雷はほかほかと湯気が出ている紙袋を抱え、機嫌よく家路についていた。
スキップしたり、鼻歌を口ずさんだり。

ああ、今日はなんていい日なんだろう。
いつも行くお店で肉まんをサービスしてもらえるなんて。

これも日頃の行いがいいからなのかな、などと考えながらニコニコとしていると。


「!?」


道端に倒れている黄色い体躯にそれは見覚えがあった。
何故ならこの前、一緒にクレープを食べた仲なのだから。

雷は急いで駆け寄り、抱き上げる。
間違いない、彼は。


「ら、雷士…!?」


そう。
この前、一緒に遊んだピカチュウの雷士だった。
胸が上下しているから、生きているのは確実だが。
彼は眠るのが好きだと言っていたから、寝ているのか気を失っているのか定かではなかった。

とにかく雷は生存確認をしようと、雷士を軽く揺すった。


「雷士!雷士!!大丈夫!?」
『…ん…あ、ずま…?』
「あーよかったああー…!!」


雷はとりあえず雷士を抱え直し、どこか休憩できる場所を探しに出たのだった。



* * *



「大丈夫?落ち着いた?」
「は、はい…ありがとうございます」


疾風がようやく落ち着いた頃。
涙でぐちゃぐちゃの顔を奏に拭いてもらいながら、疾風は頭を下げた。

奏はにこりと笑い、よかったと息を吐いた。

そして、奏は彼に事情を聞こうと口を開きかけた時だった。


「いた…!そおおおおお!!!」


向こう側から自分の名前を叫びなら、ものすごい勢いで走ってくる黄色い頭の彼。
間違いない、あの頭はいつも見慣れている雷の頭である。

雷は奏の目の前で急停止すると、息を整えながら助けてと懇願した。
すると、隣にいた疾風が目を見開いたのがわかった。


「!ら、雷士…!」


疾風はがばっと立ち上がると、雷に駆け寄る。
彼の腕の中にはぐったりとしているピカチュウの姿。
紛れもない、自分の仲間だ。


「あ、あなたは雷士の仲間!?」
「は、はい…!あ、ボクは疾風っていいます…!」


疾風はまた今にも泣きそうな顔をしながら、雷と雷士を交互に見る。
しばらくそのやり取りを見守っていた奏だったが、とりあえずと冷静に口を開いた。


「君は疾風くん?そしてその雷が抱きかかえているのは雷士くんで、君たちははぐれていたわけだね?」


奏は疾風の目線に合うように、少し屈みながら彼を覗き込んで問うた。
その言葉に疾風はゆっくりと頷くと、事情を説明し始めた。




『(もぐもぐもぐ…)』


あれから、『おなか…すいた…』という雷士の呟きに安心した一同。
今まで座っていたベンチに皆で座り直して、雷は持っていた肉まんを雷士に分けてあげた。
雷士は鼻をくんくんさせると、それをお礼を言って受け取り無言で食べ始めた。

よかった。
どうやら、ただ本当に空腹で倒れていただけのようだ。

雷は疾風と奏にも肉まんを分けてあげて、自分も頬張った。


「あ!改めて!僕、雷っていいます!雷士とはこの前ばったり会ったんだよね!」


そう言って、自分の膝に座っている雷士に目を向けながら、言った。
雷士は雷を見上げながら、耳をひょこひょこと動かした。


『あ、うん。あの時もありがとう』
「どういたしまして!」


そしてにこにこと笑いながら疾風の方を向いて自己紹介をした。
疾風も少し安心したのか、ふわりと小さく笑いながら会釈をした。
疾風の逆隣に座っていた奏も彼の頭をくしゃりと撫でながら、自己紹介をする。


「えー…っと。俺は奏。雷の家族ね。君は疾風くん、で、ピカチュウの彼は雷士くんでいいのかな?」


改めて確認するようにそれぞれに目線をやりながら、聞いた。
その言葉に疾風も雷士も頷くと、そっかと笑い、また一口肉まんを頬張った。

事情は先ほど、疾風から聞いたばかりなので恐らく雷士も同じような理由だろう。
そう踏んだ奏はとりあえず外にずっといるわけにもいかないと、家に案内することにしたのだった。



「ただいまー」
「まぁ、適当に座って。そこのソファーでもいいし、食卓の椅子でもいいよ」
「お、お邪魔します…」
『お邪魔しまーす』


雷の後に続いて入っていった疾風は恐る恐る奏たちの家に足を踏み入れた。
キョロキョロと辺りを見回しながら、一歩一歩前に進んでいく。

その様子を見ていた奏は苦笑しながら、キッチンに入っていきお茶の準備をする。
雷士を頭に乗せながらここまで来た雷は、よいしょと雷士をソファーの上に下ろし自分も隣に座った。


「?疾風くんもこっちへどうぞ!」


雷は疾風に笑いかけながら、ポンポンと自分の逆隣を示した。
彼は一つ頷くと、そこに腰掛ける。

ふわりとソファーが少し沈み、心地よい。
その感触に思わず笑みが溢れた。

すると、雷士が辺りを見回して、雷に聞いた。


『あれ、シスイさんは今日はいないの?』
「うん、シスイは出かけてて帰りは遅いって言ってたよ。他の人たちも皆出かけちゃったー」


留守と買い物、頼むね。

そう伝言を残し、この家の主人は朝から珀を連れて出かけてしまった。
買い物は専ら奏の役目なので、雷は雷でいつも行く近所のお店へと行ったのだ。

そしてその帰りに先ほどの出来事に遭遇したということなのだが。


「あ、あの!本当にありがとうございました!雷さんも奏さんも…!」


いきなり疾風が立ち上がったかと思うと、すごい勢いで頭を下げた。
さらりと綺麗な緑の髪が揺れて、肩から落ちる。

雷はそれをしばらく呆然と見ていた後、目を細めて手を差し出した。
首をかしげる疾風。

雷は疾風の手を取って、自分の手と握手をさせた。


「はい、あーくしゅ!これからよろしくね!疾風くん!!」


雷、でいいよ!

えへへと笑う彼は、雷士の手とも握手をして、“雷士もー!これで正式にお友達だね”とご機嫌がいいようだ。
雷士も小さい手ながら握り返して、『う、ん。よろしく、雷、奏さんも…』と少し照れたように言った。


「!はい!!ボクも疾風、でいいです!」
「あーずるいなあ!俺も仲間に入れてね」


とトレイにティーポットとカップを乗せて持ってきた奏は綺麗にウインクをして、テーブルに置いた。
カップにこぽこぽと注ぐと、ダージリンティーのいい香りがふわりと広がり、
そしてその横に置いてあったチーズケーキに雷達は目を輝かせた。

この焼き加減、いつも使っているクリームチーズの香り。
間違いなく奏が作ったものだと確信した雷はヨダレが出そうになるのをなんとか堪えた。


「これ!奏の作ったチーズケーキ!すっごくおいしいんだよ!二人も一緒に食べようね!!」
「は、はい!!ありがとうございます!ご馳走になります!!」
『おいしそう…』
「たくさんあるからね」


3人(2人と一匹?)でチーズケーキを覗き込む様子を微笑ましく思いながら、奏はナイフを持って切り分けていくのだった。

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