「ここ、どこ…?」


鮮やかなオレンジ色の髪が太陽の光に照らされて、キラキラと光っているように見えた。
頭の上にはピカチュウがいて、すやすやと寝息を立てている。
そして彼女の隣にはそれは立派なルカリオの姿。


『ヒナタ様、俺達はどうやらテレポートされたように感じるのですが…』
「テレポート?」


そう。
その日はポケモンセンターでゆっくりしようと決めていた。
もちろんボールから全員出て、部屋で休息を取っていたはずだった。

このオレンジ色の髪の少女、ヒナタも昼寝をしようと目を閉じて、夢の中へ旅立っていったところまでは覚えている。


しかし、目が覚めるとそこは太陽が燦々と煌く、港町。
前を見れば海、横を見れば市場、後ろを見れば賑わう人々。

見たことのない風景にただただ驚くばかりであった。


「それに、何で全員来なかったかっていうね…」


ヒナタは苦笑して、頭の上で未だに惰眠を貪っている相棒に視線をやった。
ここにテレポートされたのは、相棒であるピカチュウの雷士と先程から隣で彼女を守るように寄り添うルカリオの蒼刃。
この二人だけがヒナタと共にこちらへ連れてこられたようだった。


「それにしても一刻も早く帰る方法見つけないと、大変なことになるよね…」


一番に頭を過ぎったのは、あの目つきの悪い彼。
早く帰らなければ、何を言われるかたまったもんじゃないとヒナタは一人顔を青くした。

そんな彼女の様子に隣にいた蒼刃は心配そうに見つめた後、大丈夫ですと胸を張った。


『もし、あいつに嫌なことを言われても俺が守りますから』


だから、ご安心ください。

と蒼刃はヒナタの手を握った。
その言葉に彼女はありがとうと笑った。

だが、あのウィンディの彼の言葉は愛ゆえにと思っているので然程嫌な感じはしない、とは思うのだが。

そんな事を考えながらヒナタはさてとと仕切り直す。


「とりあえずここがどこだかわからないから、わかるものを探してみよっか」
『あ、でしたら、向こうに何やら看板がありましたよ』


必ず街に設置されている看板。
現在地がわかるため、意外と便利だ。

ヒナタ達はひとまずその看板を目指すことにしたのだった。



一方。


「もう!考え事しながらはダメって言ったでしょ!」


珍しく雷はシスイ相手に怒っていた。
こっそりと人型になるやいなや、ぷんすかと説教を始めてしまったのだった。


「ごめんね、雷も」
「珀だって言ってたのに!獅闇も何で寝てたの!」
「いや、お前も寝てただろうが」


うっと言葉に詰まる雷だが、咳払いを一つして人差し指を立てる。


「今度こうなったら珀に全部言っちゃうからね」
「はい…」


いつの間にやら大きくなっていた雷に内心感激している時点であまり反省していないシスイは、項垂れるフリをして小さく笑った。
獅闇はそんな彼女の様子に一人気づきながら、ため息を吐くと目の前のクレープ屋を指差した。


「ほら、食うぞー。シスイと雷は何がいい?買ってきてやるから」


獅闇の言葉にさっきまで眉を上げて怒っていた雷もころっと表情を変え、えっとねえっとねーと立てかけてあったメニューに目を通した。

シスイも雷と一緒になって覗き込む。
色とりどりで鮮やかなクレープが並ぶそのメニューは見ていてもとても楽しい。

小さなワゴン車で営んでいるクレープ屋。
最近出来たというこのクレープ屋はおいしいと評判で、口コミの件数もなかなかに多い今話題の店らしい。

雷はあるクレープの写真を指差して、獅闇に顔を向けた。


「僕、このブリーの実とバニラアイスのクレープがいい!シスイは?」
「じゃあ…私はモモンの実とパイ生地が入ったのにしようかな」


獅闇はそれを聞くと了解とワゴン車に向かっていった。
その後ろ姿を見つめながら、シスイと雷はワゴン車の横に置いてあった木のベンチに腰掛けた。

女の子は甘いものが好きだと言うが、シスイも例外なく甘いものは大好きだ。
しかし、久しくクレープなど食べていなかったので密かに楽しみだったりする。

そんなワクワクとした気持ちを隠すこともしないで、にこにこと笑っていると横にいた雷がシスイの袖を引っ張った。
シスイは雷に顔を向けた。


「ねえ、シスイ、あの人たち…」


何か困ってるみたいじゃない?


と雷が指差す先には、先程自分たちが見ていた看板の前に何やら困った様子でいるオレンジ色が鮮やかな可愛らしい少女。
と、その隣にはシンオウのポケモンで、“はどうポケモン”であるルカリオがいる。
彼女の頭の上には、あの子はおそらくピカチュウだろうか。すやすやと寝ているらしかった。

シスイはルカリオなんて見たのは久しぶりだし、ピカチュウだって雷以来だったためか何故だか凄く興味が湧いた。
彼女は立ち上がって、その人たちに近づいていく。

「ち、ちょっとシスイ!獅闇置いてくの?!」
「すぐそこでしょ。それに獅闇だったらすぐに私達に気づいてくれるわ」


近づくにつれわかるルカリオのオーラ。
なかなかに育てられているし、頭の上のピカチュウも寝てはいるが、何だか強そうな雰囲気を醸し出している。

人が近づいてくる気配にルカリオの蒼刃はふっと顔を上げ、そちらを向いた。


『!ヒナタ様、下がっていてください』


明らかに警戒している様子を見せる彼女達にシスイは安心させるように微笑んだ。


「怖がらなくて、大丈夫よ。いきなり近づいてごめんなさいね、何か困っている様子だったから」


ルカリオは人の波動をキャッチすることができる。
そのためか、シスイを悪い人ではないと判断し警戒を解いたようだった。
すると彼女の上で眠っていたピカチュウがどうやら起きたらしい。


『ふわぁ…あれ、ヒナタちゃん、この人達、誰』
「おはよう、雷士。なんか私達が困ってるっていうのを察してくれて声かけてくれた人達だよ」
『困ってる…?…あれ…ここ、どこ』


そんな雷士の様子に苦笑するヒナタ。
よくここまで眠れたなーと改めて感心した。


「ここはね、カイナシティっていう港町よ」


シスイの言葉にヒナタ達は目を見開いた。
ポケモンの言葉を理解しているから驚いたのか、それともカイナシティだっていう事実に驚いたのか。
きっとそれはどちらもだと思われるが、とにかくシスイは彼女達と交流を図りたかった。


「私もね、ポケモン達の声が聞こえるのよ。あなたもでしょ?」
「あ…はい!生まれつきみたいで」
「なら、一緒。私はシスイ。隣のこの子は雷」


敬語じゃなくて大丈夫よ。

そう言いながら、シスイは雷に視線をやり、ヒナタに手を差し出した。
ヒナタはその手に自分の手を重ね握手をすると、にこりと笑った。


「あたしはヒナタ!こっちはルカリオの蒼刃で、この子はピカチュウの雷士!」
「蒼刃くんと雷士くん、それにヒナタちゃんね。よろしく」
「よろしく!!」

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