一陣の風が吹き抜ける。

目を瞑りそれに耐え、そっと目を開けたとき、のどかは懐かしい顔を見た。

考えるより先に口から言の葉が飛び出していく 。

「ヒナタ、ちゃん!」

名前を呼ばれのどかの存在に気付いた少女は、その大きな茶とも橙ともとれる瞳をぱちぱちと数回瞬いた。

急いで駆け寄るのどかの後ろから呆れたようについてくるのは流と八尋である。

「のどかちゃん?」

透き通った初夏の風のような声が鼓膜を揺さぶるのをのどかは懐かしい思いで聞く。それにしても、こんなところで会うなんてね。

そう告げれば、ヒナタは会えて嬉しいと微笑む。

のどかはそんな彼女に眩しそうに目を細め、懐かしさを振り切るかのように声を出した。

「お仲間さん、増えたんだね!美人さんが居る!」

「のどかちゃんも、二人増えてるね」

ヒナタはクスクスと笑みをこぼし、のどかもヒナタにつられるようにして笑う。

二人がそうしていると、のどかの背後から腕が回される。

「何何?可愛いお嬢さんと知り合いなの?」

興味津々といった様子で尋ねてくるのはのどかの手持ちの一人であるレオだ。

きっとのどかの背後ではにんまりとしたチェシャ猫のような笑みを浮かべていることだろう。

のどかがレオをそのままにしていると、 突然レオが痛いと声を上げた。同時に回されていた腕も離されのどかは振り向く 。

「いったぁ……。ちょっと横暴すぎるんじゃないかな!」

レオが非難しているのは、やはりというべきか何と言うべきか、のどかの相棒である流だった。流もレオに少しは自重しろだのなんだのと怒っているので、のどかとしては巻き込まれる前にヒナタとの話を再開しておきたい。

のどかがそう考えていると、喜多が進化したのであろう、前よりも大人びた疾風のもとへと駆けていくのが見えた。

八尋もそんな喜多の後ろを微笑みながらついて行く。

のどかがヒナタを見れば、彼女はそんな三人の光景に目を奪われているようだった。確かに癒される光景ではあるよね、とのどかも心の中で頷く。

「のどかちゃん 、僕もうボールに戻ってもいいかなぁ?」

少し面倒くさそうな表情をして尋ねてきた壱岐に笑いながら拒否をすれば、彼は小さく肩を落とす。そんな二人のやりとりに、またヒナタは笑みをこぼす。

のどかは首を捻りヒナタの方へと視線を移すと、ニッコリと、それはもうこれ以上はないような笑みを浮かべた。

「ヒナタちゃん。さっきの紫色のがレパルダスのレオで、こっちがグレイシアの壱岐ね!」

突然紹介された壱岐は、自分へと移動してきた視線に条件反射のように微笑んでみせる。ヒナタはそんな壱岐に返すように少し笑って、流から逃げ回っているレオへと視線を移す。そして最後にのどかへと視線が戻ってきた。

ヒナタは今度はこちらが紹介するね!と笑うと、前回にあった時には居なかった、水色を基調とした 、群青混じりの髪を持つ男性の方を見る。彼は何も言われずともそっとヒナタの傍まで出てきて彼女の言葉と同時に優雅に腰を折った。

「ラプラスの氷雨だよ!」

「どうぞ宜しくお願いします」

のどかの視線がゆらりとセクハラ行為に移りそうなものに変わった気がして、壱岐は焦りが外に出ないように気を使いながらものどかの手を取る。のどかはパチクリと瞬きをした後、へらりと笑ってその手を握り返す。仲良しだね!などと言うヒナタの言葉に、壱岐は引き攣った笑みを返すことしか出来ない 。

そんな壱岐にはどうも気付きそうにない女子二人は、キャッキャキャッキャと話を進めていく。ふと、雷士がヒナタの名前を呼ぶ。雷士の方へと視線を動かしたヒナタに彼は告げる。

「そろそろ戻らないと……」

戻るという言葉にのどかが首を傾げるとヒナタが困ったように笑った。

「本当はもう少し先の街にいたんだけど、今日はちょっとだけこっちまで戻って来てたの 」

その言葉にまた訪れる別れを感じ取り、のどかはへにゃりと笑う。そっか、と紡がれた声には覇気がなく、気付かれないように壱岐は小さく溜息をつくと未だに繋がれたままの手に少し力を入れた。のどかの視線が壱岐へと移動する。

「また会えるといいね?のどかちゃん」

壱岐の言葉で 、のどかの目が大きく開かれた。そして、次の瞬間にはどこか泣きそうな笑みと共に頷かれる。

ヒナタやヒナタの仲間達はそんな二人の様子を見ていたが、ヒナタはふと八尋や喜多と話している疾風を呼び寄せ、のどかへと笑いかけた。

「また会おうね!」

ヒナタの言葉にのどかは勢い良く頷く。原型へと戻った疾風に乗り空へと上がり始めたヒナタに、のどかは大きな声で話しかける。

「またね!ヒナタちゃん!」

結局、彼女が見えなくなるまでのどかはその場で手を振り続けていた。



end

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