捧げ物 | ナノ





「…よし、んじゃーあっちは姫さんに任せて…。まずオレからな!種族はゾロアークで、名前は嵐志!よろしくなー!」

「ぼ、ボクは疾風!フライゴンだよ!」

「嵐志に、疾風か。お前達にもトレーナーからもらった名前があるんだな。俺は晴琉、ガブリアスだ。よろしくな。」

「私はチサトです!まだまだ駆け出しだけど、一応ポケモントレーナーとして頑張ってます…。」

「ううん、一応じゃない。チサトちゃん、いつもすっごく頑張ってる!」

「…まぁ、そうかもな。」

「あ、ありがとう澄ちゃん、灯李…!」

「ぶっは!すーちゃんもりっくんも良い子だなー!」

「ん?それって…。」

「分かった!わたしと、灯李の名前!」

「おー、せーかい!まー名前っつーかあだ名だけどな!」



『…あれ?何かもう仲良くなってる!』

「あ、ヒナタちゃん!よ、良かった…誤解は解けたんだね。」


苦笑を浮かべているチサトちゃんにあたしも似たような表情しか返せなかった。いやぁ蒼刃の説得は大変だったよ…。晴琉とは何でも無いというか、彼はチサトちゃん一筋だからむしろあたしは2人を応援していると説明すると、思っていたよりかは早く納得してくれたけれど。でもその労力のお陰で今の蒼刃はスッキリした顔をしているから結果的には良かったのかな?

何はともあれ皆の元に戻ってみると嵐志や晴琉達は楽しそうに笑っていた。あたしがいない間にもう打ち解けたとか、ちょっと羨ましいけれどやっぱり嬉しいな。まぁ嵐志のコミュニケーション能力はピカイチだしね!


「ほらそーくん、戻ったところで自己紹介!」

「お前に言われずとも分かっている!…名乗り遅れたが俺は蒼刃、種族はルカリオだ。」

「ガブリアスの晴琉だ、よろしくな。」

「チサトです。よろしくお願いします!」


うんうん、これでこの場にいる全員が紹介出来たね。あたしの方にはあとドSトリオがいるけれど…。あ、でも雷士は前回会っているから残りは紅矢と氷雨だけかな。うーん、やっぱり無理やりにでも連れ出した方が良かったかなぁ。

せっかくの機会だったのに、と残念に思っていると、澄ちゃんがパタパタとあたしの元に駆け寄って来た。


「ヒナタちゃん!すーちゃん、わたしの名前!」

『ん?…あ、もしかして嵐志の洗礼?』

「洗礼って姫さん…。」

『だって嵐志があだ名をつけるのは恒例行事みたいなものだもん!』

「そういえば…ヒナタ達のことも変なふうに呼んでるな。」

「りっくん変とか言うなっつーの!」

『おーなるほど、灯李くんはりっくんなんだね!』

「じゃ、じゃあ…チサトさんと、晴琉は?」

「ちーちゃんに、はるるん!」


いつも通りの快活な笑顔で嵐志がそう言い放った、3秒後。

――――――あたし達(晴琉を除く)は盛大に噴き出してしまった。




「ふっ、ふふ…っ!」

「はるるん…っ!」

「おいお前ら笑うな!!何で俺のせいじゃないのに俺がおかしいみたいになってるんだ!?」

「い、いいじゃない、はるるん…かわ、可愛いよ…っ!」

「そういう割には笑いすぎて苦しそうだなチサト…?」

『うんうん可愛いと思うよはるるん!』

「悪いがお前に笑われるのは許せない」

『さすがチサトちゃんガチ贔屓!!』


晴琉も怒らせると怖いんだね…今にも噛み付いてきそうな形相で睨まれてしまったよ。でもチサトちゃんには然程怒らないところを見ると、申し訳ないとは思いつつも顔がニヤけてしまう。ふふふ、愛するチサトちゃんだもんね、可愛いもんね。そりゃあたしには容赦なく怒れてもチサトちゃんには怒れないよね!


「な、何か、マスター笑ってる…?」

「む…!ヒナタ様は今お喜びだ!波動が黄色く輝いている!」

「波動使ってまで姫さんの深層心理を暴くのはやめよーなそーくん!」


んん?ちょっとちょっと嵐志達ってば、騒ぐから晴琉とチサトちゃんのやり取りが聞こえないじゃん!…って、何かあたし友達の恋路を見て喜ぶとか変態っぽいよね。でも2人のこと真剣に応援しているから気になっちゃうんだよ…。


「晴琉、あだ名イヤ?」

「はるるん、イヤなのか?」

「澄と並ぶな嵐志!わざとやってるだろ!」

「私はちーちゃんなんて呼んでもらえて嬉しいけれど…」

「ちーちゃん、可愛い!」

「だろー?はるるんも、せっかく可愛いちーちゃんと一緒にいんだからそれくらいノッてくれてもいいんじゃねーの?」

『…!!』


嵐志のその言葉を聞いたその瞬間、あたしは当初の懸念を忘れかけていた自分を強く憎んだ。そうだ…嵐志は生粋の女の子好き…!しかもすぐ傍には可愛いとしか言いようがないチサトちゃんがいる!


『―――っあ、安心して晴琉!チサトちゃんはあたしが絶対守るからね!』

「嵐志を成敗する際はこの俺にお任せ下さいヒナタ様!!」

「もうこのくだりやめよーぜ姫さん!!」

「え、えっと…?」

「せーばいって、悪いヤツに使う言葉だろ?嵐志って悪いのか?」

「ち、違うんだけど…これもいつものことだから、気にしないで…」


嵐志は今はもう女好きってわけじゃないと弁解したけれど、あたしは正直それを信じきってはいないからね!だって女の子好きじゃなかったら初対面のあたしをナンパなんてしないと思うし。

そうしてチサトちゃんをあたしの後ろで庇うようにしていると、不意に澄ちゃんが近寄って来てチサトちゃんの服の裾を引っ張った。


「どうしたの?」

「わたし、すーちゃん嬉しい。でも…やっぱり、チサトちゃんがくれた名前、一番嬉しい!ね、灯李!」

「あ!?…ま、まぁ…そう思わなくも、ないけど…」

「ほら、灯李もおんなじ!」

「…っありがとう2人共〜っ!」




「…ま、マスター、大丈夫…?」

『もう無理ホント無理…何あれ何あの子達みんな可愛すぎて死んじゃう…っ』

「今日の姫さん忙しーぜ…」

「俺にとって可愛いのはヒナタ様だけだが」

「何というか、蒼刃はすごく分かりやすいな…」

「お、さすがはるるん。もう色々慣れてきた感じだな!」

「はは…(これでは雷士も苦労してそうだ)」


…ふう、危うく可愛さで殺されるところだった…。こんな可愛い子達と一緒だなんて本当に晴琉ってば果報者だよ!


「…あっ!い、今何時?」

『へ?えっと、もうすぐ16時になりそうなところだけど…』

「大変…!今日は夕飯を作るつもりだったから早く帰らないと!」

「そうだな…そろそろハウも腹を空かせて帰ってくるかもしれない」


澄ちゃんと灯李くんに感激していたチサトちゃんが突然我に返ったように慌て始めた。話を聞くと、何でもチサトちゃん達は今ハウオリシティの外れに住んでいる人達のお家で居候しているらしい。それで普段お世話になっているから恩返しの為に、今晩の食事を作ろうと買い出しに来ていたようだ。それと明日はそのお家の方と出かける予定なので準備もしなければならないとのこと。忙しいんだねチサトちゃん…。

ちなみに澄ちゃんが嬉しそうに教えてくれたけれど、チサトちゃんは料理がとっても上手らしい。え、ちょっとただでさえ可愛いのに料理まで完璧とか女子力…!


(あ…でも、一緒にご飯を作って食べたりするのも楽しいかも!)


あたしも料理だけはまぁ人並みに出来るとは思うし、女の子同士ワイワイやりながら共同作業とか絶対素敵だよね。今日はもうここでお別れしなければいけないけれど、次会えた時にそういうことも出来れば嬉しいな。


「ゴメンねヒナタちゃん、私達そろそろ…」

『うん!今日はチサトちゃん達に会えて良かった。あ、それとあたしの仲間はあと2匹いるからまた今度紹介するね!』

「あぁ、それは楽しみだ。雷士にもよろしく伝えてくれ」

「ヒナタちゃん!一緒に探してくれて、ありがとう!嵐志も、蒼刃も、疾風も!」

「…またな」

『バイバイ澄ちゃん!灯李くん!あぁああ寂しいよ心の底から寂しいよあたしのオアシス達…!!』

「ご安心下さいヒナタ様!俺がいつ何時でもお傍にいます!」

「はーいはい分かったってそーくん!んじゃ元気でなー!」

「ま、またね…!」


ちぎれんばかりに手を振り合って、遠ざかっていく後ろ姿を名残惜しくも見送る。またね、とは言ったものの…次はいつ会えるかなぁ。あたしは明後日にはイッシュに帰らなければいけないし、恐らく滞在中にもう一度会うということは難しいだろう。


「…ヒナタ様、そのようなお顔をなさらずとも必ずまた出会えます。貴女はどうか笑っていて下さい」

「おー、最後に決めたなそーくん!」

『えっ?…あ、あたしそんなに沈んだ顔してた?』

「まーな。でもそーくんの言う通りだぜ姫さん!」

「うん!それに、飛行機じゃなくたって…ボクが頑張って、アローラまで飛ぶよ!」

『〜…っ!ありがとう疾風ぇえええ!!』

「オレは!?そーくんは!?」

『勿論2人も!!』


何とも健気なことを言ってくれる疾風に思わず涙ぐんでしまった。蒼刃も嵐志も励ましてくれて本当に嬉しい。そうだよね、土地は違えど同じ空の下にいるんだもん。会おうと思えば必ず会えるよね!さすがにイッシュからアローラまで疾風に飛んでもらうわけにはいかないだろうけれど…。


(でもきっと大丈夫。あたしの旅がひと段落したらまたここへ来よう)


それまでどうか、元気で。それとあたしのこと忘れないでいてほしいな。

あたしはその願いを込めながら、彼女達が去って行った方を見て微笑んだ。


『アローラ!チサトちゃん!』



end



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