捧げ物 | ナノ





ここはイッシュ地方のライモンシティ。あたし達一行はファッション雑誌の最新号を買う為に遥々フキヨセからここまで戻ってきていた。

〈全く…わざわざ雑誌の為に戻るとか有り得ないんだけど〉

『う…だ、だって…ライモン限定の号だったから…』

ちなみに付録はカミツレさんプロデュースのオリジナルトートバック。すんごく可愛くて絶対欲しかったんだもん…。

『あーでも…疾風には可哀相な思いさせちゃったなぁ』

〈割と本気で落ち込んでたね〉

皆に戻ると伝えたら、疾風がボクがマスターを乗せて飛べたら早く戻れるのに…と大変落ち込んでしまったのだ。そんなつもりで言った訳じゃないけど、やっぱり悪い事をしてしまった。

『雑誌は買えたし、お詫びに疾風の好きな物食べさせてあげようかな。蕎麦とかね!』

〈お爺ちゃんみたいだよね〉

『渋いって言ってあげて!?』

そんな掛け合いをしながら街中を進んでいると、目の前を歩いていた女性のポケットからハンカチが落ちた。本人は全く気付いてない…これは知らせなきゃ!

あたしはすぐさま拾い上げてその人を呼び止める。

『あの、ハンカチ落としましたよ!』

「え?」

クルリと振り返ったその人は実に美形だった。声も低めで、中性的な女性…といった感じだろうか。そしてあたしの差し出したハンカチを見てニコリと笑った。

「あらあら、ゴメンなさいね。拾ってくれて助かったわ!」




…あれ?口調は女性だったけど…今何か完全に…声は男性だった、様な…

〈当たり前でしょ、この人男だよ〉




『…え、えぇえええ!?こんなに美人なのに!?』

「あら、中々褒め上手ね!」

嘘…!髪長いし美人だしてっきり女の人かと…。あ、でも…確かに男性って聞いたら男性に見えてきた。うん、それでもやっぱり美形さんだ。

「それよりあなた今…このピカチュウと会話した?」

『…あ、えっと…は、はい。あたしそう言う能力があるみたいで…』

しまった、初対面でいきなりバレてしまった…。やっぱり驚かれるかな?

けど、あたしの予想はハズれた。彼女…じゃなかった彼は、途端にその美しい顔を綻ばせてあたしの手を握ってきた。う、眩しい…!

「へぇ〜凄いじゃない!あ、そうそう!あなた今急いでる?」

『え?い、いえ…特には』

「本当?良かった!アタシ達今丁度お茶してた所なの。お礼をしたいから一緒に来て頂戴!」

『へ!?え、ちょ、ちょっとお姉さ…お兄さん!?』

そのままグイグイと引っ張られ歩く。やっぱり男の人なんだ…凄い力で離れない。ってそんな事言ってる場合じゃなくて!

〈まぁ良いんじゃないの、時間があるのは本当だし〉

『そ、それは…そうだけど』

本当にお邪魔していいのかな…。

けど結局楽しそうなお兄さんを見るとお断りする事が出来ず、あたしはそのままされるがままに連れられたのだった。




−−−−−−−−−−−




「あぁいたいた、あそこよ!」

『!』

美形オネエさ…お兄さんもとい八尋さんは仲間の人達と一緒にカフェで一休みしていたとの事。その言葉通り指差された場所には1人の女の子と2人の男の子がいた。

「あ、八尋おかえりー!トイレ行ってスッキリした?」

「こら、女の子が大きな声でそんな事言わないの!」

八尋さんに叱られたその子は特に落ち込むでもなく、素直にゴメンなさいと謝ってニッコリ笑った。か、可愛い…!

そして彼女は八尋さんの後ろにいたあたしを見つけて首を傾げる。そりゃそうだね、見知らぬ人が一緒にいるんだから。

「八尋、その子…」

「そうそう、この子も一緒にお茶して良いわよね?アタシのハンカチ拾ってくれたんだけどお礼がしたくて、無理やり連れて来ちゃった!」

「誘拐かよ…」

「あら、何か言った?流」

「別に」

おぉ、あそこに座ってる青い髪の男の子は流君って言うんだ。うんうん、美形さんだ。

「そうなんだ、勿論OKだよ!こっちどうぞ!」

女の子が席へと案内してくれたのでお言葉に甘えて腰掛ける。優しい子で良かった…!

「あ、ボクのどかって言うんだ。君は?」

『あたしはヒナタだよ!よろしくね』

そう言って手を差し出すとニパッと笑ってしっかり握り返してくれた。間近で見るともっと綺麗な金髪だなぁ…羨ましい。


「ねぇねぇヒナタちゃん、その頭にいるピカチュウも擬人化出来る?」

『あ、うん!出来るよー』

「そうなんだ!見てみたいなぁ…あっ後ね、ここにいる子達も皆ポケモンなんだよ!せっかくだし友達になれると良いんだけど」

『え…てことは八尋さんも?』

「えぇ、アタシはムクホークよ」

何と、八尋さんや2人の男の子達はのどかちゃんのポケモンだったんだ…。それにしてもムクホークかぁ、昴と同じだから何だか親近感湧いちゃう。

うん、そう言う事なら喜んで触れ合わせて貰おう!

あたしは立ち上がり4つのボールを開口する。人通りの多い所だし、のどかちゃんのポケモン達が擬人化してるから皆にもそうしてもらった。

あたしの仲間達を見てのどかちゃんが青い瞳を輝かせる。おぉう…!可愛い。



「わぁ…!あ、じゃあボク達の方から紹介するね!はいどうぞ流!」

「お、俺かよ!?」

突然の指名に動揺していたけど、ニコニコ笑うのどかちゃんを見て小さく溜め息を吐く流君。…あは、諦めてるって感じかな?


「俺はエンペルトの流だ。まぁ…よろしくな」

「童顔がコンプレックスです!」

「余計な事言うな!!」

こ、コンプレックスなんだ…。童顔良いと思うけどな、歳取ってからも若く見られるって言うし。

「そしてこの子は癒しの喜多君だよ!」

「っは、はじめ…まして…。ぼく、ガーディの喜多って言います」


『…え、』


「え?」


『えぇえええぇ!?』


「おいテメェ何でそこで俺を見やがった」

『だ、だってあまりにウチのガーディと違いすぎるから…!正しく天使と悪魔的な!!』

「よし歯ぁ食いしばれアホヒナタ」

『ゴメンなさい!!』

パキパキと指を鳴らして鋭い牙を見せ付ける様に口角を釣り上げる紅矢に青ざめる。で、でも本当に間逆なんだもん!


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