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あたし達を取り囲むようにして10体ほどのポケモン達がこちらを睨み付けている。中にはギガイアスやドリュウズ、 ハガネールなど如何にも高レベルなポケモンもいて冷や汗が額を伝った。
『げ、ゲンさん…これってかなりヤバい状況ですよね』
「そうだね…きっと今から盛大に私達の歓迎会を開いてくれるんだろう。サプライズパーティならもう少し驚いてあげればよかったね」
『どうしてそんなポジティブなんですかゲンさん!?』
〈す、すみませんヒナタさん!ゲン様少し頭が弱…天然なんです!〉
〈君何気に失礼だよね〉
ルカリオくんには悪いけれど割と本気で天然とか言っている場合じゃないからね!ポケモン達も超機嫌悪そうだし!
〈我らの住処に立ち入るとはいい度胸だな…返り討ちにしてくれる!〉
多分リーダー的存在であろうギガイアスが低い声で怒りを露わにしている。あれ、何か前にもこんなことあったよね確かリバースマウンテンで!
『ゲンさん…確実に怒ってますこの子達。住処に入られたのが気に入らないらしくて…』
「はは、そうみたいだね。波動で何となく分かるよ!」
『何でさっき歓迎会とか言ったんですか!?』
もうやだこの人抜けてるのかそうじゃないのか全然分かんない!!雷士とはまた違ったタイプのマイペースさんだなぁ…。
〈ゴチャゴチャ言わずに早く出て行け人間共!!〉
『っ!ら…わっ!?』
「危ないヒナタちゃん!!」
ハガネールの鋼鉄の尾があたしに襲いかかる。そして雷士に攻撃の指示を出そうとした瞬間、ゲンさんがあたしを抱えて助けてくれた。うん、助けてくれたのだと思う、多分。
抱き上げられた状態を解放してもらいハガネールに向かい直すと、あたしの代わりに砕かれた岩の残骸が目に入り思わずゲンさんの服を強く握ってしまった。
「大丈夫だよヒナタちゃん、私が君を守るからね」
『あ、ありがとうございます。でもあたし達もお手伝いしますよ!』
〈いいからヒナタちゃんの肩から手を離しなよニート〉
〈あ、私が濁したことをハッキリと…!〉
『ルカリオくん濁しきれてなかったけどね!』
いやいや今はそんなこと言っている余裕はなかった!この立ちはだかるポケモン達をどうにかしなきゃネジ山を越えることは出来ない。
ここはゲンさんと協力して彼らを追い払おう。罪はないから申し訳ないけれど…こっちもそうも言っていられないしね。
(ここは全体的に相性のいい氷雨でもいいけど…あんまり広くない場所だし、速く動ける蒼刃にお願いしよう!)
蒼刃も岩タイプや鋼タイプには相性がいいし、俊敏かつ細かな動きが出来る彼ならきっと最低限のダメージで抑えられるはず。
そしてあたしは蒼刃のボールに手をかけた。けれどその時、
「いけるな?ルカリオ」
〈はい!〉
さっきまでニコニコしていたゲンさんの纏う空気が刺すようにピリピリしたものに変わったから、あたしは動くことが出来なかったのだ。
「ルカリオ、はどうだん!」
『!』
そこからは一瞬だった。勿論実際にはそうではないのだけど、ルカリオくんの攻撃があまりに速すぎてまるで一瞬の出来事のように思えた。
最後に残ったギガイアスがはどうだんで崩れ落ちる。目を回しているから気絶していることに間違いないだろう。
『…す、すごい…!』
〈ふぅん…蒼刃よりもやるんじゃない?〉
軽やかにゲンさんの隣りに舞い戻ったルカリオくんの体には攻撃を受けた痕跡が全く見当たらない。あれだけのポケモンを1人で相手して、どうして傷1つ付かないのか不思議でたまらなかった。
そしてそれはゲンさんも同じ。ルカリオくんに出す指示はどれも的確で、まるで彼らに死角なんて存在しないかのようだった。
「うん、中々いい動きだったぞルカリオ」
〈ありがとうございますゲン様〉
ゲンさんに褒められたルカリオくんが嬉しそうに笑う。
…強い。ルカリオくんも、ゲンさんも。
「怪我はないか?ヒナタちゃん」
『は、はい!大丈夫です!』
「そう、よかった。だから言っただろう?私が君を守るとね」
そう言ってふんわり笑うゲンさんは確かに王子様みたいでカッコ良かった。…やっぱり少しだけダイゴさんに似ているなぁ。
あたしもこんな風にみんなに的確な指示を出して、一緒に戦えるようなトレーナーになりたい。そう思わせてくれる人だった。
〈ふふ、ゲン様はただのダメ男ではなくて紳士なんですよヒナタさん!〉
『何!?ルカリオくん本当はゲンさんのこと嫌いなの!?』
「え?ルカリオがどうかしたのかい?」
『いっいえ!何でもないです…』
…うん、まぁ…きっとある種の愛情…だよね。
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