『ちょ、ちょっと嵐志…!引っ張りすぎ!引っ張りすぎだから!転ぶでしょぉおおお!』
「へーきへーき!姫さんが転ぶ前に受け止めてやるって!」
やけに上機嫌に引っ張られ続ける。今日は歩道が空いてて良かった…!人がたくさん居たらあたしは今頃確実にぶつかって、転んでると思う。
「それに早く買いに行かないと売り切れるんだろ?」
『そ、そうだけどちょっと待ってよぉおおお…!止まって!休憩して!酸素吸わせて…!』
現在ライモンシティの街中を足早に駆けている。何でもカミツレさんがプロデュースした可愛い服があるとかで、そういう訳なら手伝うと出てきてくれたのが嵐志だった。
さすがオシャレ番長。驚くほどの速さで酸素が薄いんですけどぉおおお…!
「お、あれか…!ちょっと並んでるな…急ぐぜ、姫さん!」
『ちょっ…!ちょっとぉおおお加速やめて転ぶからぁああああ!』
行列の面前でダイビングエントリーしそうなんですけど!
絶対に注目が集まる。百歩譲って嵐志があたしを受け止めてくれたとしても、それはそれで注目の的になりそう。
いやいや、どっちも阻止しないと恥ずかしい…!
『あっ…嵐志…!ちょっと、待っ…、』
「アーク君…!大変です…大変なんです!リオルくんが…リオルくんが…プラズマ団に奪われて…!」
「ん、姫さん?今なんか言ったか?」
あたしの弱々しい頼み声は、突然割って入ってきた力強い声によってかき消された。
今…プラズマ団って…
『嵐志…!待って…本当に止まって!はやく行かないと大変だから…!』
「わーかってるって、急いでるだろー?」
『そうそう!はやく行かないと服が売れて…ってそっちじゃない!』
呑気にノリツッコミしてる場合でも無いよね。って、雷士が居たら更にツッコミされてそう。
今は先に、声が聞こえた方へ急ぎましょうって言ってくれる蒼刃も居なかった。
あたしと嵐志で助けなきゃ…!
『誰かがあっちの方でプラズマ団にポケモンを奪われてるみたい…!急ぐよ、嵐志!』
「か、返してください…そのリオルくんは…私の大切な子なんです!」
「そんなに大切なら奪い返してみろ!我々に勝てたらの話だがな!」
やっと止まったあたしは酸素を吸う間もなく、プラズマ団と対峙している女の子を見つけた。
やっぱりあのプラズマ団…相変わらず酷い事してる。女の子相手に、大の大人が二人なんて許せない!
『…ごめん、嵐志。お願いがあるんだけど』
「後で行列に並ぶんだろ、その前に軽く準備運動だな!姫さん!」
『ありがとう!よし、はじめから全開でいくよ!』
バシッと助太刀に入ろうとした瞬間、あたしと嵐志をちらっと男の子が見てきた。
ん?なんだろ…一緒に居る女の子の友達かな。
「アーク君…!リオルくんを一緒に助けてくれませんか…!」
「人が多いな…仕方ねぇ、今日限りだ」
「姫さん!今戻すから、はやく行こうぜ!」
その男の子は嵐志と絶妙に同じタイミングで、姿をゾロアークに変えた。まさかのポケモンだったんだね…!
それにしても女の子とは何関係…今「仕方ねぇ」って、半分面倒くさそうに聞こえたけどあたしと紅矢関係じゃないといいね…!
「たかがゾロアーク一体だ!二人がかりで一気にやるぞ!」
「ああ!ゆけ、ズルッグ!」
「わわ…!アーク君…!二人の攻撃を注意して頑張ってください…!」
もう一人はザングースを繰り出して、二体がアーク君というゾロアークを囲む。慌てていたのは女の子の方で、ゾロアークは冷静に身構えていた。向こうの子は強そうだけど…あっちの女の子はちょっと心配だなぁ。
『うん、それじゃあ嵐志!ズルッグにつじきり!』
「…!
え、あの、あなたは…!」
『あたしはヒナタ、たまたま通り掛かったんだけどダブルバトルやるならあたしがタッグ組むよ!』
「え…あ、ありがとうございます…!救いの勇者様…!」
勇者様ってあたしぃいい!?
突然、助太刀に現れたあたしはやけに輝いた瞳で見られて心から盛大に称えられた。
雷士…見よ!あたしは今宵、勇者様になった!
〈見当たらないけど?〉
慣れって本当に怖い。安泰に雷士の幻聴が聞こえるから。
「それにしてもダブルゾロアークですか…!夢のような光景です!ゾロアークなだけに…幻覚でも見ているのでしょうか!」
えーと…ゾロアーク好き?
女の子は戦闘よりも嵐志とアーク君に目が入ってる。何とか強いおかげでアーク君は指示を出されなくても攻撃を出してた。
スゴイ!まるで女の子から指示を出されないのは極当たり前のように戦ってる!
ん…?当たり前のように?
「あ、あの私、ライナといいます…!バトルを無事に終えたら改めてヒナタさんのゾロアークさんに挨拶させてください!」
『うん、いいよ!嵐志は誰とも仲良くなれる性質だからきっとライナちゃんとも…』
「あああああありがとうございます…!興奮で頭がうまく回らな…っ、だ、大丈夫です!今はバトルに集中しますから…!」
しっかりと二人を見るライナちゃん。ひたすら目を輝かせたまま二人を見ては「頑張って!」と指示を出してる。というか、応援してる。
指示が出ないのは当たり前だったんだね!アーク君超頑張れ!
〈なぁ、名前は?俺は嵐志って言うけど〉
〈名前…俺は一応アークと付けられてる。
嵐志か、よろしくな〉
〈おう!じゃ“アッ君”だなー!〉
〈アッ君…。まぁ、呼び方は個人の判断に任せる〉
『って…バトル中に会話するくらい余裕!?
応援したのにぃいいい!!』
何気に初対面の即興タッグだから上手く戦えるかと思ったのにすっごい世間話して戦ってた。
ちょっと余裕すぎない!?
〈過剰反応だな、お前の連れはポケモンの声が分かるのか?〉
〈姫さんか、まぁなー!
アッ君の方はバトル不慣れっぽいけど〉
〈ああ、初心者トレーナーだ。お墨付きのな。だから敢えて俺はあいつの指示を聞かずに一人で戦ってる。〉
〈アッ君大変だなー…〉
〈全くだ。あいつは、体当たりの“た”の字さえ出せないヤツだからな。〉
二人の会話があまりにも筒抜けすぎて、あたしまで同情してきた。
アーク君超頑張れぇぇえ…!
『嵐志!ナイトバースト!』
バッチリと息を合わせて嵐志が出した技は、まとめて二体を圧倒した。お手本とまではいかないけど少しはライナちゃんの参考になれるといいな。
「くそ…!撤退だ!引くぞ!戻れ、ズルッグ!」
「ああ…!ザングース戻れ!」
そそくさとプラズマ団はライナちゃんの奪われたリオルを置いて逃げ出していた。良かった、ライナちゃんのリオルは無事みたい!
「準備運動終わったぜー姫さん!早く戻って服買いに…」
「ひ、ヒナタさん…!大変です…!ヒナタさんのゾロアークさんが消えました…!まさかさっきのプラズマ団が…!」
サっと人間に戻った嵐志にライナちゃんは全く気付かず、慌てる。お、落ち着いて!嵐志ならライナちゃんの目の前に居るよ!人間だけど!
「…もう行くのか」
「おっアッ君!また会えたらよろしくなー!」
「ああ。今日は…助かった。次会う日に礼を返すからな」
いつの間にかアーク君の方も人間になっていた。嵐志と同じくらいの歳かな、仲良くなったみたいで良かったね嵐志!
あたしも丁度同じ歳くらいの女の子と知り合えたから嬉しい。バトルってやっぱり良いものだよね!
相手はプラズマ団だったけど!
「あ、嵐志くんは此方に居たんですね…!全く気付きませんでした…!また会えたら、あの…是非レッツ友情バトルしましょう!嵐志くん!ヒナタさん!」
「おう、またなー!」
『勿論!また一緒にバトルしようね、ライナちゃん!』
「は…はいっ!今日は本当にありがとうございました…!」
しばらく、ライナちゃんたちの姿が見えなくなるまではゆっくりと歩いて手をふった。
友達出来たしプラズマ団も倒したし、言うこと無し!ちょっと日が暮れてきたからポケモンセンターで待ってる皆に何か言われるかもしれないけど…特に紅也からお腹空いたとかお腹空いたとか。サクッとお土産買って帰れば大丈夫でしょ!
『あっ、嵐志!ちょっと寄り道してから帰りたいんだけ…どぉおおおぉおおお!?』
「わーかってるって!服だろ!姫さん!急いで並ぼうぜ!」
『わ、忘れてたぁああああ!』
そして冒頭に戻る。
嵐志に引っ張られて服を買いに向かっていた事を、スッカリと忘れてた。
『ちょ、ちょっと待…!速いから…!さ、酸素ぉおおお!酸素ください…!』
準備運動のおかげで一段と嵐志の足が速くなってる。服の前に酸素を…!酸素ください…!
「ひめさーん!ひーめさん!着いたぜ、何バテてんだ?」
それから酸素を何とか入手したけど、残念ながら服は入手出来なかったのでした。
『売り切れぇえええ!?』
end
「へーきへーき!姫さんが転ぶ前に受け止めてやるって!」
やけに上機嫌に引っ張られ続ける。今日は歩道が空いてて良かった…!人がたくさん居たらあたしは今頃確実にぶつかって、転んでると思う。
「それに早く買いに行かないと売り切れるんだろ?」
『そ、そうだけどちょっと待ってよぉおおお…!止まって!休憩して!酸素吸わせて…!』
現在ライモンシティの街中を足早に駆けている。何でもカミツレさんがプロデュースした可愛い服があるとかで、そういう訳なら手伝うと出てきてくれたのが嵐志だった。
さすがオシャレ番長。驚くほどの速さで酸素が薄いんですけどぉおおお…!
「お、あれか…!ちょっと並んでるな…急ぐぜ、姫さん!」
『ちょっ…!ちょっとぉおおお加速やめて転ぶからぁああああ!』
行列の面前でダイビングエントリーしそうなんですけど!
絶対に注目が集まる。百歩譲って嵐志があたしを受け止めてくれたとしても、それはそれで注目の的になりそう。
いやいや、どっちも阻止しないと恥ずかしい…!
『あっ…嵐志…!ちょっと、待っ…、』
「アーク君…!大変です…大変なんです!リオルくんが…リオルくんが…プラズマ団に奪われて…!」
「ん、姫さん?今なんか言ったか?」
あたしの弱々しい頼み声は、突然割って入ってきた力強い声によってかき消された。
今…プラズマ団って…
『嵐志…!待って…本当に止まって!はやく行かないと大変だから…!』
「わーかってるって、急いでるだろー?」
『そうそう!はやく行かないと服が売れて…ってそっちじゃない!』
呑気にノリツッコミしてる場合でも無いよね。って、雷士が居たら更にツッコミされてそう。
今は先に、声が聞こえた方へ急ぎましょうって言ってくれる蒼刃も居なかった。
あたしと嵐志で助けなきゃ…!
『誰かがあっちの方でプラズマ団にポケモンを奪われてるみたい…!急ぐよ、嵐志!』
「か、返してください…そのリオルくんは…私の大切な子なんです!」
「そんなに大切なら奪い返してみろ!我々に勝てたらの話だがな!」
やっと止まったあたしは酸素を吸う間もなく、プラズマ団と対峙している女の子を見つけた。
やっぱりあのプラズマ団…相変わらず酷い事してる。女の子相手に、大の大人が二人なんて許せない!
『…ごめん、嵐志。お願いがあるんだけど』
「後で行列に並ぶんだろ、その前に軽く準備運動だな!姫さん!」
『ありがとう!よし、はじめから全開でいくよ!』
バシッと助太刀に入ろうとした瞬間、あたしと嵐志をちらっと男の子が見てきた。
ん?なんだろ…一緒に居る女の子の友達かな。
「アーク君…!リオルくんを一緒に助けてくれませんか…!」
「人が多いな…仕方ねぇ、今日限りだ」
「姫さん!今戻すから、はやく行こうぜ!」
その男の子は嵐志と絶妙に同じタイミングで、姿をゾロアークに変えた。まさかのポケモンだったんだね…!
それにしても女の子とは何関係…今「仕方ねぇ」って、半分面倒くさそうに聞こえたけどあたしと紅矢関係じゃないといいね…!
「たかがゾロアーク一体だ!二人がかりで一気にやるぞ!」
「ああ!ゆけ、ズルッグ!」
「わわ…!アーク君…!二人の攻撃を注意して頑張ってください…!」
もう一人はザングースを繰り出して、二体がアーク君というゾロアークを囲む。慌てていたのは女の子の方で、ゾロアークは冷静に身構えていた。向こうの子は強そうだけど…あっちの女の子はちょっと心配だなぁ。
『うん、それじゃあ嵐志!ズルッグにつじきり!』
「…!
え、あの、あなたは…!」
『あたしはヒナタ、たまたま通り掛かったんだけどダブルバトルやるならあたしがタッグ組むよ!』
「え…あ、ありがとうございます…!救いの勇者様…!」
勇者様ってあたしぃいい!?
突然、助太刀に現れたあたしはやけに輝いた瞳で見られて心から盛大に称えられた。
雷士…見よ!あたしは今宵、勇者様になった!
〈見当たらないけど?〉
慣れって本当に怖い。安泰に雷士の幻聴が聞こえるから。
「それにしてもダブルゾロアークですか…!夢のような光景です!ゾロアークなだけに…幻覚でも見ているのでしょうか!」
えーと…ゾロアーク好き?
女の子は戦闘よりも嵐志とアーク君に目が入ってる。何とか強いおかげでアーク君は指示を出されなくても攻撃を出してた。
スゴイ!まるで女の子から指示を出されないのは極当たり前のように戦ってる!
ん…?当たり前のように?
「あ、あの私、ライナといいます…!バトルを無事に終えたら改めてヒナタさんのゾロアークさんに挨拶させてください!」
『うん、いいよ!嵐志は誰とも仲良くなれる性質だからきっとライナちゃんとも…』
「あああああありがとうございます…!興奮で頭がうまく回らな…っ、だ、大丈夫です!今はバトルに集中しますから…!」
しっかりと二人を見るライナちゃん。ひたすら目を輝かせたまま二人を見ては「頑張って!」と指示を出してる。というか、応援してる。
指示が出ないのは当たり前だったんだね!アーク君超頑張れ!
〈なぁ、名前は?俺は嵐志って言うけど〉
〈名前…俺は一応アークと付けられてる。
嵐志か、よろしくな〉
〈おう!じゃ“アッ君”だなー!〉
〈アッ君…。まぁ、呼び方は個人の判断に任せる〉
『って…バトル中に会話するくらい余裕!?
応援したのにぃいいい!!』
何気に初対面の即興タッグだから上手く戦えるかと思ったのにすっごい世間話して戦ってた。
ちょっと余裕すぎない!?
〈過剰反応だな、お前の連れはポケモンの声が分かるのか?〉
〈姫さんか、まぁなー!
アッ君の方はバトル不慣れっぽいけど〉
〈ああ、初心者トレーナーだ。お墨付きのな。だから敢えて俺はあいつの指示を聞かずに一人で戦ってる。〉
〈アッ君大変だなー…〉
〈全くだ。あいつは、体当たりの“た”の字さえ出せないヤツだからな。〉
二人の会話があまりにも筒抜けすぎて、あたしまで同情してきた。
アーク君超頑張れぇぇえ…!
『嵐志!ナイトバースト!』
バッチリと息を合わせて嵐志が出した技は、まとめて二体を圧倒した。お手本とまではいかないけど少しはライナちゃんの参考になれるといいな。
「くそ…!撤退だ!引くぞ!戻れ、ズルッグ!」
「ああ…!ザングース戻れ!」
そそくさとプラズマ団はライナちゃんの奪われたリオルを置いて逃げ出していた。良かった、ライナちゃんのリオルは無事みたい!
「準備運動終わったぜー姫さん!早く戻って服買いに…」
「ひ、ヒナタさん…!大変です…!ヒナタさんのゾロアークさんが消えました…!まさかさっきのプラズマ団が…!」
サっと人間に戻った嵐志にライナちゃんは全く気付かず、慌てる。お、落ち着いて!嵐志ならライナちゃんの目の前に居るよ!人間だけど!
「…もう行くのか」
「おっアッ君!また会えたらよろしくなー!」
「ああ。今日は…助かった。次会う日に礼を返すからな」
いつの間にかアーク君の方も人間になっていた。嵐志と同じくらいの歳かな、仲良くなったみたいで良かったね嵐志!
あたしも丁度同じ歳くらいの女の子と知り合えたから嬉しい。バトルってやっぱり良いものだよね!
相手はプラズマ団だったけど!
「あ、嵐志くんは此方に居たんですね…!全く気付きませんでした…!また会えたら、あの…是非レッツ友情バトルしましょう!嵐志くん!ヒナタさん!」
「おう、またなー!」
『勿論!また一緒にバトルしようね、ライナちゃん!』
「は…はいっ!今日は本当にありがとうございました…!」
しばらく、ライナちゃんたちの姿が見えなくなるまではゆっくりと歩いて手をふった。
友達出来たしプラズマ団も倒したし、言うこと無し!ちょっと日が暮れてきたからポケモンセンターで待ってる皆に何か言われるかもしれないけど…特に紅也からお腹空いたとかお腹空いたとか。サクッとお土産買って帰れば大丈夫でしょ!
『あっ、嵐志!ちょっと寄り道してから帰りたいんだけ…どぉおおおぉおおお!?』
「わーかってるって!服だろ!姫さん!急いで並ぼうぜ!」
『わ、忘れてたぁああああ!』
そして冒頭に戻る。
嵐志に引っ張られて服を買いに向かっていた事を、スッカリと忘れてた。
『ちょ、ちょっと待…!速いから…!さ、酸素ぉおおお!酸素ください…!』
準備運動のおかげで一段と嵐志の足が速くなってる。服の前に酸素を…!酸素ください…!
「ひめさーん!ひーめさん!着いたぜ、何バテてんだ?」
それから酸素を何とか入手したけど、残念ながら服は入手出来なかったのでした。
『売り切れぇえええ!?』
end