捧げ物 | ナノ





(!見つけた…ダイゴさん!)


まさしく風を切るスピードでヒウンシティに到着した疾風は目当てのダイゴを発見し、皆が入ったボールを落とさないよう慎重に降り立った。

ダイゴは突然現れたフライゴンに多少混乱しつつも、すぐに彼がヒナタのポケモンであることを理解し駆け寄る。


「君は…ヒナタちゃんのフライゴン、だね?」

〈は、はい!〉


コクリと頷いた疾風は腕の中のボールから皆を出し、自分も人型をとった。相も変わらず殺気ダダ漏れの面々に少なからずおののいたダイゴだったが、かく言う彼自身も穏やかな心境ではない為険しい表情は崩さない。


「…すまない、皆。僕の不注意でヒナタちゃんが…、」

「貴様の詫びは後でじっくり聞いてやる。今はヒナタ様をお救いすることが最優先だ」


ダイゴの言葉を遮りピシャリと言い放ったのは蒼刃。誰よりも前面にヒナタへの忠誠を現す彼はきっと腹の中が煮えくり返っているのだろう、とにかく一刻も早くヒナタの無事を確認したかった。


「蒼刃、ヒナタ君の波動は感じますか?」

「…あぁ、少し距離があって明確ではないが…ヒナタ様の波動に大きな乱れはない。お怪我の心配はなさそうだな」


元々蒼刃の察知出来る波動は人を探し当てるのに特化したものではないが、心身の変化を探ることには長けている。この距離でもそれを掴めるルカリオとしての蒼刃の実力の高さをダイゴは感心した。


「急ごう、今は無傷だとしても何をされるか分からないからね」

「あぁ、じゃあ僕は念の為応援を呼ぶよ。奴らに気付かれないように警察を呼ぶ程度のこといくらでも…、」

「そんなの必要ないよ」

「え?」

「だって…警察なんかがいたら思いっきりやれないからね」


雷士の不気味なまでの冷笑にゾクリとダイゴの体が震えた。これは…確かに下手をすれば巻き込まれかねない、そう判断し連絡しようとする手を止める。

もしかしたらヒナタは勿論のこと、犯人の命も守らなければならなくなるかもしれないな。そんなことを思いながらダイゴは真っ直ぐヒナタの元へと向かう雷士達を追った。




−−−−−−−−−−−−




「ヒナタのニオイだ…間違いねぇな」


スン、とよく利く鼻を使ってヒナタの存在を確認した紅矢は次いでバキバキと拳を鳴らした。普段よりも更に凶悪な顔付きになった彼は酷く恐怖をそそり、その眼光だけで人一人殺せてしまいそうだ。


「ふむ…まぁごく一般的な鉄製のシャッターですね。蒼刃、どちらで破壊しますか?」

「ふん…大した強度ではないな、拳で充分だ」


拳、という言葉にヒクリとダイゴの頬が引きつった。まさか、まさかとは思うが…


「皆下がっていろ…巻き添えを食らいたくなければ、な!!」


強く拳を握り、グッと踏み込んだ蒼刃はそのまま右ストレートをシャッターに叩き込んだ。べこりとひしゃげたかと思えば、轟音と共に崩壊した敵の巣窟の入口を見てダイゴが大きく溜め息を吐く。


(全く、何て無茶苦茶なんだ…こんな派手に突入するつもりなんて…!)


たった一発で鉄製のシャッターを粉々に粉砕してしまった蒼刃の腕力もさることながら、隠密行動とはかけ離れた出出しにある意味笑ってしまいそうだ。


「うっし、さすがそーくん!相変わらずの腕っ節だな!」

「うん、こういう時役に立つよね。さすが格闘タイプ」

「…えぇと、一応聞いておくけれど…拳じゃない方っていうのは…?」

「はどうだんに決まっているだろう」

(…まだ、拳で良かったかもしれないな)


はどうだんなんて撃たれていたらシャッターどころか建物全体まで壊しかねない。いい意味で捉えるならば被害を抑えられた方かもしれないとダイゴは内心ホッとした。


「さて、僕達が行ってきますのでダイゴさんはここにいて下さいね。くれぐれも余計な邪魔が入らないよう見張りをお願いします」

「…は?ちょ、ちょっと待ってくれ!奴らは僕をおびき寄せようとしているんだ、それなのにその本人がいないと分かればどんな暴挙に出るか…!」

「おや、それなら心配要りませんよ?何と言ってもこちらには嵐志がいるのですから」

「おう、任せとけって!」

「へ…?」


含み笑いを浮かべる氷雨の隣りで、快活にVサインを見せる嵐志。けれどその瞳は怪しい輝きを放っていた。









「何だ今の音は…!奴の仕業か!?」


ドタバタと忙しない足音を立て、黒いスーツを着た男達がビルの入口に集う。爆音からして仲間か警察を呼んだのかと勘ぐったが、そこに立っていたのは指示した通りダイゴただ1人であった。


「…約束通り警察は呼んでいないよ。さぁ、人質の女の子を返してもらおうか?」

「へっ…ノコノコと現れるとは不用心なお坊ちゃんだな。誰がタダで返すかよ!」

「…!」


一歩近付いた時、正面に立っていた男が懐から拳銃を取り出しダイゴに向けた。だが黒光りするその凶器にダイゴは一切たじろぐことはなく、静かに言い放つ。


「…いいよ、撃ってごらん。君達が後悔するだけだからね」

「―――…っ!!舐めやがって!!」


挑発するかのようなダイゴの物言いに激昂した男は拳銃のトリガーを引き発砲する。ドンッ!!とけたたましい音を響かせ、一直線に放たれた弾丸は呆気なくダイゴの眉間を貫いた。


「…っは、はは、はははははっ!!ざまあみろ!!」


両手に残る手応えと倒れ行くダイゴを見て仄暗い笑みを浮かべた男達。だがその笑みは床に崩れ落ちたダイゴの体が蜃気楼のように揺らめき、一瞬で消えてしまったことで動揺へと変わる。


「…!?な、何だ!?一体どうなって…ぐわっ!!」

「うるせーっつの」


目の前で確かに仕留めた筈のダイゴが消え、取り乱した男を背後から蹴り飛ばしたのは嵐志。突然現れた彼に周囲の連中から一斉に拳銃が向けられたが、嵐志は蹴り飛ばした男の背中を踏みつけただニヤリと笑っただけだった。


「ぶはっ、止めとけってアンタら!返り討ちにあうだけだぜー?」

「黙れ!お前もアイツの仲間だな…?ならば殺してやる!!」

「…やっぱ、痛い目に合いてーみてーだな。いーぜ、相手してやる」


踏みつけていた男を適当に蹴飛ばし、嵐志は首を鳴らした。だが数で見れば圧倒的に有利なのは男達の方で、嘲笑するかのように唾を吐き捨てる。


「ははっ!お前のような見るからに貧弱な男に何が出来る!一瞬で殺されるだけだぞ!」


男が言い放った言葉に嵐志の口元の笑みは深まり、空色の瞳が暗く陰る。そしてゆっくりと口を開いた。


「…見た目で判断してはイケマセンって、習わなかったのか?だったらお生憎サマだぜ」


少なくとも10歩、正面に立つ男との距離があった。だが嵐志は踏み込んだたった一歩でその間合いを詰め、一瞬のことで反応することすら出来なかったその男の鳩尾に強烈な一撃を叩き込んだ。


「自慢じゃねーけど…オレもこーちゃんとタイマン張れるくらいには場数踏んでんだよ、クソヤロー共」

「…ひ…っ!?」


鳩尾を殴られ気絶した男の仲間達が明らかな恐怖を露わにする。だが嵐志は情けをかけるつもりなど更々なかった。


「テメーら運が悪かったな。よりによって…姫さんを人質に選んじまうなんて、さ?」


嵐志は奥にある階段をチラリと見やり、先に行かせた仲間達がヒナタを救うことを願う。

そして半ばヤケクソになって襲いかかってくる男達を原型に戻り次々と薙ぎ払っていった。


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