「ふぁあ…いい天気だな…」
雲一つない快晴の空。鳥ポケモンは気持ち良さそうに翼を広げ、草ポケモンはゆったりと日光を浴びている。
この平和な空の下、アイツは何をしているんだろうか。
「昴」
「あ?」
「今掃除をしていたんだが…ほら、こんなものが出てきたぞ」
相変わらず似合わないエプロンをした斉が小さく笑みを浮かべ近付いて来る。そして縁側で寝そべるオレに1枚の写真を差し出した。
「…!これって…」
「懐かしいだろう、ヒナタがウチに来た日の写真だ。お前はこの時歳の近い兄妹が出来たと喜んでいたな…それがいつからか切ない片思いに変わったが」
「うっ、うるせぇな!笑うんじゃねぇよこの野郎!!」
口元を隠しているが隠し切れていない笑い声にムカついてそっぽを向く。そして手の中の写真をもう一度見つめ直した。
オレはこの頃たまたまシンオウに来ていたハルマに勢いでついて来た所もあって、当然カントーには友達なんていなかったから遊び相手が欲しかったんだ。
そんな時にヒナタが家に来て物凄く喜んだのを覚えている。人間とは年の取り方は少し違うが、それでも見た目や考え方が同じくらいの子供だったから…オレはいつもヒナタと遊んでいた。
初めは精神的な傷が深くて中々笑わなかったヒナタだったが、徐々に心を開いていったと思う。オレのことを昴、と呼び始めた頃にはもうよく笑って泣いて…あぁ、
(そう言えば…アイツ昔は結構迷子になってたっけか)
ちょろちょろと動き回る癖に道を覚えるのが苦手だったヒナタはよく迷って1人泣いていた。そしてそんなヒナタを探すのはいつもオレの役目だったな。
そうだ、確かこんな晴れた日にも…オレはアイツを探して走ったんだ。
−−−−−−−−−
あれはヒナタとオツキミ山に探検しに行った時のことだった。ズバットの群れに遭遇したりイシツブテに躓いて怒らせたりと受難はあったが、2人一緒だから大して怖くもなくて楽しんでいたと思う。
だがそれは突然起こった。オレが何気なしに後ろを振り向くと、そこについて来ていた筈のヒナタがいない。オレは慌てて元来た道を戻り探し始めた。
ここはいつも迷子になるようなスーパーや街中とは違う。当然野生のポケモン達がいて、もし襲われでもしたらアイツはひとたまりもない。
(だから、オレが守ってやらなきゃいけないのに…!)
ジワリと涙が滲んだ。アイツに何かあったらハルマに合わせる顔がない。そしてそれ以上に、オレがオレ自身を許せない。だってアイツは、オレにとって何より大切な…!
「っ!」
必死に探していると、小さく啜り泣くような声が聞こえた。空耳じゃない、きっとヒナタの声だ。
オレは微かな声を頼りに薄暗い洞窟内を走った。すると細い道の岩陰に、うずくまって震えているヒナタを見つけたんだ。
「ヒナタっ!だいじょうぶか!?」
『…!す、すばる…!』
オレの顔を見た途端大声で泣き出したヒナタ。よく見たら膝を擦りむいている…足元が暗くて転んだんだろうな。オレはヒナタを背負って洞窟を出ることにした。
「にしてもおまえ、かってにどっか行くなっていつも言ってるだろ!はじめてのとこじゃぜったい迷子になるんだから」
『ご、ゴメン…あたし、ピッピを見つけておいかけてったら道わかんなくなっちゃって…』
「はー…とにかく、行くならオレにこえかけろ!ついてってやるから」
『…うん!すばる、やさしいね!』
「はぁ!?べ、つに…オレやさしくなんかねぇし!」
真っ赤になった顔を誤魔化すように足を速める。ヒナタの体を支える腕から上昇した熱が伝わらないことを祈った。
もう涙は止まったらしいヒナタが可笑しそうに笑ってオレの肩に顔を寄せる。そして小さく呟いた。
『いつもゴメンね、すばる。すばるがいなかったらあたし…もっとこわい思いしてるかも』
「…なら、やくそくだヒナタ。迷子になったらぜったいオレをよべ。そしたらオレが、おまえをたすけに行ってやるから」
『ホントに!?』
「ホントだ!それに、もっと大きくなったらおまえをのせて空をとんでやる!」
『やったぁ!ぜったいだよすばる!』
キャッキャッとはしゃぐヒナタにオレも釣られて笑う。今はまだムックルだからヒナタを乗せて飛ぶことは出来ないけど、いつかきっと。
『えへへ…すばる、だいすき!』
「あぁ、オレもす…、っ?」
…え、何でオレも好きだって言えないんだ?別にこんなの、今までだって普通に言えてた筈なのに。あれ?
『…すばる?どうしたの?』
「―――っな、なっなんでもねぇよ!」
変だ、ヒナタの顔見たら急に心臓がうるさくなった。一体何で…ハルマなら理由、分かるかな。
オレは今まで感じたことのないおかしな感情に戸惑いつつも、ヒナタを落とさないように背負い直して家へ帰ったのだった。
−−−−−−−−−−
(今思えばあの時にヒナタが好きだって自覚し…って何考えてんだオレ!?アホか!!)
あまりにもこっぱずかしいことを思い出してしまい頭を抱える。アホだよ、本当に。昔と違い今は雷士や他の仲間達がいて、ヒナタの助けになるのはきっとアイツらで充分なんだ。それは分かってる。
……でも、
『すーばーるー!ただいま!』
「!?ヒナタ…!?」
『久し振りに帰ってきたんだー!それでね、何か久し振りに昴と探検したくなっちゃって…どこか行こうよ昴!』
「……」
『…あれ?何、どうかした?』
「…いや、別に…何つうか…オレって本当バカだなと思って」
『へ!?よ、よく分からないけど…昴はバカじゃないよ?それに昔からずっと優しいってこと、あたしちゃんと知ってるから!』
「…は…!?ば、バーカ!何言ってんだお前!オレはそ、そんなんじゃねぇよ!」
『えーっ絶対そうだって!だって昴、あたしが迷子にならないように手を繋いでくれたし、それにいつも心配してくれてて…』
「うっうるせぇ!覚えてねぇよそんなの!!」
『昴が覚えてなくてもあたしは覚えてるもん!』
「〜…っし、知るかバカヒナタ!!」
『ちょっひどくない!?』
有り得ない!という顔をするヒナタに背を向け、うるさいさっさと出掛けるぞと声をかけると途端に笑顔でついて来る。相変わらず単純なヤツだな…そんなところも昔のまんまかよ。
…いや、それだけじゃない。くるくる変わる表情に優しい声と暖かい手、変わらないコイツの何もかもがオレの全てを捕らえて離さないんだ。
だからこそ諦めが悪くなるってのに…。オレはこれからもきっと、ただひたすらにお前がオレを呼ぶ声を待ち続けるんだろう。
(でもそれも、悪くないよな)
キラキラの思い出
(それは褪せることなく、この胸に)
雲一つない快晴の空。鳥ポケモンは気持ち良さそうに翼を広げ、草ポケモンはゆったりと日光を浴びている。
この平和な空の下、アイツは何をしているんだろうか。
「昴」
「あ?」
「今掃除をしていたんだが…ほら、こんなものが出てきたぞ」
相変わらず似合わないエプロンをした斉が小さく笑みを浮かべ近付いて来る。そして縁側で寝そべるオレに1枚の写真を差し出した。
「…!これって…」
「懐かしいだろう、ヒナタがウチに来た日の写真だ。お前はこの時歳の近い兄妹が出来たと喜んでいたな…それがいつからか切ない片思いに変わったが」
「うっ、うるせぇな!笑うんじゃねぇよこの野郎!!」
口元を隠しているが隠し切れていない笑い声にムカついてそっぽを向く。そして手の中の写真をもう一度見つめ直した。
オレはこの頃たまたまシンオウに来ていたハルマに勢いでついて来た所もあって、当然カントーには友達なんていなかったから遊び相手が欲しかったんだ。
そんな時にヒナタが家に来て物凄く喜んだのを覚えている。人間とは年の取り方は少し違うが、それでも見た目や考え方が同じくらいの子供だったから…オレはいつもヒナタと遊んでいた。
初めは精神的な傷が深くて中々笑わなかったヒナタだったが、徐々に心を開いていったと思う。オレのことを昴、と呼び始めた頃にはもうよく笑って泣いて…あぁ、
(そう言えば…アイツ昔は結構迷子になってたっけか)
ちょろちょろと動き回る癖に道を覚えるのが苦手だったヒナタはよく迷って1人泣いていた。そしてそんなヒナタを探すのはいつもオレの役目だったな。
そうだ、確かこんな晴れた日にも…オレはアイツを探して走ったんだ。
−−−−−−−−−
あれはヒナタとオツキミ山に探検しに行った時のことだった。ズバットの群れに遭遇したりイシツブテに躓いて怒らせたりと受難はあったが、2人一緒だから大して怖くもなくて楽しんでいたと思う。
だがそれは突然起こった。オレが何気なしに後ろを振り向くと、そこについて来ていた筈のヒナタがいない。オレは慌てて元来た道を戻り探し始めた。
ここはいつも迷子になるようなスーパーや街中とは違う。当然野生のポケモン達がいて、もし襲われでもしたらアイツはひとたまりもない。
(だから、オレが守ってやらなきゃいけないのに…!)
ジワリと涙が滲んだ。アイツに何かあったらハルマに合わせる顔がない。そしてそれ以上に、オレがオレ自身を許せない。だってアイツは、オレにとって何より大切な…!
「っ!」
必死に探していると、小さく啜り泣くような声が聞こえた。空耳じゃない、きっとヒナタの声だ。
オレは微かな声を頼りに薄暗い洞窟内を走った。すると細い道の岩陰に、うずくまって震えているヒナタを見つけたんだ。
「ヒナタっ!だいじょうぶか!?」
『…!す、すばる…!』
オレの顔を見た途端大声で泣き出したヒナタ。よく見たら膝を擦りむいている…足元が暗くて転んだんだろうな。オレはヒナタを背負って洞窟を出ることにした。
「にしてもおまえ、かってにどっか行くなっていつも言ってるだろ!はじめてのとこじゃぜったい迷子になるんだから」
『ご、ゴメン…あたし、ピッピを見つけておいかけてったら道わかんなくなっちゃって…』
「はー…とにかく、行くならオレにこえかけろ!ついてってやるから」
『…うん!すばる、やさしいね!』
「はぁ!?べ、つに…オレやさしくなんかねぇし!」
真っ赤になった顔を誤魔化すように足を速める。ヒナタの体を支える腕から上昇した熱が伝わらないことを祈った。
もう涙は止まったらしいヒナタが可笑しそうに笑ってオレの肩に顔を寄せる。そして小さく呟いた。
『いつもゴメンね、すばる。すばるがいなかったらあたし…もっとこわい思いしてるかも』
「…なら、やくそくだヒナタ。迷子になったらぜったいオレをよべ。そしたらオレが、おまえをたすけに行ってやるから」
『ホントに!?』
「ホントだ!それに、もっと大きくなったらおまえをのせて空をとんでやる!」
『やったぁ!ぜったいだよすばる!』
キャッキャッとはしゃぐヒナタにオレも釣られて笑う。今はまだムックルだからヒナタを乗せて飛ぶことは出来ないけど、いつかきっと。
『えへへ…すばる、だいすき!』
「あぁ、オレもす…、っ?」
…え、何でオレも好きだって言えないんだ?別にこんなの、今までだって普通に言えてた筈なのに。あれ?
『…すばる?どうしたの?』
「―――っな、なっなんでもねぇよ!」
変だ、ヒナタの顔見たら急に心臓がうるさくなった。一体何で…ハルマなら理由、分かるかな。
オレは今まで感じたことのないおかしな感情に戸惑いつつも、ヒナタを落とさないように背負い直して家へ帰ったのだった。
−−−−−−−−−−
(今思えばあの時にヒナタが好きだって自覚し…って何考えてんだオレ!?アホか!!)
あまりにもこっぱずかしいことを思い出してしまい頭を抱える。アホだよ、本当に。昔と違い今は雷士や他の仲間達がいて、ヒナタの助けになるのはきっとアイツらで充分なんだ。それは分かってる。
……でも、
『すーばーるー!ただいま!』
「!?ヒナタ…!?」
『久し振りに帰ってきたんだー!それでね、何か久し振りに昴と探検したくなっちゃって…どこか行こうよ昴!』
「……」
『…あれ?何、どうかした?』
「…いや、別に…何つうか…オレって本当バカだなと思って」
『へ!?よ、よく分からないけど…昴はバカじゃないよ?それに昔からずっと優しいってこと、あたしちゃんと知ってるから!』
「…は…!?ば、バーカ!何言ってんだお前!オレはそ、そんなんじゃねぇよ!」
『えーっ絶対そうだって!だって昴、あたしが迷子にならないように手を繋いでくれたし、それにいつも心配してくれてて…』
「うっうるせぇ!覚えてねぇよそんなの!!」
『昴が覚えてなくてもあたしは覚えてるもん!』
「〜…っし、知るかバカヒナタ!!」
『ちょっひどくない!?』
有り得ない!という顔をするヒナタに背を向け、うるさいさっさと出掛けるぞと声をかけると途端に笑顔でついて来る。相変わらず単純なヤツだな…そんなところも昔のまんまかよ。
…いや、それだけじゃない。くるくる変わる表情に優しい声と暖かい手、変わらないコイツの何もかもがオレの全てを捕らえて離さないんだ。
だからこそ諦めが悪くなるってのに…。オレはこれからもきっと、ただひたすらにお前がオレを呼ぶ声を待ち続けるんだろう。
(でもそれも、悪くないよな)
キラキラの思い出
(それは褪せることなく、この胸に)
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