『ちょ、ちょっとコレは…まさか言葉じゃなく心で会話してるパターン?』
「何その高等技術!?」
いやだってこんだけ見つめ合ってるんだしそうとしか考えられないよ!間の藍君は苦笑いしながらかき氷を口に運んでる…さすが水タイプ、キーンとならずにどんどん食べ進めていらっしゃる。
『何かもう見守る方が疲れてくるよね…』
「た、確かに…。溶ける前に食べちゃおうか!」
先ほどの宣言通り、あたしと彩夢ちゃんはお互いのかき氷を食べ合いながら早くも別の話題を始めていた。あぁもう女の子との会話って楽しい…!
「…ブルーハワイ、美味しい?」
「ん、まぁまぁ」
「僕は気に入ったよ!冷たくて甘くて美味しい!」
この空と藍は随分正反対だけど、でもお互い一緒にいて楽しいというのが見てて伝わってくる。…少しだけ、羨ましい。僕には親友と呼べる存在はいなかったからね。
「…何?」
そんなことを考えていると、空が僕をジッと見ていることに気付いた。不思議な瞳だ…目の前を見ているようで実はそうじゃなく、もっと奥深い所を見ているような印象を受ける。
「…らいと、」
「?」
「名前の意味、知りたい。ちゃんとあるんでしょ?」
…唐突だね、でもまぁいいか。確かに僕の名前にはちゃんと意味がある。
「雷を司る戦士、ってことらしいよ。最初と最後の字をとって雷士。初めて会った日にスピアーの群れに襲われてね…その時そいつらを電撃で追い払った僕を見てヒナタちゃんが付けてくれた」
「へぇ…!それカッコ良いと思うよ僕!」
「…雷士…ん、覚えた」
藍がニコニコと笑うもんだからつい僕も釣られてしまった。カッコ良い、か…本当にカッコ良いかは分からないけど、僕も気に入ってるよ。何たって彼女に貰った名前だからね。
「君達のも僕なりに解釈すると…藍は水タイプってのもあるし、それに優しくて大らかな心は藍色をした深い海そのものだ」
「え、えへへ…何か照れるね」
「空は…そうだね、その瞳かな。透き通った水色が澄んだ快晴の空を現してるような感じ」
「…ふぅん」
素っ気ないけど、少し口元が緩んだ様子を見ると満更でもないらしい空。ヒナタちゃんが見たら美少年…!とか言って喜ぶんだろうな…あ、ムカついてきた。
「…そういえばさっきヒナタちゃんのこと何か違ったイントネーションで呼んだよね」
「あぁ…日に向かうって字で日向。オレンジ色の髪が太陽みたいだったから、日にちなんだ字を当てた」
…日向、か。確かにヒナタちゃんの名前を漢字にするとそうなるかもしれない。彼女をそんな風に呼んだヤツは初めてだから新鮮だ。
「あのね、彩夢も太陽みたいな子なんだよ!よく笑うし…見てると僕元気になるんだ!」
「…太陽がいないと、空も海も輝かない。僕達も彩夢がいないと困る」
「…なるほどね、君達にとっての彩夢さんはそういう存在なんだ」
「雷士も同じでしょ?ヒナタさんがいないと困る!」
…うん、否定出来ない。
「僕にはヒナタちゃんがいればいいのに…あの子どんどん色んな男を落としてくるんだよね。本当鈍感も困り物だよ」
つい零した本音。するとそれを聞いた空と藍の雰囲気が少しだけ変わった。
「…そう、そうなんだよ。僕達も彩夢さえいればいいのに…彩夢は人気者でさ、おまけに危機感なくて…。たまに僕の中の色んなものが破裂しそうになる」
「…僕はいっそ電磁波で拘束してどこかに縛り付けておきたくなる」
「気が合うね空、僕も他の男にベタベタされてるあの子を見ると誰にも邪魔されない所に閉じ込めたくなるんだ」
…ニコリ、
僕達3人は互いに微笑み合った。ふぅん…ヒナタちゃんの言った通り、特に空とは相性がいいらしい。
『…ねぇ彩夢ちゃん、何か今寒気しなかった?かき氷食べ過ぎたかな』
「私も…何かとてつもなく恐ろしい予感がした。気のせいだといいけど…」
どうやら会話に花を咲かせていた彼女達には聞こえていなかったみたいだ。
…まぁ、好都合かな。
−−−−−−−−−−
『ん〜っ美味しかったね!涼しくなった!』
「それに色々話せて楽しかったよヒナタちゃん!」
『あたしもー!』
可愛い彩夢ちゃんともう一度ハグ!うぁああイーブイでも人間でも可愛いってどういうこと…!
「彩夢、そろそろ行こう?」
「あ、うんそうだね!」
『今度もちゃんと帰れる?』
「た、多分…大丈夫(また神理にお願いすれば…!)」
そっか、ならいいけど…それにしてもやっぱりお別れは寂しいな。またいつか会えるのを楽しみにしよう!
「ヒナタちゃん、僕達も戻った方がいいんじゃない?回復終わってる頃でしょ」
『あ、本当だ!それじゃ彩夢ちゃん、名残惜しいけど…また会おうね!』
「うん!ありがとうヒナタちゃん!」
彩夢ちゃん達はあたし達とは反対の方向へ歩き出した。…彼女達が無事に元の場所へ帰れますように。
あたしもポケモンセンターへ戻ろうとした時、雷士が彼女達の背中を見つめていることに気付いた。
『雷士?』
「…何でもない。行こう、ヒナタちゃん」
あたしが声をかけると、すぐさまいつもの無表情で歩き出した。
…でも、一瞬空君と藍君の背中に向けて「またね、」と呟いて雷士が笑ったから。それを見たあたしも何だか嬉しくなったんだ。
あぁ、雷士にはクールなお友達と無邪気なお友達が出来たようです。
end
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