捧げ物 | ナノ





『遊園地だよライナちゃん!!』

「遊園地ですね、ヒナタさん!」

「わざわざ口にしなくても見れば分かるだろ」

「まーまーアッくん、そー冷たいこと言ってやんなって!」



現在オレと姫さん、アッくんとなっちゃんの4人でライモンの遊園地へと来ている。先程カミツレさんのショーを見終わったオレ達は、またまた偶然にもアッくん達に遭遇した。

んで姫さんはなっちゃんに会えたのが嬉しいのか、せっかくだから一緒にどこかへ行こうと誘って遊園地へと来たのである。



…ん?遊園地…?



そこでオレはハッとした。前を歩くのは姫さんとなっちゃん、そして後ろを歩くのはオレとアッくん。遊園地にいる男女4人…つまり、



「…あ、アッくん…!これって、ダブルデートだよな…!?」

「…いきなり何を言い出すかと思えば…さぁな」

「さぁなじゃねーよ何でんなクールなんだよ!ほら周りを見ろよアッくん!カップルばっかだろ!?」


アッくんはチラリと辺りを見回しただけで、すぐに興味が無さそうに溜め息を吐いてしまった。あーもークール過ぎだって少しはノってくれてもいいんじゃーの!?


「信じらんねー…!アッくんだって嬉しいだろ?なっちゃんとイチャつけるチャンスなんだぜ!?」

「誰がアイツとイチャつきたいなんて言ったんだ!」

「うぉ!?ちょ、あぶねーな!んな照れなくても分かって…へぶっ!!」

「だ ま れ !!」



『ちょ、何事何事?ウチの嵐志がまた何かやらかしたのかなアークくん?』

「わわ…!け、ケンカはダメですよ、アークくん!」

「コイツがふざけたことを言うからだ」

「き、キッツイぜアッくん…」


後ろで騒いだオレ達に何かあったのかと2人が振り向き、アッくんはしれっとオレが悪いと言い放つ。いやまぁ確かに事を吹っ掛けたのはオレだけどよ…にしても思い切り脳天チョップするのは反則だろ。

手加減を知らないアッくんの攻撃にジンジンと痛む頭をさすり、オレは姫さんが心配しないようにと再びヘラリと笑んだ。全くアッくんのツンデレも困ったもんだぜ!

ちなみにこれで懲りるオレじゃあない。今この場にらいとんやそーくんを始め、アッくんとこのファクトんもいない。それはつまりオレは姫さん、アッくんはなっちゃんに近付き放題ということだ。(アッくんは断固否定しているが)

たとえアッくんとなっちゃんがラブラブになるのは難しいとしても、せめてオレと姫さんの距離をグンと縮めることくらいは何としても…ん?


(…そーだ、いーこと思いついたぜ!)


そう、きっとコレならオレもアッくんも互いに姫さん達との距離を縮められる。ニヤリと口角が吊り上がったオレを見てまたアッくんが眉を寄せたが、ワザと気付かないフリをしてやった。



「姫さん姫さん!」

『ん?何々?』



運良くなっちゃんとアッくんがジュースを買いにその場を離れた隙に、ベンチに腰掛けていた姫さんにコソッと耳打ちをする。


「…でな、アッくんとなっちゃんがいい感じになれるようセッティングするんだよ。んでオレ達2人はそれを陰から見守ろうと思うんだ」

『お、おぉう…!さすが恋愛のスペシャリスト!その作戦乗りました師匠!』

「いやオレ一回もスペシャリストなんて自負したことねーけどさすが姫さん!ノリが良いな!」


ビシッと敬礼をする姿が可愛くて、内心悶えちまったけど今はしっかり作戦を実行することに集中する。

早速ジュースを持って戻ってきた2人を何事もなかったかのように出迎え、けどさり気なく隣同士を歩かせた。

アッくんは何となく不審に思ったのかオレの方を何か言いたげに見てきたが、オレはニカリと笑みを返すだけ。

そして姫さんもどことなくワクワクしたかのように軽やかな足取りで、他人の恋愛沙汰にも興味があるといった所はやっぱり女の子だなと思った。


「あ…ヒナタさん!私あそこに行きたいです!」

『どこど、こー…?』


なっちゃんが指差した方を見た瞬間、ひくりと姫さんの顔が引きつったのをオレは見逃さなかった。そこにあったのは、所謂お化け屋敷というアトラクション…。

あぁ、確か前姫さんとこーちゃんで入ったことがあるんだっけか。んでタダでさえお化け嫌いなのに、こーちゃんに散々脅かされてトラウマになったとか何とか…ぶはっ、確かに顔も引きつっちまうよな!


「…?あ、あの、もしかして嫌でしたかヒナタさん?」

『…はっ!あ、ぜ、全然だいじょーぶだよ!うん行こうライナちゃん!』

「…おい嵐志、本当にお前の連れ大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃねーかもな…ま、オレもアッくんもいんだし何とかなんだろ!」


なっちゃんだけでなく姫さんの心配までしてくれるアッくんはやっぱり優しいヤツだ。だからオレもアッくんとダチになりたいって思ったんだけどな!

小刻みにプルプル震えてる姫さんの手をさり気なく握ってやると、一瞬驚いたかのように目を丸くさせたがすぐにニコリと笑ってくれた。う、ヤベー…ホントにデートみてーでちょっと恥ずかしいな。

前はなっちゃんとアッくん、後ろはオレと姫さんと続きお化け屋敷までの道を歩く。するとどうやらこのお化け屋敷は中々に人気があるらしく、かなりの長蛇の列が出来ていた。


「…ん?うわ、見えるかアッくん?」

「あぁ…面倒だな」

『何々?どうかしたの?』

「ひ、人が多くて私達では見えません…!」


確かに姫さんやなっちゃんの身長じゃ見えねーだろーな、まーそれを抜きにしても人間にあの距離の字なんて見えねーと思うけど!

オレとアッくんの視線の先にあるのは遊園地のスタッフが持ったプラカード。そこには整理券を受け取ってから並んでほしいとの旨が書かれていた。

あまりの混雑ぶりにとった対処法なんだろーけど、アッくんも呟いた通りメンドくせー。でもここで並ぶのをやめると言えばなっちゃんが悲しむだろう。そしてそれを姫さんも望まない筈だ。

 
「よっし、んじゃオレとアッくんで券貰ってくるから2人はここで待ってな!」

「いいか、絶対動くなよ。特にライナ」

「し、心配無用ですよアークくん!」

『あは、ありがとね2人共!じゃあ待ってる!』


女の子2人にあの人混みはキツいだろうということで、ここはオレら男が行くことにする。にしても人間っつーのはどーしてこう人間が集まる所に来たがるんだろーな。

そんなことを考えながらアッくんと2人整理券を貰う為窓口へと向かう。こりゃ少し待たせることにかるかもなー…。


「…嵐志、あそこ見ろ」

「ん?」


あそこ、と言ったアッくんの視線を辿るとそこにいたのは楽しげに会話をしながらオレらを待つ姫さんとなっちゃん。

…だが、アッくんはその後ろで2人を卑しい目つきで見つめているヤロー共をキツく睨んでいた。


(…あぁ、こりゃもっとメンドーなことになるかもな)


オレとアッくんはどちらからともなく踵を返し走り出す。最早整理券の為に並んだことなど頭から抜けてしまっていた。









「へへ…2人共可愛いな。俺達と遊ぼうぜ?」

「俺こっちの黒髪の子がいい!」

「きゃあ…っ!?」

『!ちょ、ライナちゃんに触らな…あっ!?』

「俺はこっちの子!うわー、綺麗なオレンジだね!染めてんの?」

「っヒナタさん!」

(ど、どうしよう…ビクともしない…!)


ギュウ、と涙が零れそうになる瞼を強く瞑り歯を食いしばる。所詮は男女の力の差、ヒナタとライナが抵抗しようとも振り解くことは出来ない。

ニヤニヤと下品に笑う男達に声をかけられたかと思えば執拗に迫られ、か弱い少女2人は絶体絶命のピンチに陥っていた。


「さーて…何して遊ぼうか?」


ワザとらしく顔を近付けてくる男にヒナタは恐怖と不快感を募らせる。真っ直ぐ伸びてくる手にとうとう涙が一筋零れた。


(助けて、嵐志…!)



「なぁ…随分楽しそーなことしてんじゃんアンタら?」

「俺達も混ぜろよ」

「…!?な、何だお前ら…!」

『「…!」』


頭上から降ってきたのは互いによく聞き慣れた青年の声。ヒナタが顔を上げると嵐志がいつもの快活な笑顔を見せ、アークはライナの頭にポンと優しく手を乗せ撫でた。


『っあ、嵐志…!』

「アークくん…!」

「ゴメンな、怖かっただろ?でも…もー大丈夫だぜ」

「お前達は下がってろ」


バキボキと指を鳴らすアッくんに苦笑しつつオレも肩をぐるりと回した。さすがに原型で相手すると死んじまうかもしれねーからな…今回はこのままの姿で勘弁してやるよ。


「オレらのお姫サマに気安く声かけた罪…その身を以てしっかり償えよ?」

「…相手が悪かったな」

「ひ…っ!?」


情けない悲鳴を上げたヤロー共はまさしく逃げ帰るようにその場を去った。あーらら、オレとアッくんが少し威嚇しただけでアレとは…ダッセーの!

まー姫さんとなっちゃんに余計なモン見せずに済んだと思えば結果オーライだ。言った通り少し離れた所で見守っていた2人はヤロー共が去ったことに緊張感が抜けたのか、安堵した表情を浮かべオレらの元に走り寄ってきた。


『あ、ありがとう2人共…!本当に助かったよー!』

「ありがとうございます!私達、もうダメかと思いました…!」

「気にすんなって!2人が無事ならそれでいい。な、アッくん?」

「…余計な心配はさせるな」


ぶはっ、相変わらず素直じゃねーなアッくん!ぶっちゃけオレよりも殺る気満々だったクセにな!

ニコニコと笑うなっちゃんに何度もお礼を言われ、少し顔を赤らめながら満更でもなさそうなアッくんを意地悪く眺めてやる。

すると姫さんがすすっと隣りに寄ってきて、小さくオレの服を引っ張ったから少し屈んで耳を寄せた。


『ねぇ嵐志、ライナちゃんとアークくん…あたし達が何もしなくても、結構雰囲気良さそうだね!』

「…そーだな、余計なお世話だったかもな。ま、オレと姫さんも結構イイ雰囲気だと思うけど!」

『う、わぁっ!?』


姫さんの腕を引っ張りその小さな体を強く抱き締める。姫さんがアワアワともがくのも、周りの人集りが何か微笑ましそうな目で見つめてくるのもお構い無しだ。


「ほらアッくん!アッくんもギューッと!」

「そうですよアークくん!さぁどうぞ!」

「出来るか!!」


ドンと来いとばかりに手を広げるなっちゃんと、やれやれとはやし立てるオレを一喝したアッくんは不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。

あーあ、せっかくなっちゃんも待っててくれてんだし素直に…は、なれねーんだろーな。けどそんなアッくんのことをなっちゃんは分かってやってるみてーだし、姫さんの言う通り余計な手出しは無しにするか!


『ちょ、嵐志…!そういえば整理券は!?』

「あ″…忘れてた」

「た、大変です!早くしないとお化け屋敷に入れなくなってしまいますよ!」

「分かったから騒ぐな…もう一度行ってくる」

(…!もう一度…!)


アッくんの言葉に再び名案を思いつく。これくらいは、手助けしたっていーよな?


「アッくん!」

「…?」


ぎゅう、とアッくんの手に握らせたのはなっちゃんの手。キョトンとするなっちゃんとは正反対にみるみる真っ赤になるアッくんを見て思わず吹き出しちまった。

今にもキレそーなアッくんにニカッと笑い、オレも姫さんの手を握る。


「次は皆で並ぼーぜ!また姫さんとなっちゃんが絡まれでもしたらたまんねーし、手も繋いどかねーとな!」

「…っお、おい待て嵐志!」


アッくんの言葉を聞かず、姫さんを連れて駆け出す。ぶはっ、諦めて男見せろよアッくん!

そうして渋々…まぁ内心は違うだろーけど、なっちゃんと仲良く手を繋ぐアッくんを見て姫さんとこっそり笑い合ったのはここだけの話だ。




(アッくん!次は海で水着デートといこーぜ!)

(絶対行かないからな…!)

(あは、嵐志とアーク君仲良しだね!)

(はい!私も嬉しいです!)



end


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