「姫さん確保ー!!」
『うへぁっ!!何事何事!?』
ある日の昼下がり、トイレから出てきたあたしの背後から鈍い衝撃が襲った。軽い声色とお腹に回された腕から明らかに嵐志だと分かったのだけど、何故かそのまま抱え上げられ寝室へと連行される。そして解放されたかと思えば鏡の前に立たされ、目の前にどこから取り出したのかやたらヒラヒラとした布の塊を突き出してきた。
『…って、これ…メイド服?』
「あったりー!ちなみにてっちゃん作な!」
『疾風に何作らせてんのダメ大人ぁあああ!!』
何ということだ…!このメイド服は疾風の手作りらしい。黒を基調としたミニ丈スカートにたっぷりと白のフリルがあしらわれ、ご丁寧にエプロンまで用意されている。何だろう、このスカート丈といい…何だか厭らしさを感じるのだけど…!
「姫さん用に作ったからサイズもぴったりだと思うぜ!」
『色々突っ込みたいところはあるんだけどまず何であたしのサイズ知ってるの…!』
「まーまー細けーことは気にすんな!とりあえず着てみろよ姫さん!」
『絶対イヤ!こんなの着たことないし恥ずかしいし!』
「そっかー残念だなー…てっちゃんがコレ着た姫さん見るのすっげー楽しみにしてんのに…」
『分かりました着ます!!』
「切り替え早ぇーな姫さん!」
だって可愛い疾風が楽しみにしているなら応えないわけにはいかないでしょうよ!何か言いたげな嵐志を部屋から追い出し服を脱いでメイド服を手に取った。
そして少々戸惑いつつも何とか着替え終わり改めて鏡に自分の姿を映す。ううーん…こんなの着るの初めてだからやっぱり恥ずかしい。似合ってるとは思えないけれど、本当にこんな感じで疾風は喜んでくれるのかな。
『…まぁ、似合わないなら似合わないで最悪笑いは取れるか』
いや、笑いは笑いでも苦笑いだったりして…って、何であたしこんな笑いを取りに行く前提で考えてるの…!
大丈夫、きっと優しい蒼刃と疾風と嵐志は似合ってなくても慰めてくれるはず!ドSトリオは知らない!
着てしまった以上そっと脱ぐのも何だか憚られ、ええい見せてやろうじゃないかという勢いであたしは部屋を飛び出した。
『じゃっじゃーん!!ヒナタさん登場ー!!』
……今のあたし絶対バカっぽかったよね。でもこんなテンションで行かないと恥ずかしいんだもん。
勢いに任せ皆がいるであろうリビングの中に飛び込んだ。すると一斉にこちらを振り向いた6人分の視線が突き刺さる。うぅ、やっぱり痛かったかな…。
ハル兄ちゃん、あたしのハートはそんなに強くないみたい。自分自身が居たたまれなくなったあたしは静かに踵を返そうとした。でもそれを許さないとばかりに、よく知った腕の感触が一瞬であたしのお腹に回される。
『ぅ、わ!?』
「〜〜〜っ姫さんヤベェエエエ!!超似合う!似合いすぎ!頂きます!!」
〈馬鹿言うのも大概にしなよ節操なし〉
「いでででで!!あれ!?いっつも一撃入れてくんのはそーくんなのに!!」
〈蒼刃は今動けないみたいだから僕が代わりに〉
勢い余って床に倒れ込んでしまったあたしと嵐志。打ち付けられた背中が痛いなぁと思った瞬間、あたしの上に跨がっていた嵐志が悲鳴を上げた。何事かと見れば嵐志の肩に雷士が乗っていて、多分…というか、確実に雷士の静電気攻撃を受けているのだと思う。
でも、あれ?確かに嵐志の言う通りいつもなら初めに飛んでくるのは蒼刃なのにどうしたんだろう。床に倒れたままチラリと皆の方を見ると、
「す、すまない疾風…俺はまだまだ修行不足だったようだ…。だが、ヒナタ様…!貴女のお姿を最期に死ねるとは何たる幸、福…っ!」
「ど、どうしよう…!蒼刃が、死んじゃう…!」
「大丈夫ですよ疾風、残念ながら鼻血が原因で死んだりなどしません」
「いっそのこと止め刺してやりてぇくらいだがな」
『安定の無慈悲発言!!』
大事な仲間が鼻血とは言え出血して倒れているのに、氷雨と紅矢は心配してなさすぎじゃないかな!ちょっとは疾風を見習いなさい!
…って、その前に何で蒼刃は鼻血出しているんだろう?
「つーかコレ静電気っつーレベルじゃねーぞらいとん!!」
〈特別サービスでいつもより強めに流してます〉
『き、鬼畜…っ!!』
あたしが蒼刃に気を取られている間も嵐志への制裁は続いていた。何故かは分からないけれど、今日はあたしにやる時よりも強めらしい。ご、ゴメン嵐志…!正直やられるのあたしじゃなくて良かったって思っちゃった!
「ら、雷士、蒼刃をベッドに寝かせてあげたいから…手伝ってくれる?」
〈…仕方ないね〉
「ナイスてっちゃん!助かった!」
おぉ…!疾風に絶対そんなつもりはないだろうけれど、結果として疾風の一言で蒼刃と嵐志の両方を救出することに成功したみたい。嵐志は割と軽症だとして、蒼刃は大丈夫かな?意識も朦朧としているみたいだし。…って、だから何で蒼刃は鼻血出していたんだっけ。
「それにしても…、」
『わっ!?』
「中々の出来映えじゃありませんか、疾風の器用さに感服ですね」
突然伸びてきた氷雨の腕に引っ張り上げられて、そのまま腕に乗せられ支えられる。まるで抱っこされているみたいで恥ずかしい…うわ、氷雨のこの含んだような微笑みは何か良からぬことを考えている時の顔だ。
「ヒナタ君、せっかくですしメイドさんごっこでもしましょうか?」
『全力でお断りします!!』
ほらやっぱりぃいいい!!メイドさんごっこというのがどんなものかよく分からないけれど、氷雨が言うんだから絶対楽しいことじゃない!というか氷雨が言うと何かイヤらしい感じがするのは何故!?
「おやおや、ご主人様に逆らうなんてイケないメイドさんですねぇ…?」
「はっ…どうやら仕置きが必要みてぇだな」
「腕を縛って強制ご奉仕とかどーよ!ぜってー姫さん可愛いぜ!」
『え!?何これもう始まってるの!?というか大人組ノリノリだよ怖い!!』
た、助けて澪姐さぁああぁん!!いつの間に復活したのか、チャラいけど優しいあの嵐志までノってきている!これはマズい…!
「そんなに怯える必要はありませんよ、楽しくて気持ちイイことをするだけですから…」
『っ!?』
「そーそー、こーんな可愛いメイドちゃんをイジめるワケねーだろ?」
『ちょ、何…っ』
「まぁ…泣かせることに変わりはねぇがな」
『ひぇっ!?』
ちゅ、と手の甲にキスをする氷雨に、太ももをさする嵐志、そして耳に柔く牙を立てる紅矢。な、何、これ…!何か、絶対、ヤバい!!
『ま、待って待って!離…っ』
「大人しくしやがれヒナタ、マジで噛み付くぞ。それとも…少しばかり痛ぇ方が好きか?」
『な、何言って…!』
耳元に唇を寄せ、低い声で囁く紅矢があたしの腕を掴み拘束する。チラつく牙を隠そうともせず舌なめずりをする姿はまるで獰猛な肉食獣のようだ。…いや、ようだ、じゃなくて…肉食獣そのものかもしれない。
「俺はどっちでもいいぜ?相手がテメェなら…どっちにしろ手加減は出来ねぇしな」
『な、何の話…!?』
怖い、確かに怖いのに…。凶暴な中に時折覗かせる優しい瞳が、何故かあたしの抵抗を鈍らせる。小さく笑った紅矢があたしの首筋をペロリと舐めても、その行為にただ驚くだけで嫌悪感の欠片すら沸かない自分がそこにいた。
「…はっ、茹で蛸みてぇだな」
『たっ…!た、タコじゃ、ないし…!』
「あぁそうかよ。ならこっち向け、」
『うぇっ?』
背後にいる紅矢に顎を掴まれ視線を交わされる。ばちりと合った視線の先、いつもは寄せられている眉間の皺がそこにはなくて、目元は淡いピンクに色付いていた。何で、何でそんな顔をしているの?紅矢は元々整った顔をしているのだから、そんな優しい顔をされたら…何か、変な感じになっちゃうじゃん…!
「はいはーい、こーちゃんそこまで!姫さんの独り占めは禁止な!」
「…ちっ、」
『っ!』
あ、危なかった…!嵐志が声を発さなかったらあたし、あのまま…!
『〜っぅあああ!!横暴キングのせいだー!!』
「あ″ぁ?」
「ぶはっ!姫さんご乱心ってか!んじゃー次は…オレが、姫さんを乱す番だな」
『へ…?』
ニヤリと笑うそれにいつもの快活さはなかった。どちらかと言えば悪戯を思い付いた時のような…そう、人を化かすのが得意な彼の本質に最も近いだろう、腹の底を見せない不安を煽る意地悪な笑みだ。
「なー姫さん、そのカッコ…マジで可愛いぜ」
『あ、あり、アリガトウゴザイマス…』
「ぶっは!動揺し過ぎだろ!」
『だ、だって!そんなストレートに言われるとさすがに恥ずかしいんだもん!』
本当に、困ってしまう。確かにあたしは昔からハル兄ちゃんを筆頭に澪姐さんや樹からも可愛い可愛いと言われ育てられてきたが、自分自身のことを可愛いと思ったことなど一度もない。断じて誓おう、一度も!だ。
それなのにこの嵐志と来たら…出会ったばかりの頃から何かと可愛い可愛いとばかり言い放つが、それが本心からなのかどうか図りかねているあたしはいつも深く考えず受け流すようにしている。
いや、本心で言っていたとしてどうということはないのだが、こうも口癖のように言われるとそう対処せずにはいられない。
…それなのに、バカなあたしはたまにこうして直球を受けるとどうしようもなく照れてしまう。嵐志はあたしの反応を面白がっているだけなのに、まんまとその思惑にハマってしまっているのだ。
「あ、姫さん今…嵐志はあたしのことからかってるだけ!とか思ってただろ」
『え!?な、何で分かるの!?』
「だーから顔に出てんだって!あー…傷付くなー、オレってそんなに不真面目に見えてんのか?」
『ま、まぁ…優等生には見えないかな』
「ぶはっ、姫さん正直!そりゃ確かにイイコちゃんではねーけど…姫さんに対してウソついたことなんか、一度もねーぜ?」
『え…、』
一瞬だった。 嵐志がいつもつけている香水のニオイがやけに近くで香ったと思ったと同時に、あたしの頬へ寄せられた柔らかい感触。それは初めて嵐志と出会った日にもされた行為と同じ、悪戯のようなキスだった。
「オレは…いつだって姫さんのこと、世界で1番可愛いと思ってるからな」
『……っ!?』
ぼぼぼっ!と自分の顔に熱が集まるのが分かった。せっかく紅矢のせいで赤くなっていた顔が治まってきた頃だったのに。
ずるい、これはずるい…!あたしだって女なのだから、いくら否定したって男の人にそんな風に言われたら…少なからず嬉しいに決まっている。
『やっ…やっぱり、嵐志は不良だ…!』
「えー何でー?オレ姫さんには紳士だぜ?(照れてる顔が好きなんて言ったらまた逃げられるだろーな…)」
「ふふ、嵐志も中々良い趣味しているじゃありませんか」
『ちょっ…!?へ、変なとこ触んないでよ氷雨!』
「変な所、とは?」
『うひゃっ!?も…っこ、このドSぅうううう!!』
脇腹や背筋、 太ももを焦らすみたいな手付きで撫でられ思わず鳥肌が立つ。は、早く戻ってきて助けて蒼刃ぁああぁあ!!
「おやおや、メイドならばご主人様と呼ぶものでしょう」
『まだ続いてたんだその設定…!』
「ほらヒナタ君、呼んでみなさい?」
『や、やだ!』
「ほう…?呼ばないと言うのならもーっと恥ずかしいことをして差し上げますが…」
『ゴメンなさい呼びます!!』
ほ、本当にやだもうこのドSラプラス…!全力で楽しんでいる!あたしイジメを全力で楽しんでいるよ!
でもここで言う通りにしないと本気で何されるか分からないし…。あぁもう、一時の恥として耐えるしかない!
『…っご、ごしゅ、ご主人様…っ』
必死に絞り出した声はきっと震えていて微かなものだっただろう。でも氷雨の耳はしっかりと拾っていたらしく、チラリと盗み見たその表情はとても満足げな笑みを浮かべていた。
「ふっ、ふふ…よく出来ましたね。えらいえらい」
(何か子供扱いされてる…)
本当に子供にするかのように優しく頭を撫でてくるから少し調子が狂ってしまう。そんな中、あたしの腰に抱き付いて「オレのこともご主人様って呼んでくれよー!」と騒いでいる嵐志には軽くチョップを入れておく。そして紅矢は「首輪も悪くねぇな…」とか言っていたけれど、何となくツッコむのも怖かったので聞かなかったことにした。
「まさか君にご主人様と呼ばれる日が来るとは思ってもいませんでしたから中々楽しいものですね」
『そ、それは良かったです…』
「しかし…立場上、ご主人様とは君の方だ」
『…?』
不意に、氷雨から笑みが消えた。 鋭くあたしを射抜く艶やかな黒眸が真剣さを物語っている。一体どうしたと言うのだろう…こんな表情を見るのはそう、彼と初めて2人きりで話した時以来だ。
「所詮僕と君を繋ぐものはボール程度。ご主人様…トレーナーである君が僕のボールを破壊し捨てれば、その繋がりは呆気なく消えてしまう。君が…僕を捨てたいと思えば、簡単に出来てしまうのです」
『何、言って…』
「ですが…お願いです、ヒナタ君。どうか僕を捨てないで下さい。君は僕に光を見せてくれた…君の傍で生きたいと、思わせてくれたのです。君の為なら何でもしますから、だから…っ」
『ーーーーっ氷雨!!』
「…っ!?」
思わず氷雨の頭を抱え込むように強く抱き締めた。だって、こんなに弱々しく話す氷雨を見たのは初めてだったから。震えそうになるあたし自身を抑え、慰めるように氷雨の髪を撫でる。
『氷雨は忘れちゃったの?あたしが絶対氷雨を1人にしないって、約束したこと。あたしはそれを死んでも守るって誓ったんだよ。むしろあたしの方がいつ氷雨に見限られるかヒヤヒヤしてるのに…!』
「ヒナタ君…?」
『大丈夫、大丈夫だよ氷雨。あたしは絶対、氷雨も皆も捨てたりなんかしない。ずっと…ずっと一緒にいる!』
もう一度、ギュウッと力を込めて抱き締める。どうして氷雨は突然こんなことを言い出したのだろう。あたしが不安を感じさせるようなことをしてしまったのだろうか。だとしたら、謝らないと。
少しでも氷雨を安心させられたか自信がなくて、恐る恐るその表情を覗き見る。すると…
「…言いましたね、ヒナタ君?」
何とも背筋が凍るような麗しい微笑、もといいつもの余裕綽々な笑みを携えた氷雨様がそこにいた。
「いやまさかここまで熱烈にイエスを頂けるどころか逆プロポーズまでして下さるとは思いも寄らず…早速挙式の準備に取りかかりましょうかヒナタ君」
『ゴメン話について行けないよ氷雨様!!』
「さめっちずりー!姫さんは皆って言ったんだぜ!だからオレとも添い遂げるっつーことだろ?」
「多夫一妻か…ちっ、まぁどこぞに逃げられちまうよりかはマシだな」
『話をややこしくしないでお願いだから!!』
え?え?何これどういうこと?一体何がどうなったら結婚の話になっちゃうの?ていうかあれ!?氷雨のあの弱々しいお姿は何処に!?
「全く君は本当に…からかい甲斐があり過ぎて逆に心配になりますね」
『ま、まさか演技…!?』
「おや人聞きの悪い。不安なのは本当ですよ?ほんの少しオーバーに言ってみただけで」
『うわぁああん鬼畜ぅううう!!』
ひどいよねこれ…!結局またあたしをからかって遊んでたんだ!嵐志と紅矢は始めから分かっていたらしく、氷雨の演技力に感心しているみたい。ぜ、絶対いつか仕返ししてやるんだから…!
「ふふ、ねぇヒナタ君。僕達とずっと一緒にいると言うのは本心なんですよね?」
『………うん』
「ぶはっ、サンキュー姫さん!当然オレ達もずーっと姫さんと一緒だぜ!」
『わ…!?』
せめてもの抵抗として背を向け座り込んでいると、突然嵐志に抱き上げられまるで高い高いをされているかのような体勢になった。恥ずかしいからやめてと手足をバタつかせると、今度は横から伸びてきた紅矢の腕に抱えられる。
「いいかヒナタ、テメェがもし俺を捨てようと思っても無駄だぜ。俺が絶対テメェを逃がさねぇからな」
「あ、これはこーちゃんなりの俺もずっとヒナタの傍にいるって意味だぜ姫さん!」
「詰まるところ僕達は一蓮托生、これから先何があっても君から離れはしません」
「…まぁ、そういうことだ」
『え?』
紅矢の腕に支えられている状態だからあたしは身動きが取れない。だから、紅矢が不意に顔を近付けてきてもあたしは避けることも出来なかった。
『…っぃ、』
「テメェを守る、だから俺から離れんな」
唇に感じるピリッとした痛みは、柔く触れた瞬間紅矢に噛みつかれたからだろう。守る、だなんて言った癖に…痛みを以て縛り付けるとは全くもって彼らしい。この痛みとは裏腹に、抱き締める腕に込められた優しさといった天の邪鬼なところもまた然りだ。
「オレら、な!つーか口にするとかこーちゃんずりー!姫さん!オレともチューしよーぜ?」
「おや、それなら当然僕ともですよね?」
『は!?や、なっ何言ってんの!?』
「おいバカヒナタ…テメェ俺以外としたらどうなるか分かってんだろうな」
『何で紅矢が怒るの!?』
もうやだ、全然意味分かんない! 今のキス(と言えるかどうかは別として)も、何故か始まったあたしという玩具の取り合いも。
…でも、
(3人共…あたしと一緒にいるって、言ってくれた)
それは何て幸福なことなのだろう。それに対して当然あたしに異論はない。むしろこちらから頭を下げてお願いしたいくらいだ。
『…ありがとう、皆』
喧嘩に発展しそうな空気の中告げると、小さくともしっかり聞き取った3人はこちらを振り向いて笑う。それは余裕を携え確固とした意志を込めた、大人特有のそれはそれは格好いい微笑みだった。
「ヒナタ様!!ご無事ですか!?」
「だ、ダメだよ蒼刃、まだ激しく動いちゃ…!」
〈この盲目忠犬は聞きやしないよ〉
『……あ』
沈黙すること、10秒。鼻にティッシュを詰めているという、お世辞にもカッコいいとは言えない状態のまま飛び込んできた蒼刃が吠えた。
「……っ貴様らぁあああ!!ヒナタ様に気安く触れるなと何度言えば分かるんだぁああぁ!!」
『わーーーっ!!ストップ!ストップ蒼刃!』
案の定飛びかかってきた蒼刃を必死で止めるあたしと疾風。うう、ゴメンね疾風…!ダメな大人が全部悪いの!
〈言っておくけどヒナタちゃん、何がどうして大人組と引っ付いてるのかきちんと説明してもらうからね〉
『え″』
こ、これは…あたしもとばっちりコース?
問答無用と言わんばかりに黒いオーラを放っている雷士に抵抗は無駄だと察したあたしは、ひとまずご乱心の蒼刃を宥めようと重い足を動かしたのだった。
end