long | ナノ







1

『…うわぁ…高いね!』

〈さすがに雰囲気あるね〉
 

プラズマ団を撃退し、とうとう足を踏み入れたリュウラセンの塔。相当古いだけあって所々に崩れた柱や壁の残骸が転がっている。


『多分…いるとしたら天辺、だよね』


レシラムが本当にいるかどうかは分からないけれど探す価値は充分ある。何よりここはハル兄ちゃんの研究に役立つ要素盛りだくさんだし!


〈でもヒナタちゃん、君の運動神経でここ登れるの?〉

『いきなり出鼻挫くようなこと言わないでくれるかな雷士くん』


確かに否定出来ない所がまた悲しいけどもね!

倒れた塔や瓦礫がまるでアスレチックのように並び、上へと進むにはそれらを乗り越える体力が要りそうだ。…つまり運動不足のあたしにはキツい。


『…で、でも!頑張るもんね!いいよダイエットだと思えば何とかなる』

〈恥ずかしいから自分で自分を励ますのやめなよ〉


雷士に後頭部を尻尾ビンタで叩かれつつ瓦礫を登る。う……っき、キツい……!




そしてかれこれ10分後、




『アカン…もうこれアカン…絶対明日筋肉痛コースや…』

〈何でコガネ弁なの〉


いやいや雷士くん、ピカチュウの君はひょいひょい登れるかもしれないけれどあたしには無理だよ…。息苦しさのあまり思わず樹みたいなコガネ弁になっちゃったわ。


『うぅ…予想はしてたけど辛い…しかもまだ上があるし…』


これはマズい、急がないと手遅れになってしまう。いやもう既に手遅れかもしれないけれど!


〈ほらヒナタちゃん、しっかりしなよ〉

『イエッサー…』


雷士の小さな手でペチペチと足を叩かれ叱咤される。あと一息、そう思いまた一歩踏み出そうとした時、ボールから嵐志が飛び出してきた。


〈ひーめさん!大丈夫かー?〉

『嵐志!うん、何とか…頑張ります』

〈ぶはっ、死にそーな声じゃねーか!仕方ねーなー、ここはオレが運んでやるから任せとけ!〉

『え…え、ぅわっ!?』


鼻歌を歌いながらヒョイとあたしを抱き上げる。まぁ完璧なお姫様抱っこ。そしてそのまま軽やかに瓦礫を飛び越えズンズン上階に進んでいった。



−−−−−−−−−



『…ぞ、ゾロアークの力を舐めてた…!』

〈よゆーよゆー!〉

〈姫抱っこはムカつくけど良かったねヒナタちゃん〉


嵐志に抱えられてあっという間に最上階と思しき部屋に辿り着いてしまった。え、というかゾロアークってあんな細腰なのにこんなに力があったの!?


〈ぶはっ、姫さん抱えて走るくらいの体力はあるって!〉

『そ、そっか…今心読まれたけどありがとうね!』

(僕の嫌味はスルーなんだ…)


ケラケラ笑う嵐志にお礼を告げて辺りをグルリと見渡した。うーん…これと言って変わったものはないね。


〈…ねぇヒナタちゃん、上〉

『上?』


雷士があたしの髪を引っ張り小さな指で上を指す。一体何を見つけたのかと嵐志と共に天井を見上げた。

すると天井には大きな穴が空いていて空が見える。これは…この上にも登って何かないか確かめた方がいいのかもしれない。


『ゴメン嵐志、あの上まで登れる?』

〈任せとけって!〉


もう一度あたしを抱えて飛び上がり、軽々と塔の最上階の更に上へ降り立った。外は少し暗くなっている…じきに夜だ、日が落ちるまでにはここを出ないと。


〈…!ぇ…、〉

『?どうしたの嵐志?』


あたしを降ろしてキョロキョロ辺りを見渡していた嵐志が突然動きを止め、小さな声を漏らした。一体何事かとその視線を辿ると、






「…やぁ、ヒナタ」






そこには、鮮やかな緑の髪を靡かせたNさんが佇んでいた。



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