long | ナノ







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〈…あぁ、そういえば。レシラム様にゼクロム様、ご機嫌麗しゅう!お元気そうで何よりですわ〉

〈そういえばとは何だ。何年も顔も見せないと思っていたら…すぐに挨拶するのが筋だろうこのお転婆娘が〉

〈レシラム、このタイミングでは無理もあるまい〉

〈…もうとっくに娘じゃねぇがな…〉

〈あらあらテラキオン、あなた余程死にたいようですわね?〉

〈げっ!聞こえてたのかよ…!〉



「…な、何だか随分と余裕そうだね…」

「そうなの?ま、頼もしいことじゃないか」


彼等の会話が聞こえているNが驚きと苦笑いを織り交ぜたような表情を浮かべている。僕もトウヤの意見に賛成だけど…Nがそう思うのも無理はないかな。だってこれだけの数を相手にしながらあんな雑談をする余裕があるのだから。お陰で混乱の中でも少し休憩出来るくらいには楽になったよ。


「つ、強い…!コイツらまさか、あの伝説の3匹か!?」

「あぁ、そうに違いない!アクロマ様とゲーチス様に報告しろ!捕えれば大きな功績となる!」

〈馬鹿野郎共が…!そう上手くいくわけねぇだろ!〉


こういうのを獅子奮迅の勢いっていうのかな。テラキオンは見た目通りの荒々しい戦い方ではあるけれど、とてつもないパワーで次々とプラズマ団のポケモン達を薙ぎ倒している。反対にビリジオンはパワーではなく驚異的なスピードと鋭い切れ味の攻撃で敵を圧倒していた。


〈全く…仕方のない奴等め。久々に遠慮なくやれるからといって少しはしゃぎ過ぎだ〉

〈こ、コバルオン!どうして皆が揃ってるんだ?オレがコバルオン達の元で修行していた頃は一緒にいたけど、確か普段は別々に行動している筈じゃ…〉


聖剣士の中では唯一、顔色一つ変えず冷静に戦っているコバルオンが小さく溜め息を吐いた。そこへ地に伏した敵を避けながらケルディオが駆け寄ってくる。確かにそうだよね、まさかこの3匹が現れるなんて誰も予想していなかったわけだし…。何かしら意味があってここへ来たのだろうけれど。でもケルディオの言い方だと、基本的に彼等は別行動をしていて全員が揃うのは珍しいという風に聞こえる。

その問いかけはテラキオンとビリジオンにも届いていたようで、2匹とも攻撃の手を止めてこちらに視線を向けた。


〈2年前と似たような胸騒ぎを覚えた後、私は住処を出て各地を回っていた。それは情報収集も兼ねていたがもう1つ、テラキオンとビリジオンに会ってその後の行動を共にする為だ。だが…全員同じことを考えていたようで、訪ねた時には互いの誰もが住処におらず、結局合流するのにここまで時間がかかってしまったがな〉


えっと、それはつまり行き違ったってことでいいのかな?どうやらレシラム達と違い互いの気配を察知するとか、そういう能力は持ち合わせていないらしい。まぁレシラム達の場合は元々1匹のポケモンだったという話だし比べても仕方のないことだけど。

ではそれはいいとして、コバルオン達はどうしてわざわざ合流しようとまで考えたのかな。結果的にはこんな大事になってしまったけれど、当初はただの胸騒ぎに過ぎなかったのならそこまでする必要もないように思う。僕がそう考えていると、疑問を感じ取ったのかたまたまタイミングが良かったのか、今度はビリジオンがその口を開いた。


〈今ケルディオが言った通り、わたくし達は通常それぞれの拠点を持ち別行動を取っていますわ〉

〈まさかレシラム様とゼクロム様まで来てるとは思わなかったけどな!〉

〈え…っじゃあ皆が集まったのは本当に偶然なのか?それにもしかして、何かあれば1匹でも乗り込むつもりで…?〉

〈無論〉

「!」


隙をついたつもりなのか、背後からワルビルが攻撃を仕掛けてくる。しかしコバルオンは振り返ることもなく、きあいだまの一撃で吹き飛ばしたあと凛然と告げた。


〈我等、イッシュ地方を守護せし聖剣士。不穏な気配を察すればどこへなりと馳せ参じるが使命!…たとえ1匹であろうとも、守る為に戦うのだ〉

〈…っ!!〉


ケルディオが息を呑んだのが僕にも伝わってきた。決して声を荒げたわけではないのに、体の芯までビリビリと電気が奔るような凛とした衝撃。…やっぱり伝説は伊達じゃない。背負っている物の重さと、守ることへの覚悟が違う。



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