波の音が静かに響く。
青を広げた白に輝く世界に、鮮やかな太陽の色がふわりと揺れて。

ぱちりと、瞬かせた色は琥珀色。

「……えっ?あれ?」

ころりと落ち、気にせずくてりと砂浜に転がる黄色を見て。
さらさらと風に流れる白と、一面の青とを見比べて。


しばらく呆然とした後、困惑に満ちた声が海岸に響き渡った。





「ちょっ、ちょっとちょっとちょっと雷士!雷士よく見てみよう自分の周りの景色を!!」
『ん……うるさいよヒナタちゃん、僕まだ眠い、』
「そんな事言ってる場合じゃないんだってば!!」

砂が付くのも気にせず寝転がる雷士をぺしぺしと叩いた。
とんでもない異常事態が発生したというのにこの相棒はああああ!!

「あたし達ポケモンセンターで寝てたよね!?なのに何で外!?青い海に白い砂浜!!輝くお日様が眩しいね!!」
『ヒナタちゃんもしかして夢遊病?気を付けた方が良いよ』
「夢遊病って酷くない!?それにたとえ夢遊病だったとしても近くにこんな綺麗な海無いよ!!?」

そう叫んで顔を上げる。うんやっぱり海。海。海。
自然のまま残された、人工物なんてひとつもない、綺麗な海。
こんな海、歩いて行ける程近くになんてそうそう無いでしょ……!!
他の皆のボールも探してみたけどやっぱり見当たらない。絶対置いてきたよねこれ!

「とりあえず、此処で寝ててもしょうがないから行くよ雷士!」
『んん……』

気の抜けた返事はどちらとも取れるものだった。
なので勝手に解釈します!当然イェス!

だるんと砂浜に寝そべる相棒を拾って白い世界を見渡す。
洞窟が目に入ったけど、何かとてつもなく嫌な予感がしたからすぐに方向は決まった。
体に付いた砂を叩き落としながら、まるで異世界のような景色の中を歩き出した。

少し進めば十字路に到着。すぐ横には地下へ続く階段が見えた。
何やら遠く広がる大地に繋がる道と、凄く高い崖に作られた階段の道。
このふたつは何だか怖いけど、残りのひとつは何だか楽しそうな雰囲気の街が見える。

「良かった、すぐ近くに町があって……彼処に行けば此処が何処か解るかな」
『無人島じゃなくて良かったね』
「む、無人島」

想像してなかった怖いよそれ!!
本当に良かった、と息を吐きつつさあ町へ。
ちょっとわくわくしながら道を進むと、町の人達に一斉に目を向けられた。
えっ怖いよ怖いよ何なの突然!?

「「「「人間だあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!???????」」」」
「えっ?」

一瞬の間の後、一斉に叫んで散っていく人達。あっという間にがらんとした寂しい空気になってしまった。
店の奥からちらちらとこっちを見てくるのがとても居た堪れない。あたし何かしましたか!?

『ヒナタちゃん、此処に居るの皆ポケモンだよ』
「えっ嘘!?これ全員!?じゃあ此処って擬人化したポケモン達の町って事!?」

耳をぴくりと動かして辺りを見る雷士の言葉に思わず叫んだ。
見た事の無い飾りとか、何だか本格的に異世界だ……!!

「なになに何事!?」

奥の方から駆けてくる足音。
それは聞き覚えのあるもので、視線を向ければふわふわ揺れる不思議な色のマフラー。

「あああああ彩夢ちゃん!!?と空君と藍君……!!」
「ヒナタちゃん!?え、何さっき聞こえた人間ってヒナタちゃんの事だったの!?」
「え、え、何でヒナタさんが此処に居るの……!?」
「とりあえず、連れて行った方が良いと思うんだけど」

わたわたと慌てるあたし達にぽつりと零した空君は、辺りを面倒臭そうに見ていた。
そ、そうだよね!あたし何だか此処に居たらまずいっぽいし……!!

「えと、じゃ、じゃあとりあえず来てくれるかな!」
「う、うん!」

大量に突き刺さる視線の中を、必死に走り抜けた。





いやいやうん、吃驚どころじゃないよ!どういう事なの!
今日は一日ゆっくりしようかって話になって、サメハダ岩でそれぞれ寛いでたんだけど。

「も、焦っちゃったよ……!急に人間だって声が聞こえたんだもん……!」
「ご、ごめん……!」
「ううん、こっちこそ無理矢理連れて来ちゃってごめんね!」
「そんな、むしろありがとうだよ!あんな奇異の目で見られるとは思わなかった……!」

ぜえはあと荒くなった呼吸を整えて、軽く息を吐いた。
ふわふわと跳ねるオレンジの髪が綺麗な女の子に苦笑いを零す。

そう、ヒナタちゃん。種族、人間。

本当今日ダンジョンに行ってなくて良かった……!!
彼処って時間の流れがおかしいのかどんなに短いダンジョンでも帰る時には夕暮れなんだよね!

「とりあえず……家に入る?」
「あ、うん、そうする……って、何処にあるの?」

くすりと笑って、安定のマイペースで先に戻ろうとしていた空を指差した。
私達の家に繋がる階段。風に揺れる幡が目印。
地下へと消えた空を見て、ヒナタちゃんはぱちりと目を瞬かせた。

こっちだよ、と先に進んで穴へと向かう。
階段を下りた先の扉を開ければ、先に入っていた空と、残っていた三人が視線を向けた。

「ただいま!」
「はい、お帰りなさい彩夢さん、藍さんも」
「それで、何があったんだ?」
「ああうん、それがね」
「おおおお何この素敵な家……!!……あ、お邪魔します」

陰に隠れていたヒナタちゃんが顔を出すと、二人共一瞬固まった。
まず戻ったのは紫苑で、どうぞごゆっくり、と安定の紳士スマイルを浮かべてみせた。
続いて、はっとした来夢も受け入れる姿勢を見せて、ヒナタちゃんはようやくほっと息を吐いた。

「さて、私は紅茶でも淹れてきますね」
「あ、どっ、どうぞお構いなく……!!」
『……』
「痛っ!痛い!急に何するの雷士!」
『ちょっと尻尾が滑っちゃったんだよ』
「尻尾って滑るの!?」

バシンと音が鳴るほど勢い良くヒナタちゃんの頭を叩いた雷士くん。
うわ痛そう、と藍が零したのが聞こえた。うん。凄く痛そう。

「あ、そういえばだけど、ねえ雷士、此処では一応人になっておいた方が良いと思うよ」
『人……擬人化すれば良いの?』
「うん、こっちでは皆人になって生活してるから、今の君凄く目立つよ」

目立つ、という単語に少し顔を顰めて、雷士くんはすぐに擬人化した。
頭に乗っかったままだったから、ヒナタちゃんに全体重を預けるように伸し掛った状態になる。
重い重い重い、と叫ぶヒナタちゃんに、雷士くんはのろのろと預けていた体を離した。
何と言うか、ヒナタちゃん超頑張れ……!!

「はあ、それにしても、知ってる人が居て本当に良かったよ。目が覚めたら砂浜だったから」
「そ、そうだったんだ……!安定の砂浜……!」
「えっ?」
「あ、ああいや、うん、何でも無いよ!」

慌てて手を振って、溜め息を吐いた。
彼処は絶対何かあると思う。世界の入り口的な何か。

「?知り合いだったのか?」
「あ、うん、そうだよ!まあちょっと長くなるようなそうでもないような気がしなくもないんだけどなんかちょっと色々あったんだよ!」
「何だそれは……」

私の滅茶苦茶な説明に来夢は軽く突っ込んだ。本当ごめん兄さん!!
詳しくはあれだよ、頂き物の虹色太陽を読んでね!!露骨な宣伝だよ!!

「え、えっと……皆家族?みたいな関係なのかな……?」
「へ?ああ、うーん……どうなんだろう……家族?親友?仲間?……ううん」
「とりあえず、チーム、かな」
「あ、うん、それが一番しっくりくる」

結局そんなはっきりしてないけども!
ほら!ヒナタちゃん案の定チーム?って首傾げてるよ!

お待たせしました、と掛けられた声と共に、ふわりと香る甘いお菓子と紅茶の匂い。
カフェって凄いんだよ!茶葉の状態なら安く売ってくれるんだよ!
紫苑は紅茶も淹れられるから凄く嬉しい。紫苑さん超ハイスペック。

「あら?その子がさっき騒いでた人間さん?」

ひょこり、と顔を覗かせたのは朱華ちゃん。
そうだよ、と頷くと目に入った滑らかな色のクッキー。
どうやらこの甘い匂いは朱華ちゃんの持ってるクッキーかららしい。
これ探検リサイクルで交換できるんだよ!もうカフェ最強なんじゃね!

「また可愛い人間が来ちゃったのね。ウフフッ」
「……か、」
「か?」
「可愛いいいいいいいいいいいい!!!!」

がばちょ、と勢い良く抱き着くヒナタちゃんに驚いて、朱華ちゃんは皿を落としかけた。
紫苑が素早く受け止めてテーブルに置いたけど。紫苑さん素敵すぎる!!
そして抱き着かれた朱華ちゃんはというと、あら本当私って可愛い?と凄くご機嫌だ。うん、凄く可愛い……!!

「……まあ、あの子なら良いか」
「?何が?」
「彩夢は気にしなくていい」

雷士くんの言葉に首を傾げたら空が答えた。何故空くん。
雷士くんは欠伸してて何も言わない。藍くんはほわんほわんしてて何も言わない。
あれ?私がおかしいの?まさかこの三人既に意思疎通出来る程仲良いの?何時の間に?

「……何でも良いが、お前達が此処に来てしまった事はもう良いのか?」
「はっ、そう言えばあたし達帰る方法どころか此処が何処なのかも知らなかったよどうしよう」
「凄く今更だねヒナタちゃん」
「う、うう……!!言い返せない……!!」
「ひとまず、つまみながらでも話しましょうか」

優しい笑顔を浮かべる紫苑に、ゆっくりとヒナタちゃんは頷いた。





「とりあえず向かって左から、紫苑、朱華ちゃん、来夢、だよ!」
「よろしくね、可愛い人間さん♪」

にこにこと笑う朱華ちゃんに癒される。
可愛いだって、可愛いだって、貴方の方が可愛いよ……!!

「じゃあこっちも自己紹介します!あたしはヒナタ、で、こっちは相棒の雷士です」
「ふわあ」
「欠伸で返すのやめよう!?」

本当この子は!!
溜め息を吐きたくなるのをぐっと堪えた。
雷士の名前を言った時、来夢さんの雰囲気が凄く柔らかくなった気がしたけど、気の所為かな?

「ま、まあ……えっと、早速だけど二人は、何でこっちに来ちゃったとか、心当たりは無いんだよね」
「全然無いよ。気付いたら海岸に居た」
「気付いたらというか、目が覚めたらというか……ここに来る前はあたし達、ポケモンセンターで寝てたんだよ」
「ぽけもんせんたー?って何?」
「え!?ポケセン知らないの!?」

こくりと頷く皆が信じられなかった。
そう言えばこの町にも無かった……というかそもそも機械的な物が一切見当たらなかったけど!
まさか擬人化したポケモンの町だから!?いやそれ以前に何で擬人化したポケモンしかいないのこの町!!
それにさっき人間ってだけで凄い目で見られたし……!!一体此処ってどうなってるの……!!

「あー……まあ普通こっちにポケセンは無いしねえ」
「彩夢は知ってるの?」
「あれじゃないの、あの人間が沢山居る場所にあった赤い屋根の」
「おお、空くん正解」

和気藹々と話す三人に置いていかれそうになる。
どういう事だろう、彩夢ちゃんは知ってて他の皆は知らなくて……?

「とりあえず、どうやって来たかは解らなくても、帰る方法が解れば良いのよね」
「う、うん、帰り方さえ解れば……」
「……彩夢さん、彼は知っていないのですか?」

紫苑さんの彼という言葉に首を傾げる。
どうやら心当たりがあるみたいだ。でも誰だろう、凄く物知りな人とか?

「えっと……?……あ、ああ!そっか成程!」
「え、もしかして帰り方が解る人を知ってるの?」
「知ってるかも、ってだけだけど……」

おおおおおお!!彩夢ちゃんが凄く頼もしいぞ!!輝いて見える!!
そっかそうだよね、と何度か頷く彩夢ちゃんを期待して見つめる。

「よし、じゃあ早速、誰でも良いから私の事殴るなりなんなりして気絶させて!!」
「ってちょっと落ち着こう彩夢ちゃん急にどうしたと言うの!!?」
「いや、こうしないと会えないというか」
「どんだけハードな出会い方!?」
「ん」
「みゃうっ」
「わああああああ彩夢ちゃんんんんんん!!!??」

ばちんと電気を纏った手刀で軽く首を打って気絶させた空君。何てえげつない事を!!
雷士はこんな騒ぎの中でも船を漕いだりたまにクッキー食べたり。もうちょっと慌てない!?慌てない!?
あれ?何か他の皆も落ち着いてる?慌ててるのあたしだけ?何で!!?

「彩夢の寝顔可愛いね、空」
「ん」
「いやそんな和やかに言ってる状況じゃないと思うよお二人さん!!彩夢ちゃん気絶しちゃったよ良いの!?」
「落ち着いて下さい、彩夢さんも貴方を助ける為に頑張っているんですから」
「う、うううう」

そんな事言われたらあたしには何も出来ないな、と大人しく椅子に座り直す事にした。
肩にぽんと置かれる手。顔を上げると目に入った、遠い目をした、さらさらの緑色。
来夢さん、貴方はあたしの心強い味方だ……!!

「――――う、お、おはよー……」
「あ、彩夢どうだった?」
「うん、ばっちり」
「ああああ彩夢ちゃん!?大丈夫なの!?」
「え?ああうん大丈夫。ちょっと夢越しに直してもらったし……やっぱり若干痛いけど……」
「ごめん、痛い」
「うっひゃああああう!!」

マフラーの隙間に入れられた指に、いいよもう大丈夫冷たい擽ったい、と叫ぶ彩夢ちゃん。
それを見てくすくす笑う空君に、僕も、と言って加勢しだす藍君。
あ、どうしようにやにやが。

「ああああもう、で、それでねっ!ヒナタちゃんがこっちに来ちゃった理由だけどもっ!」
「あ、うん!」

ばっと首を両手で覆って涙目になりながら叫ぶ彩夢ちゃん。くそかわ。
でもどうやらこうなってしまった原因について教えてくれるようなので、クールダウンクールダウン。

「えと、私達が何回かそっちに行っちゃった所為でこっちと若干混ざっちゃって、私達と一番関わってたヒナタちゃんが巻き込まれちゃったんだって」
「……うん?混ざったって何が?」
「世界と世界が……というかヒナタちゃん、言ってなかったけどあのね、この際だから訊くけどね」
「? 何?」
「此処、異世界だって気付いて、る?」
「……え?」

たっぷりと、間を置く事数秒。

「……ええええええええええええ!!?」
「ヒナタちゃん煩い」
「いやだって雷士異世界だよ!?確かに異世界っぽいなーとは思ってたけど本当に異世界、えっ!?異世界!?」
「うん、そりゃあ驚くよねえ……私もこっちに来た時それはもう驚いたよ」
「え、それはつまり彩夢ちゃんは元は此処の世界の人じゃなくってつまりどういう事だあ!?」

とりあえず整理しよう!
まず、彩夢ちゃん達とあった時。彩夢ちゃん達は異世界の子っぽいなあとは思ってた。
今日此処に来て、海岸から何から、見える景色が全部綺麗で異世界みたいだなあとも思ってた。
その後この町に来て、ポケセンが無かったり人間ってだけで驚かれたりおかしいなとかも思った。
あれ、じゃあ彩夢ちゃんだけポケセン知ってたのはそういう事であれええっととりあえずそれは置いといて。

つまり此処は異世界です。

異世界!!!!???

「あー、うん、まあそんな感じなんだって思っておけば良いよ多分!」
「そ、そうだよね!あんまり深く考えても駄目だよね!そうする!彩夢ちゃんと友達なのは変わらないし……!」
「え、なにそれ素敵!!」

輝け友情!
がっしりと抱き合うと、羨ましいわ私も混ぜて、と朱華ちゃんが飛び込んでくる。
どうしよう此処天国だよ可愛いいいいいいい!!

「帰る方法も解ったのか?」
「うん、海岸から何時でも帰れるようにしておくから、日暮れまでに来てほしいって」
「そっか、日暮れまでに海岸かあー……」
「良かったねヒナタちゃん」
「うん、ありがとう彩夢ちゃん!」
「お礼なら、神様に言ってあげてね」
「神様?」
「うんっ」

にこにこ笑う彩夢ちゃんに、疑問符を飛ばしつつ解ったと頷いておいた。
ありがとうございます神様仏様彩夢ちゃま!

「折角だから日暮れまでにトレジャータウンを案内したいけど……あの様子じゃあ無理かなあ」
「トレジャータウンっていうのこの町?なんか凄くわくわくする名前」
「探検隊の町だからねー」
「探検隊?」
「そうだよ!僕達も探検隊なんだ!」

ぱっと目を輝かせてくるりと一回転して見せる藍君。
た、探検隊……!!何だか可愛いぞ!!

「僕達はチームパレット!深い森や高い山、眠る秘境に遠い島、未知の世界を探検するのが僕達のお仕事なんだよ!」
「え、なんか想像してたのよりずっとスケールが大きかった!」
「何を想像してたんですか、まさか子供が近場の洞窟の入口近くではしゃいでいるのを想像してたんですか?」
「うっ」
「もう、そんなのじゃないよ!ポケモンの救助とか、お尋ね者だって捕まえるし!」
「ええええちょ、何それ凄くない!?」

こっちで言うポケモンレンジャーみたいな仕事だろうか。
でも救助に逮捕もするとか、え、それ探検って言わなくない!?凄くないこの子達!?

「どうしよう雷士あたし達も負けてられないよ」
「僕は別に其処まで頑張らなくても良いと思うよ」
「もうちょっとやる気だそうよ相棒……!!」

マイペースに目を擦る雷士にがくりと項垂れた。
苦笑いを浮かべる彩夢ちゃんが目に入る。ちらりと視線を向けた先は空君。ああ……。

「……そ、そうだ!案内は無理かもだけど、ギルドになら行けるかもよ!」
「ギルド?」

雰囲気を変えようと人差し指を立てた彩夢ちゃんの出した、これまた新しい単語。
ギルド、ギルド、何処かで聞いたような。

「……あ、プクリンのギルド」
「そうだよ!ギルドなら多分人間慣れしてると思う、し、多分……!」
「うん、そうだね!皆ならきっと大丈夫だよ!」
「お、おおおお……!!もし良いなら是非行きたいです……!!」
「勿論!案内するよ!」

留守番している、と言う来夢さんと紫苑さんと朱華ちゃんにお茶のお礼をして手を振った。
お土産に、と更にクッキーと茶葉を貰ってしまった。嬉しい……!!帰ったら皆で食べよう!!

町の人達に見つからないように何とか通り抜けて、十字路まで戻る。
一方はあの海岸で、残りは崖の階段と、穴の階段と、広がる大地。
二人が進んだのは崖の階段。何やら厳かな空気を感じるのは気の所為ですか?
上まで登れば巨大なプクリンの入口。

「ああうん、プクリンのギルドだ……!!」
「解りやすいよねえ……あ、ごめん、ちょっと待ってて」

彩夢ちゃんがてくてくと歩いていった先は、格子の張られた穴。
な、何だかあれ、こそばゆそう。気になる。

『ポケモンはっけ……彩夢さんだ!』
『何だと!?という事は他のパレットも居るな!!今すぐ開けるぞ!!』
「ありがとアンサー!」

……か、顔パスならぬ足パスだと……!!
入口を塞いでいた柵が上がっていく。何、彩夢ちゃん実は超有名人!?
一瞬の遣り取りに驚いていると、地面から突然現れたキュートな男の子。何だ何だ!?

「彩夢さんお久しぶりです!」
「久しぶりライトくん!元気だった?」
「はい、お陰様で!」
「まさかの雷士と同名!!」

衝撃の名前に思わず叫んでしまった。雷士はあまり興味が無さそうだけど!
で、でも、名前が同じなのにこうも性格が違うだと……!!
あたしの声に気付いたライトくん、とぱちりと目が合った。

「……に、人間!!!??しかも空さんや彩夢さんと違って本物!!」
「今然り気に僕等が偽物だって言わなかった」
「いや其処は突っ込まないであげよう空くん」
「あはは……」

此処でも人間だと驚かれてしまった、けれど、ごめんそれよりもあたし本物云々の方が気になる。
え、うん、ごめんどういう事!?

「うわあああ人間だあああああしかも空や彩夢と違って正真正銘人間だああああああ」
「きゃああああああああ!!!!本物ですわああああああああ!!!!」
「何何何何何っ!!?」

瞬間、雪崩れるようにやってきた人並みに大混乱する。
ああもう解らない事だらけだあああああ!!!!

結局事態が落ち着いたのは、ピンク色のぽわんぽわんな人が現れてからだった。





「うああああ……」
「だ、大丈夫ヒナタちゃん」
「ううう……大丈夫……じゃないかも……」

ギルドに来た後、ヒナタちゃんと雷士くんはギルドの皆に盛大にもみくちゃにされてあっちこっちに引っ張り回されていた。
本当もう、お疲れ様というか、簡単に連れてきちゃったけどいやもう本当なんかごめん……!!
雷士くんなんか死にかけてるよ!!というか目が既に死んでるよ!!

「でも楽しかった……ビュティちゃんとプレイちゃんが可愛い……何なの……」
「だよね!!基本此処の女の子皆可愛いんだよね何なんだろうね!!」
「彩夢ちゃんも可愛いよ!!」
「うええええありがとう!!」

可愛い女の子はこの世の宝だと思う。ヒナタちゃんもね!!可愛いよ!!
ちなみに、今私達は海岸でぼうっと海を眺めている。オレンジに輝く空が眩しい。クラブの泡が綺麗です。
空と藍と雷士くんは、離れた所で何か話しているみたい。会話は聞こえないけど何となく楽しそう。
本当何時の間にそんなに仲良くなったの羨ましい。素敵な事だと思う。

「それにしても吃驚したよ……まさか彩夢ちゃんと空君が元人間で、此処は異世界で、人間は伝説上の生物とかもう」
「いや本当生きてると何が起こるか解らないよねえ」
「予想の範疇超えるよ普通に!!」

まあ確かに、普段から目が覚めたら異世界かもしれないって考える人は稀だろうなあ。
他にもこの扉を開ければ、とか、ゲームを起動したら、とかが王道だと思う。ちなみに私は後者だったよ吃驚だね!!

「……あ」
「あ、消え、ってうわあああああ!!?手が消える消える消えて透けてますけど!!?」
「おおおおお落ち着こうヒナタちゃん帰るだけ帰るだけ!!」
「はっ、そうか!」

異変に気付いた三人もやってきた。雷士くんも透けている。
ふわふわ浮かぶ光が未来で見た消滅光に似ていてちょっと焦ったけど、普通に帰るだけ、だと思う。
神理も日が落ちる頃に帰すって言ってたしね!

「あ、あ、また会えるよね彩夢ちゃん!」
「うん!次はどっちか解んないけどね!」
「そっか……!」
「あ、ねえ雷士!」

徐に藍くんはぱっと雷士くんの耳元に口を寄せて何かを囁いた。
にこにこ笑顔の藍くんにこっくりと頷く雷士くん。え、ちょ、なにそれ楽しそう。

「じゃあね、また会おうね!」
「う、うん!何時になるか解らないけど、絶対また会おうね!」
「また、何時か」

二人の姿が見えなくなるまでぶんぶんと思いっ切り手を振った。
やがてすっかり影が消えて無くなる。残った足跡が少し寂しい。

「ふはあ……吃驚したけど、楽しかった」
「うん、また会いたいね」
「そだねえ……そう言えばさっき何話してたの?」
「秘密」
「うん、秘密!」
「ええええなにそれずるい!!二人ばっかり仲良くなっちゃって嫉妬しちゃうわ!!」
「えっ、」
「えっ?」
「あ、ううん!!何でも無いよ彩夢大好き!!」
「? うん、私も大好き!空も大好き!」
「ん」

ああもう、この何気無い会話が好き。ヒナタちゃんの仲間もきっとそうだよね。
そろそろ私達も帰ろうか。皆心配してる頃かも知れない。
二人が居た場所を一度だけ目に焼き付けて。
海の向こうに沈んでいく太陽は、鮮やかなオレンジ色だった。





「ヒナタ様!!!!!ご無事でしたか!!!!??」
「うおおおおお蒼刃!!大丈夫超元気!!」
「煩い……」
「マスター、心配した、んだよ……」
「うわあああああ心配かけてごめん皆!!」
「おいヒナタお前今まで何処行ってやがったしかもなんか甘い匂いするぞ」
「あ、そうだよお土産!このクッキー凄く美味しいんだよ!だからこれで許して!それで皆で食べよう!」

その後、案の定皆に質問攻めにあって大変だった。
うううう、申し訳無い。本当に心配掛けちゃったな。
クッキーと紅茶で何とか許してもらった。ごめんなさいごめんなさい。
貰った茶葉で淹れた紅茶の色は、綺麗な菖蒲色だった。


end

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