捧げ物 | ナノ





あたしは超絶美少女ことシスイちゃんとデパートの屋上にある休憩スペースへと来ていた。せっかく友達になれたのだから少しお話しない?と誘ってくれた彼女に、感激のあまり涙腺が崩壊しかけたのは言うまでもない。

シスイちゃんはここミナモシティに仲間達と住んでいて、別段ジム巡りや図鑑集めなど特別なことはしていないとのこと。でも、そうやって大切な家族とゆったり穏やかに日々を過ごすのもとても素敵だと思う。そう言うとシスイちゃんは、ヒナタちゃんみたいにしっかりやりたいことや目標を持っているのだって素敵よ、と笑ってくれた。


『ゴメンねシスイちゃんやっぱり抱き付いてもいいかな…!』

「全然大丈夫よ?」

『やったぁあああシスイちゃん可愛いぃいいい!!』

〈被害者になって可哀想だね〉

『お黙り雷士!!』

「ふふ、ヒナタちゃんと雷士くんは仲良しね」

「まーコレもらいとんの愛情表現だからな!」


ふんわり良いニオイのするシスイちゃんに抱き付きながら可愛くないことを言う雷士を睨む。シスイちゃんと嵐志は喧嘩するほど何とやらだと言うけれど、あたしとしては意地悪を言われるのはあんまり嬉しくないのになぁ。


『…あれ、そう言えば…シスイちゃんは今日1人で来てるの?』

「いいえ、仲間が1人一緒に来てるのだけどトイレに行っていて…あ、噂をすれば丁度戻ってきた」

『え?』


シスイちゃんの視線の方を見ると、少し遠くから黒髪の男の人がこちらに向かってくるのが分かった。おぉ、あの人が仲間なんだ…ポケモンなのかな?仲良くなれるといいんだけど…などと思いながら彼を見つめていたら、段々早足になった男の人の表情がかなり険しいものであることに気付く。え、何か…怒って、る?


「シースーイー…!場所を移動するなら言え!探しただろうが!」

「あ…ご、ゴメンね、獅闇。獅闇ならニオイとかで追えるしいいかと思って…」

「ったく、心配させやがっ…ん?」


獅闇、と呼ばれた男の人があたし達に気付いてこちらに視線を向ける。うわ、カッコ良い人…シスイちゃんと一緒にいたら正に美男美女だなぁ。


「紹介するわ獅闇、この子はヒナタちゃん。ピカチュウが雷士くんで、あちらが嵐志くんよ」

『よ、よろしくお願いします!シスイちゃんとはついさっきお友達になりました!』

「そうか…俺は獅闇、よろしくな」

(…っき、綺麗な声…!)


小さく笑みを浮かべた獅闇くんの声に思わず顔が熱くなる。何と言うか、甘くてうっとりしてしまうような美声だ。容姿どころか声まで綺麗だなんてズルすぎるんじゃないだろうか。氷雨も良い声だけれど、獅闇くんは別格だなぁ…と感心した瞬間、雷士がバチっと静電気攻撃をしてきた。


『ぃたっ!?な、何すんの雷士!』

〈ムカついたから〉

『何で!?』

「…へぇ、ヒナタもポケモンの言葉が分かるのか」

「そうなの、だから余計に仲良くなりたいって思ったのよね」


あたしの問いには答えずムスッとしている雷士を不思議に思いつつ、ピリピリと痺れる手を擦る。全くもう、本当に肝心なところは言わないんだよね…。

どうやら今のやり取りで獅闇くんにもポケモンと話せるということが伝わったらしい。シスイ以外でそういう奴と会うのは初めてだ、と珍しいものを見る目で見られたのは少し恥ずかしかった。


『…ん?嵐志、獅闇くんことガン見してどうしたの?』


先程から言葉を発していないと思っていたけれど、嵐志は何故か獅闇くんをジッと見つめていた。それこそ頭の先から爪先までというくらいに。んー…、と呟きながら獅闇くんに近付く嵐志に、見つめられている獅闇は首を傾げた。


「何だ?俺に何かついて…、」

「いや…アンタ、ひょっとして悪タイプか?」

「は?あ、あぁ…そうだけど、それがどうかしたのか?」


あ、やっぱり獅闇くんってポケモンなんだ。けれど獅闇くんの言う通り、どうして嵐志はそんなことを聞いたのだろう?当の嵐志はと言うと、獅闇くんの答えを聞いてパァッと明るい表情を浮かべた。


「やっぱりそーか!いやーオレ、プラズマ団のポケモン以外で同じ悪タイプに会ったの初めてだから嬉しくてさ!」

「っそ、そう…なのか?」

『あ、確かにそうかも…。でも嵐志、どうして獅闇くんが悪タイプだって分かるの?』

「同族特有の雰囲気みてーなので何となくだな!」


うわぉ、ポケモンって凄い…!満面の笑みで獅闇くんに話しかける嵐志は本当に嬉しそうで、見ているこちらまで笑顔になってしまう。嵐志はNさんと出会うまで1人ぼっちだったと言うし…同じ悪タイプの仲間に出会えて感動してるんだろうね。


『ねぇシスイちゃん、獅闇くんの種族は何?』

「グラエナよ。嵐志くんは?」

『嵐志はゾロアーク!そっかぁグラエナかー、原型でもイケメンなんだね!』

「ふふ、ゾロアークだってカッコ良いわ」

「お、嬉しーこと言ってくれるなスイちゃん!」

「スイちゃん?」

『シスイちゃんだからスイちゃん!嵐志はね、相手にあだ名をつけて呼ぶんだよ!ちなみに雷士はらいとんなの!』

〈あだ名なんてつけられたの嵐志が初めてだよ〉

「そーゆーこと!スイちゃんにしーくん、可愛いだろ?」

「俺はしーくんかよ…」

「良いじゃない、可愛い。ありがとう嵐志くん!」


獅闇くんは苦笑していたけれど、嫌そうな感じではないし一応気に入ってはくれた…のかな?嵐志のコミュニケーション力の高さは本当に素晴らしい。どんな人とでもすぐに仲良くなれちゃうからね。

こうしてすっかり打ち解けたあたし達は、お互いの地方の話や仲間達の話などたくさんのことを語り合った。シスイちゃんと獅闇くんの話は本当に面白くてとても興味深いものばかりだったから…つい、時間が経つのも忘れてしまっていたのだ。


「…あ、そう言えばヒナタちゃん、時間は大丈夫?確か待ち合わせてるって…」

『あ"…!もうこんな時間!?ヤバい行かなくちゃ…っ』

〈待たせてもいいんじゃないの、どうせアイツだし〉

『辛辣だね雷士くん!』


さすがにそれはダメだと思うよあたし…!飲みかけだったジュースを慌てて飲み干しゴミ箱に捨てる。あぁ、仕方ないけれどもう少しシスイちゃん達とお話したかったなぁ。


『シスイちゃんも獅闇くんも、今日はどうもありがとう!すっごく楽しかったよ!』

「こちらこそ、ヒナタちゃん達に会えて良かった。またホウエンに遊びに来てね!」

『うん!シスイちゃん達もいつかイッシュに来てくれる嬉しいな!』

「じゃーなスイちゃん、しーくん!」

「あぁ、元気でな!」

〈そっちもね〉


ぶんぶんと手を振り、名残惜しさを感じつつデパートを後にする。本当に、ホウエンに来て良かった。こんなに素敵な出会いがあるなんて思ってもみなかったから。

もしシスイちゃん達がイッシュに来てくれたら何をしよう?ヒウンアイスを食べて、ライモンの遊園地で遊んで…そうだ、次は獅闇くん以外の仲間にも会いたいな。あぁ、とっても楽しみ!

待ち合わせの場所に行くと既にダイゴさんはそこに立っていた。しまったと思いながらダッシュで向かうと、あたしに気付いたダイゴさんが微笑む。


『お、お待たせしてゴメンなさいダイゴさん…!』

「いいや、今来たところだから大丈夫だよ。じゃあ早速…ん?何だかやけに嬉しそうだねヒナタちゃん」

『えへへ、とっても良いことがあったんです!』

「…?そう、後でそれを教えてくれると嬉しいな」

『はい!』


ダイゴさんに促され出発する時、チラリとデパートを見てシスイちゃん達のことを思う。雷士も嵐志も楽しそうだったし…きっと蒼刃達とも仲良くなれるよね。絶対またここに来よう。ダイゴさんだけじゃなく、今度はシスイちゃん達にも会えるのだから。

そうしてあたしはダイゴさんのエアームドに乗せてもらいミナモシティを飛び立った。今日出会ったシスイちゃんと獅闇くんとの思い出を、しっかりと胸に抱いて。



end


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