○月△日(晴)


今日から俺はヒナタ様の素晴らしさを日記に綴っていくことにした。やはり口で語るよりも文字で表した方が俺の気持ちは伝わりやすいだろう。ということでまずは今日あった出来事から…

俺は昼間に日課である疾風との手合わせをしていた。そして休憩を取ろうとした時、ヒナタ様がひょこりとその愛らしいお顔を覗かせたのである。


『蒼刃!お疲れ様ー、今日も精が出るね!』

「ひ、ヒナタ様!とんでもありません、これは貴女をお守りする上で必要不可欠なこと…怠るべきではありませんので!」

『真面目!!ま、まぁ…あんまり無理はしないでね?あとこれ、良かったら使って!』

「…!」


そう言ってヒナタ様が俺に差し出したのは真っ白なタオル。フワフワと柔らかいそれからは微かに甘い香りが漂い、ヒナタ様の温もりを感じた。


『それじゃご飯の時間になったら戻って来てね!』

「は…はい!ありがとうございますヒナタ様!」


そう言ってニコリと笑ったヒナタ様は軽やかな足取りで部屋へと戻られた。対する俺はその後ろ姿を見送った後、受け取ったタオルを有り難く頂戴しようと顔を埋めた。

すう、と息を吸うと途端に腹の奥まで染み渡るヒナタ様の優しい香り。柔らかな日だまりのニオイに、まるでヒナタ様に包まれているかのような感覚に見舞われる。

何とお優しい方なのだろう…やはりヒナタ様はそこらの人間とは違う。慈悲深く可憐で、加護欲をそそるかと思えば甘えたくなるような芯の強さを併せ持つ方。

おまけに先ほどのあの花が綻ぶような笑顔…ヒナタ様が時折俺に向けて見せて下さるものだ。ヒナタ様は俺が慕っているのをご存知で、仲間内では多少贔屓して下さっているような気がする。少なくとも紅矢や氷雨よりは一目置いて頂いている筈だ!

あぁ、俺はヒナタ様のポケモンになれて幸せだ。彼女にこんなにも優しくして頂けるのだから。





「…うっわ、何つーかそーくん…」

「気持ち悪い。それに自意識過剰」

「ちょ、ハッキリ言い過ぎじゃねらいとん!?」

「何だ貴様ら!ヒナタ様の素晴らしさを綴ったこの文章に何の文句がある!?」

(ていうかあのタオル嵐志のをヒナタちゃんが間違えて持ってきただけなんだけどね。同じ柔軟剤使ってるんだから皆同じニオイに決まってるんだけど)





○月△日(雨)


今日は雨が降っていて疾風との手合わせは中止となった。そして俺は幸福にもヒナタ様と2人、テレビ鑑賞をしつつ静かに過ごすことになったのである。

ヒナタ様はお気に入りのマグカップに注いだココアを飲みつつテレビをご覧になっている。俺がその横顔をチラチラ見つめながら至福の時を過ごしていると、何を思ったかヒナタ様がポツリと俺に問いかけて来られた。


『…ねぇ蒼刃、蒼刃って…今までに彼女とかいたことある?』

「―――っ!?な、なな、何を…!?」


しまった、つい動揺してしまった。いやしかしこれは無理もないと自分を慰める。何故ならばまさかヒナタ様にそのようなことを問われるとは予想もしていなかったからだ。


「ひ、ヒナタ様、何故そのようなことを…?」

『だってさ、蒼刃ってカッコいいし優しいし絶対モテると思うんだよね!だからあたしと出会う前に付き合ってた子とかいるのかなぁって…』


どことなく気まずそうな笑顔を浮かべるヒナタ様に俺の心が跳ねた。ま、まさかヒナタ様…それは、嫉妬…というものですか…!?

自分と出会う前の恋愛事情が気になるというのはつまり、姿の見えない女を想像して複雑な気持ちに陥っているということでは…!そ、そうなのですねヒナタ様!?

何とも可愛らしく愛しい彼女の肩を強く掴み勢いよく俺の方へと向かせる。目を丸くして驚いているヒナタ様を安心させる為、俺は真っ直ぐ視線を交わせ告げた。


「ご安心下さいヒナタ様。俺には貴女と出会うまでに恋人と呼ぶ存在はおろか、愛した女性などいません。ですが今は、心の底から愛しい女性がたった1人だけいます」

『…あ、そ、そうなんだ!凄いね、蒼刃にそれだけ想われてる子は幸せだよ』

「し、幸せですか…!!ヒナタ様も、幸せなのですね!?」

『はぇ!?え、う、うん…?そりゃあたしも蒼刃や皆と出会えて幸せ…ってあれ?蒼刃ー、聞いてる?』


今日は何と素晴らしい日なのだろうか!ヒナタ様とこうも深く気持ちを通じ合わせることが出来るなんて…。俺は興奮のあまりいてもたってもいられなくなり、恐れ多くもヒナタ様を一度強く抱き締め、雨など関係ないとばかりに外へ飛び出し鍛錬を始めたのだった。





「どうだお前達!羨ましいだろうそうだろう!」

「ちょ、悪ーけどそーくん、実はこの彼女がいたかどーかって質問はオレが個人的に気になって、でもぜってーオレには答えてくれねーだろーから姫さんに代わりに聞いてもらっただけの話なんだけどなー…」

「ていうか何コレ、まるで付き合ってるみたいな雰囲気だけど一切そんなことないからね。全部蒼刃の勘違いだからね」

「あぁヒナタ様…!いつか貴女からも愛の言葉を聞かせて頂ける日を心よりお待ちしています!」

「聞けよ」

「らいとん口悪くなってるぜ!」



ちぐはぐ惚気日記
(果てしなく一方的な、だな!)


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