇか。

俺は心底面倒くせぇと思いつつ、ジーンズのポケットを探った。そして指先に触れたビニールの感触を引っ張り出し放り投げる。

宙を舞ったそれはヒナタの頭にコツンと当たり床に転がった。一体何だと不思議そうな顔をしてヒナタがそれを拾い上げる。


『…飴?』

「オレンジ。いらねぇなら返せ」

『い、いる!』


慌ててビニールを破りオレンジ味の飴を口に入れる。すると本物のガキみてぇにだらしねぇ面で美味しいと笑った。


『これ美味しい!紅矢ってお菓子のチョイス絶対間違えないよね〜』

「俺が選んだ菓子に間違いなんかあるわけねぇだろうが。おら、仕方ねぇからもう1個やる」

『やったー!ありがとう紅矢様!』


そう言ってもう一度放り投げると、今度はしっかりとキャッチした。どんだけ単純なんだ…もう泣き止んでやがる。


『わー…この飴綺麗だね。光に当てるとキラキラ光ってお日様みたい』

「あ?」


ヒナタが言う通り、確かに日にかざしたオレンジ色の飴はビニールと共に反射して光っていた。だがそれが太陽に見えるだなんて相変わらず俺とはかけ離れた頭をしてやがるな。


『よっし、紅矢の魔法のポケットに免じてプリンのことは許してあげましょう』

「あぁ?何だ魔法って」

『紅矢のポケットは何でも出てくるから!キャラメルもガムもチョコも、このお日様みたいな飴もね!』

「…はっ、くだらねぇ」


何でたかだか飴1つでここまでニコニコ出来るのか分からねぇ。甘ぇもんは好きだが俺には無理だ。

プリンのことはすっかり水に流したのか、もごもごと口を動かしながら手の中の飴を眺めているヒナタ。…お日様、ねぇ。テメェだって似たようなもんじゃねぇか。


「…無駄にキラキラしてんじゃねぇよ、馬鹿女」

『わぁっ!?ちょ、何すんの紅矢!』


何か悔しいから飴と同じ色の髪を手でグシャグシャに掻き混ぜた。そしてあちらこちらに跳ねてしまった髪を必死に戻す姿を見て鼻で笑ってやる。

本当にコイツは面倒くせぇ。すぐ泣くテメェの為に俺がこうしてポケットに菓子を常備するようになったんだってことも気付いてねぇんだろう。


「いっそのことテメェをポケットにしまえりゃいいんだけどな」

『何それどういう拷問!?』


そうすりゃいつだって肌身離さず連れ回して、菓子と一緒に食ってやんのに。

意味が分かってないヒナタをもう一度鼻で笑ってやる。まぁ、今はそれでいい。

俺も今は…このテメェと同じ色の飴で我慢してやるよ。


俺はポケットから取り出した飴を口の中に放り込み、目の前にいるヒナタの髪を梳いた。



ポケットの太陽
(手を伸ばせば、そこにある)

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