『そう言えば…レシラムさんって雷士のことタンポポ小僧って呼んでたよね!』

「何?ヒナタちゃんそんなに僕にイジメて欲しかったの?分かったじゃあ思う存分イジメてあげる」

『待って待ってストップ雷士くん!その手のバチバチはダメなやつ!それ下手すると死んじゃう!!』

「うるさいよ」

『いたぁっ!?』


ひ、ヒドい雷士…!何も脳天チョップすることないでしょ!?

じんじん痛む頭をさすりながら涙目で睨み付けてみたけれど、雷士はしれっと欠伸をしている。…まぁ、電撃よりはマシだと思うことにしようかな…。というか擬人化状態でも電気使えるとか怖すぎるよね。

それはともかく…雷士はレシラムさんの言い放ったタンポポ小僧というあだ名がお気に召さないらしく、口にすると不機嫌になる。と、言うのを嵐志から聞いてちょっと試してみようと思った結果がこれ。…うん、後で嵐志に八つ当たりしよう。

ポケモンセンターの外にあるバトルフィールドで日課の手合わせをしている蒼刃と疾風を眺めながら、足元に咲いているタンポポを指先でつつく。

そよそよと吹く風に揺れるタンポポはまさに自由気ままな雷士みたいで、ぴったりだなぁと思うのに本人は未だ眉を寄せて不機嫌そうな顔をしていた。


『ゴメンって…でも結構可愛いあだ名だと思うけどなぁ。ほら、雷士の髪って金髪に近いけど黄色だしタンポポと同じ色でしょ?』

「可愛いとか言われても嬉しくないよ。何より、あの白い暴君が言い出したことだと思うと気に入らない」


そ、それってただ単にレシラムさんが気に入らないだけなんじゃ…。どうも雷士は我が家の赤い暴君とは気が合うけど、レシラムさんとはそうでもないみたい。


『でもね雷士くん、タンポポって他の花は咲けないような場所でも根を伸ばす生命力が強くてたくましい花なんですよー?それにギザギザの葉っぱがライオンの歯みたいだからダンデライオンとも言うんだって!ね、カッコいいでしょ?』

「…何で君そんなこと知ってるの」

『えへへ、植物ならお任せ!な樹先生から教わりました!』

「ふぅん…樹もたまにはまともなこと言うんだね」


樹はジュカインなだけあって植物に詳しいし、家でも色んな花の世話をしてるんだよね。それであたしも手伝いながら豆知識を教えてもらったりしているの。とまぁそれはいいといて、さらっと辛辣だよ雷士くん!


「…たくましい、か。それなら悪くないかな…」

(…あ、ちょっと嬉しそう)


常日頃から華奢だの筋肉薄いだのと言われている雷士にとって、たくましいという単語は中々気分の良いものみたい。

確かに雷士は見た目は可愛いけれど意外とタフで芯も強いし、そう言う意味でもタンポポに似ているかもしれないね。

そんなことをぼんやり考えていたら、しゃがみ込んでいたあたしの隣に雷士も腰を下ろした。そして足元のタンポポの花を同じように指先で撫でる。


「…確かタンポポって、アスファルトもモノともしないんだっけ。どんな劣悪な環境でも咲ける花、か…」

『ん?』


撫でる指を止め、静かに花を手折った雷士はそれをクルクルと回して眺めた後、あたしの耳の上の辺りにタンポポの花を挿した。

え、え、何?と混乱しているあたしを見て雷士はふわりと笑う。う、うわぁ珍しい表情…!普段あんまり笑わないから何だか落ち着かない。


「タンポポ、少し気に入ったよ。だってヒナタちゃんみたいだからね」

『え、あたし?何で?』

「さぁ?自分で考えなよ」

『ちょ、教えてよ雷士!』


何それ全然分かんない!立ち上がってセンターへと戻る雷士を必死に追いかけるけれど、雷士はどこか楽しそうに笑うだけ。もう、こうやって何を考えているか分からない時があるんだよね…。

でも、あんな優しい顔をするんだから…きっと悪いことじゃないのだろう。そう思いあたしも顔を綻ばせた。




(…そう、君はそうやって笑ってくれるだけでいい)


例え芽吹いた場所がアスファルトの裂け目でも、負けることなく空へと進む太陽の花。ほら、まるでヒナタちゃんみたいでしょ?

どんなに辛い状況下でも、笑顔を忘れずに前へ進むその姿が似てるんだよ。

…とは、少し照れ臭いから言ってあげない。




たんぽぽが似合う君
(いつだって、僕の隣で笑う花。)

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