うん、こっちに来てからそりゃあ色々あったよ。空と藍と、皆で、遠い所へ行ったり、のんびり遊んだり。割と長い時間を一緒に過ごしてきたんじゃないかなって思う。

でも、でもさ。

目が覚めたら空が上に乗っかってたとか、どうすれば予想出来ようか……!!!!

「あ、あれ、え、あれ?うええええええええええ!?」
「うるさい」
「いやいやいやいやいや」

何これ。何この状況。どういう事なの。というか私寝る前何してたっけ。

「ああもうとりあえず退こうか空くん!!」
「嫌だ」
「嫌だじゃなくて……!!」

ぐるぐると混乱している内に、すぐ目の前まで鮮やかな空色が近付いていた。お、おうふ。

「ちょ、ちょ、待っ……、せいあっ!」
「!」

咄嗟に繰り出した頭突きはあっさり躱されたけど、後ろに引いてくれたので何とか起き上がる事が出来た。何かもう既に色々疲れた。荒くなった息を整える。くそう涼しい目してこの子は!!!!

「というか空くん綺麗な顔してるんだからそんな簡単に近付かないでようわあああああ」
「近付かないとキスできないでしょ」
「いやっはいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!??」
「真っ赤」

くすくす笑う空くんははい実に妖艶でした。どういう事なの。というか本当にどうしたこの子。キス……え、キス?えっ?

「彩夢キスした事無いよね」
「無いですよ!!!??というか何突然そんな事訊いちゃってんの!!!??」
「ん、じゃあ動かないでね」
「え?は?え?いやだから顔近付けないでちょっと落ち着こうか空くん!!」
「僕は落ち着いてるけど」
「落ち着こうか私!!!!」
「ん」

深呼吸深呼吸。何かちょっとおかしい気がしなくもないけど落ち着け落ち着こう。よし。という訳で整理しよう。何がどうしてこうなった。

目が覚めたら空くんが伸し掛っててキスを要求してきました。

何がどうしてこうなった!!!!!!!!

「というかえ、何?何故に私とキス!?」
「したいから」
「いやいやいや何を仰るか空くん!!減るもんじゃないって言わんばかりの顔してるけど減るよ!?色々なものが一気に減るよ!?」
「僕が彩夢としたくてするんだから減るも何も無いでしょ。何、彩夢は嫌なの」
「嫌以前の問題と言いますかっ!!そもそもどうしてそんな事になったし!!」
「……彩夢が悪いんでしょ」
「、へ?」

瞬間、がらりと空の雰囲気が変わった。強い力で肩を掴まれて、こつりとお互いの額がぶつかる。 髪の隙間から覗いた暗くて冷たい視線に、ぞくりと体が震えた。

「僕等の気も知らないで」
「そ、空、?」
「ああ、その何も解ってない顔、本当、苛々する」

ぎり、と手に力が込められて、その痛みに思わず体が震えてしまう。ああごめん、とふっと力が抜けて、近かった顔も離れていった。恐る恐る見上げた先は、何時もの空色。

……あ、あれ?今の何だったの?なんか勝手に静まっちゃったけど怒ってないの?あれ?

「まあ、彩夢は何も気にせず僕等に流されてれば良いから」
「う、うん?」
「で、もう良いよね、言っとくけどこれ以上待たないから」
「ってあれ何話してたっけそう言えばってちょっと待とうか空く、」

言い切る前に唇に触れた熱。すぐ目の前には空の顔。ああ肌綺麗だな羨ましい。

そうじゃなくて。

「んうんっ!?」
「ん、」

や、ま、へ、あ、うああああああああああああああああ!!!!!!!!!!????

一気に顔に熱が集まっていくのが解った。 羞恥と緊張で、脳が沸騰してしまいそうなくらい、熱い。その間も空は何度も角度を変えて啄むように唇を重ねてきていて。響くリップ音が嫌に耳にこびりついて。

うわ、うわああああああいい。

というか抵抗、抵抗しようよ私!!そうして慌てて動かした腕は思った以上に力が抜けていて、何とか空を押してみてもびくともしなかった。後頭部に添えられた手が頭をしっかりと固定していて、顔を動かすのも難しい。え、ちょっと待ってちょっと待、何時終わるのこれ!!!!

がちがちに固まった体をどうする事も出来ずただただそれを受け続けて、最後に、精神的にすっかり疲れ果てた頃、苦しくなる程長い長いキスをして、空はようやくそれを止めた。

「っは、あ、も、なん、」
「……ん、彩夢のファーストキス、ご馳走様」

にやりと笑う空を見て、とうとう熱が抑えきれずにぼふんと顔から出て行くのを感じた。きっと茹で蛸のようになっているだろうそれを見られたくなくて、急いで俯いた顔を更に両手で覆った。ああもうこの子は、この子は何という事を……!!!!

「あ、う、わ、うわああぁぁ」
「こんなのでそんな風になってたらこの先どうするの」
「この先って何!?まだ何かすると!?」
「何言ってるの当たり前でしょ」
「えええええええええいやいやいや落ち着こう空くん」
「それさっきも聞いた」

溜め息吐いて言う言葉じゃないよ空くん!!というかその先って何!?ファーストキス奪っといてこれ以上何を奪うと!?え、まさかセカンドキス!?

「藍にはもう許可取ってるし、邪魔する奴も居ないし。これ以上待ったとか聞かないから」
「許可って何の許可!?」
「彩夢の初めてを一通り貰う許可」

えっ

「うん、何も突っ込まないとしてとりあえず私の許可は!?」
「彩夢は流されてれば良いって言ったでしょ」
「なにそれ酷い」
「酷くて良いよ、じゃあヤろう」
「じゃあやろうってどういう事なの!!何でそんな軽いの!!というかえ、まさか本気でするつもりじゃ」
「本気だけど」

どうしよう空くんが安定の無表情だ待って待って私の知らない所で一体どんな会話が交わされていたというの……!!

「うん、あのね空くん、こういうのはね、好きな女の子とかにするものなんだよ解るかな!!」
「それくらい知ってるけど馬鹿にしてるの」
「いやしてないしてないですごめんなさい!!でも知ってるなら私にするのおかしくないかな落ち着こう!!」
「おかしくないし落ち着いてるし彩夢が好きだから彩夢にするんだけど」
「好きの意味違ううううううううううううううう!!!!」
「違わないよ、彩夢、愛してる」

ふわりと抱きしめられて放たれた突然の告白。……え、嘘。まじですか。

「愛してる。愛してる。愛してる」
「れれれれ連呼しなくても聞こえてるううううううう!!!!!!」
「うん。で、彩夢も当然僕等を愛してるよね」
「疑問形じゃないのに突っ込みたいけどそういえば空くん普段から疑問文にそれ程抑揚無かった!……あれ、僕等?」
「僕と藍」
「ちょっと待とうか」

ま さ か の 二 人 だ と

え、何、だから藍の許可取ったって言ってたの?そういう事なの?ていうか何か知らないけど私一度に二人からアプローチされてるよ藍くんは間接的にだけどもわあい私もてもてっ。

落ち着け私

「……ごめんちょっとそっちがどういう状況なのか知りたい」
「僕も藍も彩夢が好きだけど、藍は僕とも一緒に居たいらしいから、僕も藍の事は嫌いじゃないし、じゃあ共有すれば良いって結論になった。大分前の話だけど」
「ごめん理解出来なかった」
「しなくて良い」

離れていた体を再び密着させて、さっきよりも強く抱き締められる。ええええええ。何か私の知らない間に凄い事になってるううううううう。

もう一度何とか整理しようと頭を動かそうとした時、ばちんとお互いの間で静電気が弾けた。地味に痛い。というか空くんそろそろ離れよう私の脳が別の意味でショートしそう!!!!

って、あれ、何か体動かないんだけど、あれ。

何とか身を捩って脱出を図ろうとした時、その異変に気付いた。体が全く動かない。指先さえも何とか動かせる程度。焦って視線を動かすと、ぱり、と僅かに残った電気……静電気かああああああ!!!!空くんの特性まさかのこんな所で発生したあああああああ!!!!

「ああ、静電気。なんだ、電磁波使おうと思ってたけど必要無くなったね」
「電磁波使おうとしてたんですかい!!?」
「だって彩夢逃げそうだし、抵抗されると面倒だし」

何という物騒な事を……!!というか、あれ?もしかして私強姦フラグ?

「空くんちょっと落ち着こうこれ犯罪!!」
「何が」
「何がって今まさにこの状況だよ!!今ならまだ間に合うから今しようとしてる事を早急に諦めよう!!」
「何で」
「何でって!!」
「僕は彩夢が好きで、彩夢は僕が好きでしょ。なら問題無いよね」

問題無くない!!!!叫ぼうとした音は、再び押し付けられた熱に吸い込まれた。どうしようこの子勘違いしたままとんでもない行為に及ぼうとしてる……!!

そのまま押し倒されて次には衣擦れの音と共にマフラーが無くなった感覚がして、本格的に危ないと感じた。 抵抗しようとしたけれど、腕どころか小指一本さえ満足に動かせない事に気付いて青褪める。そういえば私全く動けない状況だったようわああああああああ!!!!

「そ、空待っ、んうっ」

ならば言葉でと口を開いた瞬間に、生暖かくぬるりとしたものが口内に入ってきた。逆効果だった私何しちゃってんのうああああああ

「んんう、ら、そら、やめ、」
「ん、止めない、」
「っふぁ、」

ゆっくりと歯列をなぞられて、内側の歯茎を刺激されて、引っ込めていた舌を絡め取られて。くちゅくちゅと響く水温に顔の熱が溜まっていく一方で、もう、何も考えられない。 暫く空に翻弄され続けた後、軽く舌を吸われて、溢れた唾液と一緒にぺろりと唇を舐められて、ようやく空の顔が離れて いった。

「は、ぁ、あ、」
「ああ、言い忘れてたけど、僕も結構余裕無いから、加減は難しいと思う」
「ふ、ぇ?」
「でもたっぷり気持ち良くしてあげるから、安心して」
「え、」

擽ったい感覚に思わず見下ろせば、すっかり肌蹴た衣服と、肌をなぞる空の指。もうこれ以上無いと言う程集まった熱が更に集まって、体中の血が沸騰したみたいで、心臓が破裂しそうな程にどくどくと鼓動している。何時もの無表情で淡々と作業するかのように胸に触れる空の指は、何時もより少しだけ熱くて。

あれ、というか、このままだと私、どうなるんだろう、

ああもう、何でも良いや。なるようになれ。

どうせ動けないし、とすっかり疲れ果てた脳を動かすのを止める事にした。





可愛い。

深く静かに眠る彩夢の、少し熱が残る頬にそっと触れる。最初は色々と煩かったけど、途中からすっかり身を委ねていた。さすがに初めてを貰った時は痛いって泣いてたけど。 聞いた事の無い声で喘いで、見た事の無い顔で乱れる彩夢は、本当に可愛かった。

ああ、これでやっと、彩夢は完全に僕等だけのもの。

本当は、僕等も彩夢に手を出すつもりなんて無かった。ずっと三人で一緒に居られれば良かったから。 誰かが欠けてしまうくらいなら、何も変わらず、あのままずっと。それは、僕も藍も同じだった。

だけどさっき彩夢が、全然知らない奴と一緒に居て、しかも楽しそうに話していたから。

何で僕等の知らない奴と楽しそうに話してるの。何で訳の解らない男から訳の解らない物貰って喜んでるの。そんな顔見せて良いのは僕等だけでしょ。彩夢は僕等の物なのに。

僕は何も考えてない彩夢に苛ついてしょうがなかったけど、藍はひたすらまっすぐあのゴミの方に殺意を向けていた。まあ、あっちの方に苛つくのは僕も同じだけど、それよりきちんと彩夢に解らせてやった方が良いと思った。

だからすぐに行動に出た。軽い電気ショックを与えれば彩夢もゴミもすぐに気絶したから、後はそれぞれの役割をこなすだけ。藍は要らないゴミを跡形も無く排除して、僕は彩夢にしっかり僕等を刻み付ける。その為の許可も得たし、二回目は藍に譲ったから、藍には我慢してもらおう。僕もあのゴミをぐちゃぐちゃに殺してやりたかったし、お互い様。

ああ、そうだ、良い事を思い付いた。彩夢を一生此処から出さなければ良い。そうすれば彩夢は誰の目にも触れる事無く、汚れる事も無い。彩夢には僕等さえ居れば良いから、何の問題も無いよね。うん、良い案だ。藍が戻ってきたら提案してみよう。

彩夢は、他の何も知らずに、ずっと此処に居れば良いよ。彩夢に関わろうとする奴は、全部全部、殺してあげる。

僕等だけの、彩夢。

小さくて綺麗な唇に、自分のそれをそっと重ねた。


end

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