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ケルディオくんの怪我はジョーイさんの治療に加え彼自身の治癒力の高さも伴い、目まぐるしいスピードで回復していった。そして1日入院した次の日の朝、完治と言って充分な程の状態となった為早速海辺の洞穴へと出発することにしたのである。

…でもその前に、随分と毛並みがボサボサになってしまっている彼をブラッシングして差し上げよう。


〈ヒナタ、それは何だ?〉

『ブラシって言ってね、毛並みを整える為のものなんだよ。これでケルディオくんを綺麗にするからね!』

〈ぶらし…う、わっ!ちょ、ちょっとくすぐったいぞ…。〉


ブラシを彼の背中に添えて梳くと、慣れないせいもあってかブルリと体を震わせた。うーん…ポケモン用に作られた少し硬めのブラシだからくすぐったいのかな。それとも単純にあたしのやり方が下手なのだろうか。

いや、これでも一応嵐志やあの紅矢にも及第点をもらっている腕なんだし頑張ろう!何と言ってもケルディオくんという、普通に生きていても滅多に出会えない子をブラッシング出来るなんて奇跡だしね。

そう意気込んで慎重にブラッシングしていると、段々と慣れてきたのかケルディオくんも身構えなくなった。特に鬣をされると気持ち良いのか、尻尾をふりふりと揺らす姿がとっても可愛い。


『やーそれにしても…まさかコバルオンとレシラムさんに続いて、また幻クラスのポケモンさんに出会えるとは思わなかったなぁ。』

〈え…ヒナタ、コバルオンに会ったのか!?〉

『うん!一回だけだけどね。そうそう、ケルディオくんのこと心配してたよ?』

〈う…そう、だよな…でもオレ、キュレムに勝つまでは帰らないって決めてるから…まだ会えないんだ。〉

『そっか…そうだね、いつ戻るかはケルディオくんが決めればいいと思うよ。でもあんまり無理しちゃダメだからね?』

〈…へへ、ヒナタは優しいな。だから好きだぞ!〉

『あぁあああもうケルディオくん可愛い!!可愛すぎ!!』

「オレも姫さんが可愛すぎて辛いぜー!!」

『ぐぇっ!?』

〈だ、大丈夫かヒナタ!?〉


ケルディオくんの無邪気な笑みに萌えていたあたしの背後から、突然長い腕と共に衝撃が降ってきた。ギュウギュウと抱き締められお腹を圧迫されたあたしから何とも可愛くない声が出る。…こんなことをするのは彼しかいない…!


『もー嵐志!ケルディオくんもいるんだし危ないでしょ!?』

「ぶはっ、悪い悪い!姫さんがかわいーかわいー言ってたからついノリでなーって…げっ、そーくん…!!」

「嵐志ぃ…!ヒナタ様に気安く触れるなと何度言えば分かるんだ貴様ぁあああ!!」

「だ―――っタンマ!そーくんタンマ!ここで暴れると姫さんに迷惑かかるぜ!?」

「っぅぐ…!…し、仕方ないな…今は見逃してやる!」

『おぉ…!嵐志が蒼刃に打ち勝った!』

「打ち勝ったとは言わないと思いますがねぇ。」


騒々しく現れた嵐志を筆頭に続々と病室へ入ってきた仲間達。ちょうどあたし達のやり取りを見ていた氷雨が呆れたように溜め息を吐いたけれど、ケルディオくんは賑やかだな!と楽しそうに笑っていた。


『…あ、そう言えばそっちはどうだった?』

「ビンゴでしたよ。洞穴周辺に住む水ポケモン達にも確認しましたが、やはり怪しい船や人間が現在でも目撃されているようです。」

「蒼刃も、プラズマ団の気配を感じたんだよ、ね?」

「あぁ。ヒナタ様、感付かれないギリギリの所で確認したので少し距離はありましたが…洞穴の先から複数の人間の波動を察知しました。」

『てことは…ケルディオくんの言う通りみたいだね。よし!それじゃ早速…の前に、』


ブラッシングし終わったケルディオくんの毛並みを一撫でして立ち上がる。うん、いい仕上がり!

中々に満足しながら病室を出てある場所を目指す。ふっ…あなた達の行きそうなところなんてお見通しなんだから。


『…ほーら見つけた…このサボりコンビめ!!』

「美味ぇ…やっぱ糖分足りねぇ時にはコレに限るな。」

『無視!?もう、モモンジュースに舌鼓打ってる場合じゃないよこの甘党ヤンキー!!』

「あ″ぁ?そんなに燃やされてぇのかクソガキ。」

『すみませんでした!!』

「弱っ!姫さん弱ぇな!!」


飲み終わったジュース缶をグシャリと握りつぶして睨まれたら、もうあたしには素直に引き下がる他道はない。怖すぎます紅矢様…。


「やれやれ…雷士、君もいい加減起きなさい。」

〈…ん、ふぁあ…帰ってきたの?〉

『こっちは安定の爆睡だし…!全く…ちょっとくらい手伝ってくれても良かったのに。特に紅矢は蒼刃と2人で探知コンビなんだから!』

「勝手に決めんな。」


あたしは氷雨や蒼刃からの助言により、海辺の洞穴に突入する前にプラズマ団が本当に潜伏しているのか偵察をすることにしていた。ただ、人間のあたしが下手に向かって見つかってしまった時には怪しまれるし、何より足手まといだ。

だからその役目を皆に頼んだんだけど…この協調性ゼロの2人は見事にサボったという訳で。あの氷雨様でさえ動いてくれたってのにどういうことなのもう…!


『はー…とにかく、氷雨達のお陰で確かな情報が手に入りました。ということで早速乗り込もうと思います!』

〈あぁ!頑張ろうなヒナタ!〉

〈いい?ヒナタちゃん、くれぐれも無理はしちゃダメだからね。〉

「だな!うっし、行こーぜ姫さん!」


皆もあたしも気合いは充分、でも決して先走ってはいけない。目標は極力騒ぎにならないようにキュレムを救出することだけど…プラズマ団だってみすみす逃がすつもりはないだろう。その時はきっとバトルになる。だから皆を守る為にあたしもしっかりしないと!

バッグの中の道具に不足がないか確認し、ケルディオくんを連れてセンターを出た。彼の瞳は強く洞穴の方を見据えている…うん、一緒に頑張ろうねケルディオくん。

雷士以外は一度ボールに戻し、あたしは洞穴へ向けて一歩踏み出した。



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