long | ナノ







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『わぁ…!凄いよ疾風!』

〈えへへ、ありがとうマスター〉


あたし達はフキヨセシティを後にし、ヤマジタウンへと向かっていた。本当はネジ山を越えて行った方が近いのだけど…今はセッカシティとソウリュウシティを繋ぐ橋が渡れないらしいからヤマジタウン経由で進むことにした。

ちなみにフウロちゃんが飛行機で乗せていってあげようかと言ってくれたけれど、今のあたしには疾風がいるから気持ちだけ有り難く頂くことにしたのだ。


『それにしても疾風上手だね!つい最近まで飛べなかったなんて嘘みたい』

〈うん、風が気持ちよくて僕眠たくなってきたよ〉

『いやだから君は台風の中でも寝てますって』

〈な、何でだろうね…ボクも不思議だけど。やっぱり、進化して翼がしっかりしたから、かなぁ…?〉


一理あるかもしれない。ビブラーバ時代はどちらかと言えば羽根、という感じだったけれどフライゴンへ進化した途端それは翼へと印象を変えた。

あたしを気遣いつつ、ゆったり羽ばたきながら飛ぶ疾風は立派なドラゴンだ。


(昴が見たらビックリするだろうなぁ…シャガさんに会えたらまた帰ろうか)


飛行の師匠である昴もきっと疾風が飛べるようになったことを喜んでくれる筈だ。見せてあげる為にもソウリュウシティでの役目をしっかり果たさなきゃ!





〈あ…マスター、町が見えてきたよ。あそこかな?〉

『そうだよきっと!ほら、大きな山も見えるし…降りて降りて!』

〈うん!〉


砂埃を舞い上げながら着地する。背中を低くしてあたしが降りやすいようにしてくれる疾風はやっぱり優しい。

ありがとう、と以前よりもはるかに高くなった頭を撫でたら嬉しそうに頬ずりしてくれた。可愛いなぁもう!


『おぉ…!あれがリバースマウンテンかぁ』


疾風をボールに戻し、小さな町を進む。辿り着いたのはヤマジタウンの外れにそびえ立つ巨大な活火山、リバースマウンテン。あそこを越えなければ次の街へは行けない…。


『おっきいねー、ていうか熱そう…』

〈噴火とかしたらどうする?〉

『え…それはちょっと、怖いかな…』


道中でドカーン!!とか洒落にならない…そうなった時火山の中にいる人ってどうなるんだろう…?

リバースマウンテンの入り口でグルグル不安が駆け巡る。でもでも、抜けなきゃソウリュウへは行けないし…!



「はは、心配しなくても大丈夫だよ」


『…え?』


突然降ってきたのは低い男性の声。振り向くと、スーツに身を包んだ上品な男性が立っていた。

その人は艶のある革靴の音を鳴らしこちらへ歩み寄ってくる。何だろう、歩く姿もどこか気品がある。


「知っているかい?火山の噴火は地震よりもはるかに予知しやすいんだ。噴火のおよそ数ヶ月前から明らかな前兆現象が見られるから、現在の技術ならいつ噴火が起こるかもほぼ正確に予測出来る。勿論相手は自然現象だから…前兆があった所で確実に噴火するという訳でもないんだけれどね」


隣りに立たれるとよく分かる…背が高くてスラリとした美形さんだ。

リバースマウンテンを見上げてペラペラと有り余る知識を披露したその人は、最後に肩をすくめて笑った。


「けれどここ最近噴火の前兆は報告されていない。だからとりあえずは安心して通っていいと思うよ?」


しばらく呆然としてたあたしだけど、顔を覗き込まれてハッとする。


『っそ、そうなんですか…良かったです!あの、わざわざありがとうございました』

「いえいえ、気にしないで。如何にも不安がってるって感じだったか、ら…?」

『?』


あたしを見ていたその人の動きが止まる。目をパチクリさせて更に顔を凝視してくる…な、何!?


(…何、コイツ。近いんだけど)


あ、雷士から静電気が漏れ出している。これは機嫌が悪い時の現象だ…でもどうしてだろう?



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