「勝手にいなくなるな!この馬鹿!」
ヒナタ達を連れて先程のクレープ屋に戻ってきたシスイ達は獅闇にこっ酷く叱られた。
クレープ屋と看板は目と鼻の先だったので、気づいてくれるかと思ったのだが。
「あのな、目と鼻の先っつっても結構あるだろうが」
「ほらー…シスイ、やっぱ怒られた…」
とばっちりで一緒に怒られてしまった雷はしゅんとしてシスイを見やった。
やれやれとクレープをシスイと雷に渡しながら、獅闇は眉を下げてシスイの隣の見ない顔に視線をやった。
「で?その隣の人達は」
「うん、さっきその看板の前で困ってたから、助けてあげようと思って」
「ご、ご迷惑おかけします…(この人めっちゃ美声…!)」
「い、いや、こっちこそうちの主人が悪かったな」
その後。
お互いに自己紹介も済まし、事のあらましをヒナタは順を追って説明した。
「テレポートか…」
「うん、ポケモンセンターで休憩してたはずだったんだけど、いつの間にか」
『ほんと、ヒナタちゃんってドジだよね』
雷士だって寝てたじゃんという言葉を飲み込んだヒナタは苦笑した。
「誰がやったのかはわからないにしろ、せっかくここに来たんだから楽しんだらどうかしら」
よかったら、一緒にどう?
シスイはにこりと笑って、先程獅闇に買ってきてもらったクレープを半分差し出した。
「え?え・・!?」
「ふふ、ここのクレープおいしいんですって」
食べかけでよければなんだけれど。
シスイはぽわぽわと笑っている。
甘いものに目がないヒナタ。
目の前に差し出されたそれに一瞬驚きながらも、受け取ってぱくりと一口。
「お、おいしい…!ありがとうシスイちゃん!」
「どういたしまして、あーもう!ヒナタちゃん可愛い!」
「ふぇ!?」
シスイは思わずヒナタに抱きついた。
自分たちのことをお構いなしにきゃっきゃしている主を見て、獅闇は大きなため息を一つ吐いた。
「シスイ、珍しいよね…」
「ああ…自分から他人に抱きつくことなんてあんまないよな…」
「顔を赤く染めるヒナタ様…!なんとお可愛らしい…!」
蒼刃の言葉をスルーした雷士がそういえばと二人に視線を向けた。
『獅闇達はこっちの地方に住んでるの?』
「ん?ああ、地元はミナモシティなんだが…」
「ミナモシティ?」
いつの間にか人型に戻っていた蒼刃と、未だ原型のまま雷の隣で彼から分けてもらったクレープを食べる雷士は首を傾げた。
口元にクリームがついている。
あーなるほどな。と獅闇は何故かいつも持ち歩いているタウンマップを二人に見せた。
「ここが、今俺達がいるカイナシティ。そしてこっちが俺達の住んでるミナモシティだ」
順々に指を差して、説明する獅闇。
蒼刃と雷士は覗き込みそれを目で追った。
『え、待って、なんかすごく遠くない?』
「ああ、地図だから近く感じるのかもしれないが、実際はかなり歩くだろうな」
獅闇はその言葉に雷と二人で苦笑して、成り行きを説明することになるのだった。
「ええ…!?考え事しながら歩いてたらここまで来た!?」
『この人も大概ドジだよね』
「こ、こら!雷士!」
雷士にも言われてしまう始末だったが、まったく以てその通りだと思う。
カイナの市場を散策しながら、シスイはヒナタにここまできた経緯を話した。
その話に驚いていたヒナタだったが、だんだんと苦笑していく。
いや、その反応で正解だと獅闇は大きく頷いた。
「でも、よくシスイちゃん一人でここまで来たよね。獅闇くんも雷くんもボールの中で爆睡だったんでしょ?」
なんかあったら、大変だったよ。
と心配してくれるあたり、ヒナタは本当に優しい子のようだとシスイは不謹慎だと思いつつも破顔した。
「ヒナタちゃん優しい。ありがとう。でも何ともなかったの、すごいと思わない?」
「いや、思うけど…」
ほやほやと笑うシスイに毒気を抜かれたヒナタはつられて笑う。
『なんていうか、マイペースそうな人なんだね、シスイさん?って』
「ああ…危機感がないというか、そういうところはヒナタ様と似ているのだろうか」
側にいた雷士と蒼刃も苦笑した。
そんなシスイの様子に獅闇も雷も頭を抱えたのだった。
それから彼女達はカイナシティを隅から隅まで遊び回った。
市場で買い物したり、博物館を覗いてみたり。
砂浜まで赴き、海で遊んでみたり。
なんだかんだと忙しかった彼女達にはいい息抜きになったのかもしれないと、お互いのポケモン達は思った。
だって、あんなにいい顔をしているのだから。
汚れることも厭わないで、ヒナタとシスイは砂浜に仰向けに寝転がった。
「いやーこんなにはしゃいだの久しぶり!雷士も蒼刃も楽しそうにしてたね!」
「本当に!うちの獅闇ですら何だか楽しそうだったもの。雷もすっかり雷士くんと仲良くなったみたいだしね」
ありがとう雷士くんとシスイは彼の頭を優しく撫でた。
『いや、別に…』
「なになに?雷士、照れてるのー?」
『うるさいよ、ヒナタちゃん』
ぺしっと尻尾で叩かれるヒナタ。
このやり取りにもすっかり見慣れた光景になるくらいシスイは充実した一日を送った。
新たな友達ができたことにも嬉しく思うし、何より獅闇も雷も雷士達と気が合うようで警戒心もなく溶け込んでいるところを見ると、シスイは余計嬉しさを感じた。
それはきっとヒナタも同じだろうと思う。
なんて言ったって、隣であんなに幸せそうに自分のポケモン達を見つめているのだから。
その様子に、シスイは一つ笑いを零し、ぎゅっとヒナタの手を取って握った。
「ヒナタちゃん!」
「え、え?!なになに、シスイちゃん!」
「今度うちにもおいで!イッシュ地方からだったらちょっと遠いかもしれないけど、歓迎するから」
その言葉に、ヒナタは目を見開くと花が咲くように笑って大きく頷いた。
「うん!ぜひ!」
「ふふ、待っているわね。…あら?」
するとヒナタの手が透けていることに気づくシスイ。
あ。とヒナタも困ったように笑う。
「タイムリミットね。誰がやったのかわからないけれど、この出会いに感謝するわ」
「うん、そうだね。シスイちゃん達と遊べて楽しかった!」
「ええ、私も。また、どこかで」
徐々に光りだすヒナタの身体。
同様の光が二つ、背後で見えた。
「雷士、また遊ぼうね」
『うん、同じ電気タイプ同士なんか気が合うし、遊んであげてもいいよ』
「蒼刃も元気でな、今度ミナモシティを案内するよ」
「ああ、頼む。それまでにまたヒナタ様の話を用意しておく」
いや、それは。と苦笑する獅闇だったが、ひゅんと消えた光に少し寂しさがあったのは気のせいではないだろう。
「また、遊べるわよ雷」
「…うん」
雷をゆっくりと撫でて、獅闇に視線を向ける。
がしがしと頭を掻いている彼だったがどことなく寂しそうだった。
「獅闇」
「んあ?」
「帰ろっか」
そう言って、シスイは彼の手を握った。
どうやらボールに戻す気はさらさらないらしい。
困った主だと眉を下げつつ、今日だけでもシスイを独り占めできるのだと考えたら何故だか遠足も悪くないと思えた。
僕もー!とシスイの反対側の手を握った雷にもシスイは笑いかけながら、彼女達はカイナシティを後にした。
珀の今までにないくらい恐ろしい説教が待っているとも知らないで。
end
ヒナタ達を連れて先程のクレープ屋に戻ってきたシスイ達は獅闇にこっ酷く叱られた。
クレープ屋と看板は目と鼻の先だったので、気づいてくれるかと思ったのだが。
「あのな、目と鼻の先っつっても結構あるだろうが」
「ほらー…シスイ、やっぱ怒られた…」
とばっちりで一緒に怒られてしまった雷はしゅんとしてシスイを見やった。
やれやれとクレープをシスイと雷に渡しながら、獅闇は眉を下げてシスイの隣の見ない顔に視線をやった。
「で?その隣の人達は」
「うん、さっきその看板の前で困ってたから、助けてあげようと思って」
「ご、ご迷惑おかけします…(この人めっちゃ美声…!)」
「い、いや、こっちこそうちの主人が悪かったな」
その後。
お互いに自己紹介も済まし、事のあらましをヒナタは順を追って説明した。
「テレポートか…」
「うん、ポケモンセンターで休憩してたはずだったんだけど、いつの間にか」
『ほんと、ヒナタちゃんってドジだよね』
雷士だって寝てたじゃんという言葉を飲み込んだヒナタは苦笑した。
「誰がやったのかはわからないにしろ、せっかくここに来たんだから楽しんだらどうかしら」
よかったら、一緒にどう?
シスイはにこりと笑って、先程獅闇に買ってきてもらったクレープを半分差し出した。
「え?え・・!?」
「ふふ、ここのクレープおいしいんですって」
食べかけでよければなんだけれど。
シスイはぽわぽわと笑っている。
甘いものに目がないヒナタ。
目の前に差し出されたそれに一瞬驚きながらも、受け取ってぱくりと一口。
「お、おいしい…!ありがとうシスイちゃん!」
「どういたしまして、あーもう!ヒナタちゃん可愛い!」
「ふぇ!?」
シスイは思わずヒナタに抱きついた。
自分たちのことをお構いなしにきゃっきゃしている主を見て、獅闇は大きなため息を一つ吐いた。
「シスイ、珍しいよね…」
「ああ…自分から他人に抱きつくことなんてあんまないよな…」
「顔を赤く染めるヒナタ様…!なんとお可愛らしい…!」
蒼刃の言葉をスルーした雷士がそういえばと二人に視線を向けた。
『獅闇達はこっちの地方に住んでるの?』
「ん?ああ、地元はミナモシティなんだが…」
「ミナモシティ?」
いつの間にか人型に戻っていた蒼刃と、未だ原型のまま雷の隣で彼から分けてもらったクレープを食べる雷士は首を傾げた。
口元にクリームがついている。
あーなるほどな。と獅闇は何故かいつも持ち歩いているタウンマップを二人に見せた。
「ここが、今俺達がいるカイナシティ。そしてこっちが俺達の住んでるミナモシティだ」
順々に指を差して、説明する獅闇。
蒼刃と雷士は覗き込みそれを目で追った。
『え、待って、なんかすごく遠くない?』
「ああ、地図だから近く感じるのかもしれないが、実際はかなり歩くだろうな」
獅闇はその言葉に雷と二人で苦笑して、成り行きを説明することになるのだった。
「ええ…!?考え事しながら歩いてたらここまで来た!?」
『この人も大概ドジだよね』
「こ、こら!雷士!」
雷士にも言われてしまう始末だったが、まったく以てその通りだと思う。
カイナの市場を散策しながら、シスイはヒナタにここまできた経緯を話した。
その話に驚いていたヒナタだったが、だんだんと苦笑していく。
いや、その反応で正解だと獅闇は大きく頷いた。
「でも、よくシスイちゃん一人でここまで来たよね。獅闇くんも雷くんもボールの中で爆睡だったんでしょ?」
なんかあったら、大変だったよ。
と心配してくれるあたり、ヒナタは本当に優しい子のようだとシスイは不謹慎だと思いつつも破顔した。
「ヒナタちゃん優しい。ありがとう。でも何ともなかったの、すごいと思わない?」
「いや、思うけど…」
ほやほやと笑うシスイに毒気を抜かれたヒナタはつられて笑う。
『なんていうか、マイペースそうな人なんだね、シスイさん?って』
「ああ…危機感がないというか、そういうところはヒナタ様と似ているのだろうか」
側にいた雷士と蒼刃も苦笑した。
そんなシスイの様子に獅闇も雷も頭を抱えたのだった。
それから彼女達はカイナシティを隅から隅まで遊び回った。
市場で買い物したり、博物館を覗いてみたり。
砂浜まで赴き、海で遊んでみたり。
なんだかんだと忙しかった彼女達にはいい息抜きになったのかもしれないと、お互いのポケモン達は思った。
だって、あんなにいい顔をしているのだから。
汚れることも厭わないで、ヒナタとシスイは砂浜に仰向けに寝転がった。
「いやーこんなにはしゃいだの久しぶり!雷士も蒼刃も楽しそうにしてたね!」
「本当に!うちの獅闇ですら何だか楽しそうだったもの。雷もすっかり雷士くんと仲良くなったみたいだしね」
ありがとう雷士くんとシスイは彼の頭を優しく撫でた。
『いや、別に…』
「なになに?雷士、照れてるのー?」
『うるさいよ、ヒナタちゃん』
ぺしっと尻尾で叩かれるヒナタ。
このやり取りにもすっかり見慣れた光景になるくらいシスイは充実した一日を送った。
新たな友達ができたことにも嬉しく思うし、何より獅闇も雷も雷士達と気が合うようで警戒心もなく溶け込んでいるところを見ると、シスイは余計嬉しさを感じた。
それはきっとヒナタも同じだろうと思う。
なんて言ったって、隣であんなに幸せそうに自分のポケモン達を見つめているのだから。
その様子に、シスイは一つ笑いを零し、ぎゅっとヒナタの手を取って握った。
「ヒナタちゃん!」
「え、え?!なになに、シスイちゃん!」
「今度うちにもおいで!イッシュ地方からだったらちょっと遠いかもしれないけど、歓迎するから」
その言葉に、ヒナタは目を見開くと花が咲くように笑って大きく頷いた。
「うん!ぜひ!」
「ふふ、待っているわね。…あら?」
するとヒナタの手が透けていることに気づくシスイ。
あ。とヒナタも困ったように笑う。
「タイムリミットね。誰がやったのかわからないけれど、この出会いに感謝するわ」
「うん、そうだね。シスイちゃん達と遊べて楽しかった!」
「ええ、私も。また、どこかで」
徐々に光りだすヒナタの身体。
同様の光が二つ、背後で見えた。
「雷士、また遊ぼうね」
『うん、同じ電気タイプ同士なんか気が合うし、遊んであげてもいいよ』
「蒼刃も元気でな、今度ミナモシティを案内するよ」
「ああ、頼む。それまでにまたヒナタ様の話を用意しておく」
いや、それは。と苦笑する獅闇だったが、ひゅんと消えた光に少し寂しさがあったのは気のせいではないだろう。
「また、遊べるわよ雷」
「…うん」
雷をゆっくりと撫でて、獅闇に視線を向ける。
がしがしと頭を掻いている彼だったがどことなく寂しそうだった。
「獅闇」
「んあ?」
「帰ろっか」
そう言って、シスイは彼の手を握った。
どうやらボールに戻す気はさらさらないらしい。
困った主だと眉を下げつつ、今日だけでもシスイを独り占めできるのだと考えたら何故だか遠足も悪くないと思えた。
僕もー!とシスイの反対側の手を握った雷にもシスイは笑いかけながら、彼女達はカイナシティを後にした。
珀の今までにないくらい恐ろしい説教が待っているとも知らないで。
end