long | ナノ







1

…一瞬だけキュレムさんの瞳が揺れたような気がした。そして次の瞬間、身をよじらせ呻き声を上げながら苦しみ始める。


「これは…っ何事です!?」

〈!ヒナタ様、いでんしのくさびにひびが!〉


蒼刃の言う通り、少しずつではあるけれどキュレムさんの苦しみと比例するかのようにひびが広がっているように見えた。これは多分キュレムさんとレシラムさんが自分自身と戦っている証拠だ。彼らは今、刻み込まれた本能に必死で抗っているのだ。


『頑張れ…頑張れキュレムさん!!レシラムさん!!』

〈―――っ!〉


そして一際激しく咆哮した次の瞬間、大きな音を立てついにいでんしのくさびが砕け散った。パラパラと細かな粒子状になった欠片は洞窟の中に流れ込む風の流れに乗ってどこかへと飛んでいく。


〈見ろヒナタ!お二方の体が元の姿に…!〉


コバルオンの言う通り、キュレムさんの体が光に包まれながら分裂し始めた。いでんしのくさびという、正しく2体を繋ぎ止めていた楔が消滅したことによって融合が解けたのだろう。完全に体が分かれた2体がどさりと地面に倒れ込んだので慌てて駆け寄る。でも良かった…元の姿に戻すことが出来たんだ!


「どうやら我々は悪手を選択してしまったようですねぇ…ヒナタさんの力を少々みくびっていたようです。本当に…憎らしいほどよく似ている…!」

「…ゲーチス様?」

「何をしているのですアクロマ博士。速やかにキュレムを捕らえなさい!いでんしのくさびはキュレムさえいれば生成出来るのですから!」

「!えぇ、かしこまりました」


アクロマさんが指を鳴らした途端、頭上から突然3体のジバコイルが現れた。あらかじめボールから出して潜ませていたのだろう。同時に繰り出されたエレキネットが1つの巨大な網状になって襲いかかってくる。しかしキュレムさんは気絶しているのかピクリとも動かない。


〈逃げろヒナタ!!感電死するぞ!!〉


珍しく焦ったような紅矢の声が木霊する。自分だけでなく雷士達も少なからず傷を負っている上、キュレムさんを妨害する為に残りの体力の大半を消耗してしまったから、駆けつけるのも間に合わないかもしれないと判断したのだろう。あたしもこのままでは自分の身が危険だと分かっている。でもキュレムさんをどうしても見捨てることは出来なかった。せっかく解放されたのに、元の姿に戻れたのに。まだ性懲りもなくキュレムさんを利用しようとしているプラズマ団になんか渡せない。


「ヒナタさん…!」


何の慰めにもならないだろうけれど、キュレムさんを抱きしめるように強くしがみつくあたしを見てアクロマさんが少したじろいだのが分かった。でも今はその意味を考える余裕などない。そして降りかかる痛みに身構えて歯をくいしばった。




〈そのまま…離れるでないぞ〉

『…え?』



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