long | ナノ







1

「全く…無茶しないって約束したでしょ!?」

『ご、ゴメンなさい…!!』


あたしは只今ポケモンセンターにて正座真っ最中。何故かって?それは…言わずもがな先ほどのラプラス騒動が原因。ちなみに男装は一時中断しました。

…でもあたし、無茶したつもりはないんだけどなぁ。


〈何言ってるの、危ないって言われてたのに川に近付いた時点で間違ってるでしょ〉

『いだだだだゴメンなさいゴメンなさい!!そして心読まないで!!』

「あらやだ、電撃プレイ?」

「違うと思うぜーアオイさん、あれは間違いなくお仕置きだ」


雷士があたしの人差し指を握ったかと思えば、一瞬で全身を駆け巡る静電気。い、痛い!地味に痛い!罰ゲームか!


「…まぁでも、大した怪我はしてなくて良かったわ。おまけにラプラスまでゲットしちゃったからチャラね!」

『はい…!』


よかった許してくれた!そろそろ周りの目が辛い所だったし助かった…!ていうかアオイさんカゴメタウンのセンターまで来てお説教とか怖い。

  


「ヒナタさん!ラプラスの治療が終わりましたよ!」

『あ…はい!』


ジョーイさんの声で痺れる足を叱咤し立ち上がる。ラプラス元気になったかな、早く顔見に行かなきゃ!

雷士達にも声をかけて迎えに行こうとした時、アオイさんに腕を掴まれ止められた。


「…ねぇヒナタちゃん、本当にラプラスを連れていくつもり?」

『?はい、そうですけど…?』

「…あのラプラスがいたらいつまでもビレッジブリッジに人が寄り付かないのは事実だけど、でも…人を襲う危険性を持っているポケモンなのよ?もし今後ヒナタちゃんに今日以上のことがあったら…」


…そっか、アオイさんは心配してくれているんだ。多分あたしがビレッジブリッジ活性化の為に仕方なくラプラスを連れて行くことにしたんじゃないかとか、それでこの手の怪我以上の大怪我をするかもしれないとか…そんな感じで。


『…大丈夫です。自分を止めてみろと言ったのはラプラス本人ですし、あの子を連れていくと決めたのはあたし自身ですから』


それに、あの冷たい瞳の中に潜む悲しみを救ってあげたいと思ったのもあたし。傲慢かもしれないけれど…少しだけ昔の自分を重ねてしまったから、放っておくことなんて出来なかった。


『一緒にいて…いつか、心から笑ってくれるように頑張るつもりです。あの子はもうあたしの大事な仲間ですから!』


眉を寄せているアオイさんとは対照的に満面の笑みを浮かべる。すると彼は苦笑し、あたしの頭を優しく撫でた。


「本当にもう…変わった子ね。でも私は好きよ、ヒナタちゃんのこと。この子ならきっと大丈夫、そう思わせてくれるもの」


少し抜けてる所は心配だけど、と付け足して笑ってくれた。やっぱりアオイさんは綺麗だ。撫でる手は大きく逞しい男性のものだけど…纏う雰囲気は女性のように柔らかくて優しい。


「じゃあ私は先に店に戻るわ。ヒナタちゃんも落ち着いたら顔を出してくれる?」

『はい!すぐ手伝いに行きますね!』


喫茶店のお手伝いは明日までの約束だ。お客さんの入りも上々のようだし、早めにアオイさんのフォローに戻らなきゃ!

まぁその前に…ラプラスと対面しなきゃだけどね。

あたし達は一端アオイさんと別れ、ラプラスがいるという病室へ向かった。ふとその途中外が暗いことに気付き、窓を見るといつの間にか雨が降っていた。


(うわ、結構強い…早く止まないかなぁ)


濁った空を覆うように降り注ぐ雨粒は、何だかあのラプラスの心を映しているような気がした。



−−−−−−−−



『…あれ?いない…』


教えてもらった部屋に着き中を覗いてみたけれどラプラスはいなかった。え、まさか逃げたとかじゃないよね!?

慌てて部屋の中を探すも見当たらない。いや、というかあんな大きい体で隠れられるわけがなかった。


『あぁもう、どこ行っちゃったの…!?』

〈…ヒナタちゃん、あそこ〉

『え?』


雷士に髪を引っ張られ、窓の外に視線を向けると少し離れた塀の影に特徴的な甲羅を乗せた青い姿が見えた。…間違いない、あれはラプラスだ。

というか周りに人がいなくてよかった…!悲しいことにあの子付近の人達には恐れられているし、もし見つかりでもしたら大騒ぎになる所だったよ!


『それにあんな所にいたら絶対濡れるし…!ちょっとあたし迎えに行ってくるね、皆も濡れちゃうから中で待ってて!』

〈うん〉

「ヒナタ様!あのような危険な男の元へお一人で行かせるわけには…!」

「はいはい、姫さんなら大丈夫だから言うこと聞けってそーくん!」

「…くだらねぇ」

「で、でも…もし本当に何かあったら呼んでね?マスター」

『うん、ありがとう!』


嵐志が蒼刃を引きずっていく姿に苦笑を贈った後、あたしはカバンから折りたたみ傘を出してラプラスの元へと走った。



prev | next

top

×