捧げ物 | ナノ





『見て見て皆!すっごい綺麗な海!』

「はい!本当にいつどんな時でもヒナタ様はお美しいです!」

『いや海の話ですけど!?』

「いいえヒナタ様!俺にとって海の美しさなど貴女の前では霞んで見えまぅぐっ!?」

「はーいはい、ちょっとは自重しよーなそーくん!」

『嵐志がいてくれて良かったと思わざるを得ない…』

「あ、はは…。でも、本当に綺麗なところだね、マスター!」

『うん!』


両手をガッシリ握り締めて来た蒼刃を嵐志が引き離してくれて、その様子に苦笑を贈ったあと疾風と共にもう一度海に目を向けた。


あたし達は現在アローラ地方のハウオリシティという場所へ来ている。ハル兄ちゃんがとある学者仲間から招待チケットを貰ったはいいものの、仕事の都合で行けないということであたしに譲ってくれたのだ。飛行機代や宿代など負担してくれる費用はあくまで人間1人分だったけれど、そもそも基本的にはボールに入っているからという理由でポケモン達の分の旅費は無料だからとても有り難い。勿論現地での食事代とかは自費だけどね!

まぁその点は皆が普段バトルで稼いでくれている分いくらか余裕はあるし、せっかく来れたのだからこの素晴らしい景色を堪能しようと散策に出ていたのだけど…冒頭の通り蒼刃が盛大にボケてくれたものだから早速突っ込んじゃったよね。全く蒼刃は相変わらずお世辞が大袈裟なんだから。


『よし、じゃあ気を取り直して散策スタート〜!』

「ぶはっ、楽しそーだな姫さん!」

『そりゃそうだよ!すごく賑やかだしお店もたくさんあるし、何より景色が最高だし!』

「雷士達も、一緒に来たら良かったのにね…」

『あー…もうあのマイペース3人組もといドSトリオはちっとも言う事聞かないからさ』

「俺は別に奴等がいなくとも全く構いませんが…」

「そーくん正直過ぎんだろ!」


嵐志はツボに入ったらしく爆笑しているけれど、本気で蒼刃にそう思われてしまう雷士達も問題だよね…。ともかく雷士、紅矢、氷雨は今はホテルでお留守番中なのだ。慣れない飛行機での旅に疲れたから休みたいとのことだけれど、それは一部口実だろうなぁとあたしは思っている。多分一番の理由は割と元気が有り余っているあたし達に付き合うのは面倒とかそんな感じだろう。

ま、いいけどね!今はそんなドSトリオのことは置いておいて、一緒に来てくれた蒼刃達とこの時間を楽しまなきゃ損だから。それにしても本当に綺麗なところだなぁ。さすが人気の観光地って感じ!気温もポカポカしていて気持ち良いし、何より住んでいる人々がとても陽気で優しそうだから慣れない場所でも安心出来る。


「ね、ねぇ嵐志。あの両手を開くみたいな動きって…何をやっているのかな?」

「あー、確かこの地方での挨拶だったか?アローラって言いながらあーやるのが風習なんだと!イッシュにはあんな挨拶ねーから面白ぇよな!」

「なるほどそうして距離を縮めるということか。だが挨拶を装いヒナタ様に不用意に近付こうとする男がいれば即この拳の餌食にしてやる…!」

『不穏!!』

「だ、大丈夫だよ、蒼刃…。ボク達だっているんだし、もっと普通にマスターのこと、守れると思うよ?」

「だな!それに見る限り挨拶やってんのはオッサンとかキレーな姉さんばっかだしよ、そのパターンだけで言えばそーくんが心配するよーなことは起こらねーって!」

『はっ…!き、綺麗なお姉さん…!?』

「?マスター…?」


辺りを見渡すと、確かに美人で可愛いお姉さん達がたくさん歩いている。しかも土地柄か薄着の人が多いし…。こ、これは危険かも!


(ナンパ思考の嵐志の魔の手から女の子を守れるのはあたししかいない…!)

「姫さん今オレに対して失礼なこと考えてんだろーなー」

「はっ!ヒナタ様からの信用が無いとは無様だな嵐志」

「う、嬉しそうだね、蒼刃…」


あ、でも蒼刃も守れるよね!女の子!ともかくこの場所では嵐志に自由行動させるのはマズイかもしれない…。それに人も多いしはぐれてしまう可能性を考えると皆一緒にお店巡りした方が…って、あれ?


『あの子達…どうしたのかな』

「え?…あの小さい女の子と、男の子のこと?」

『うん。親っぽい人も周りにはいないみたいだし…もしかして迷子かな?』


あたし達の少し前方で、道のど真ん中にも関わらず立ち止まっている2人の子供。でも辺りをキョロキョロ見回しているから多分親を探しているのだろう。


「うっし、んじゃ散策の前に人助け…つーかポケモン助け?といこーぜ姫さん!」

『えっポケモン?あの子達ポケモンなの?』

「はい!波動も見ましたので間違いありません!」

「そ、それに尻尾みたいなのが見えたから、そうだと思う!」


目を凝らしてよーく見てみると、確かに男の子の方にオレンジ色の尻尾が生えていることが分かった。すごい、疾風ってばよく見えたなぁ。人混みに紛れていて言われるまで気付かなかったよ。でもポケモンだろうが人間だろうが困っていそうな相手には声をかけるべきだよね。おまけにあの子達はまだ小さいし!


『ねぇ君達!親…えーと、トレーナーさんは一緒じゃないの?』

「え?」


突然声をかけられたことに驚いたのだろう、2人は大きな目を更に丸くしてキョトンとしている。うわぁ、どうしようすっごく可愛いんだけど…!


「…お前、だれ」

「灯李、そんなこと言ったら、ダメ」

『あ…いきなりビックリしたよね、ゴメンね?君達小さいのに2人でいたから、もしかして迷子かなと思って声をかけたの』


女の子の方が年上なのかな?たどたどしい口調でたしなめた姿が微笑ましい。でも男の子の方は中々警戒心が強いようだ。まぁこのご時世ではその方がいいと思うけれどね。


「姫さん、ここ道のド真ん中だし移動した方が良くねーか?」

「俺も同意です。ひとまず端に連れて行きましょう」

『あ、そうだね!2人共、ここに立ってると人にぶつかったりして危ないから、あたしと一緒に道の端っこに行ってくれる?』

「うん、分かった」

「おい!知らないヤツに付いて行ったら…!」

「でもわたしたちが困ってるの、本当。それに…悪いヒトじゃない。何となく、分かる」

「〜…っ!」


渋々…という感じだったけれど、何とか男の子も一緒に来てくれる気になったらしい。良かった、どういう状況なのか教えてもらえないと対処することも出来ないもんね。

ひとまず人通りが少ない道の端に2人を移動させて、少しでも安心してもらえるように自己紹介をすることにした。


『まずあたしの名前はヒナタ。それと左から蒼刃、疾風、嵐志だよ。3人も君達と同じポケモンで、あたしはそのトレーナーなの!』

「!ポケモン…なのか?でも、オレみたいに尻尾出てない…」

「あー、オレも最初の頃は耳とか尻尾が出ちまったりしたっけか。まーそのうち完璧に擬人化出来るよーになるから心配すんなって!」

「うわ…っや、やめろよ!」


嵐志にグシャグシャと頭を撫でられた男の子が、その手を必死に振り解こうと暴れている。でも頬が赤くなっているから照れているのかな…?何にせよ可愛い光景だね。


「お前達の名は?」

「わたし、澄。こっちは、灯李。チサトちゃん…わたしたちのトレーナーと買い物してて、でも、いつの間にかいなくなってた…」

『澄ちゃんと灯李くんね。そっか、やっぱり迷子…ん?チサトちゃん…?今、チサトちゃんって言った!?』

「!?ち、チサトのこと知ってるのか?」

「マスター、その子ってもしかしてこの前話してた…、」

『うん!つい最近友達になった女の子!ねぇ、澄ちゃん達のトレーナーのチサトちゃんって髪は長い?色は…えーと、蜂蜜色って感じの!』

「確かにそんなだったな…」

『じゃあじゃあ、雰囲気はふわふわしてて優しそうで、天使みたいに超絶可愛い女の子!?』

「姫さーん、思いっきり主観が入ってるぜー」

「ヒナタ様以外に天使など存在するのか…?」

「そ、蒼刃、とりあえず静かにしておこう?」


おっといけない、ちょっと興奮しちゃった。あたしの中のチサトちゃん像をありったけ伝えたつもりだけど…分かってくれたかな?


「んーと…チサトちゃん可愛いから、きっとそう!」

『やっぱり!?良かった〜!』

「今ここにらいとんがいたら何かしらのツッコミをしてそーだな…」

「う、うん…」


少しだけ考えていた澄ちゃんだけど、すぐに大きく頷いて笑ってくれた。そっかそっか、やっぱりあのチサトちゃんなんだね!アローラに住んでいるのかな?でも知らない人を探すよりもずっと楽になるから良かった!


『よし、あたし達も一緒に探すよ。きっと力になれると思うから!』

「本当!?」

「…でも…」

「え、遠慮しないで?それにボク達のマスターは、全然怖くないよ。とっても優しいんだ!」

「!…分かった、じゃあ…頼む」


疾風のマイナスイオン全開な笑顔に絆されたかな?何はともあれ灯李くんも納得してくれたようだ。そうと決まれば早速行動しないとね!きっとチサトちゃんと晴琉も今頃心配して探し回っているはず。少しでも早く合流出来るように手助けしたいから。


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