long | ナノ







1

『わ、橋の上に家が建ってるよ雷士!』

〈すぴー…〉

『雷士ぉおおお!!』

〈うるさいヒナタちゃん〉

『あいたっ!?』


カゴメタウンを後にして、あたし達はソウリュウシティに向かう為ビレッジブリッジに来ていた。レトロで何だか可愛らしい家々を見て、雷士にこの興奮を伝えたら案の定爆睡中。

そして無理やり起こそうとしたらこれまた案の定返り討ち。うぅ…しかもワザと尻尾の中でも固い部分で叩かれた。


『いいもん雷士のバカ…1人で満喫するし!』


そうして後頭部をさすりながら橋を渡っていると、ふと気が付いたことが1つ。


(…何か、人いなさすぎじゃない?)


カゴメタウン以上の人気の無さ。勿論家が並んでいるとは言え、町ではないから当たり前かもしれないけれど…。それにしても橋を渡る人すら見えないのはおかしくないだろうか。


『何でだろ…元々渡る人が少ないから?』


…まぁ何にせよ今のあたしにとってソウリュウへと続く道はここしかない。疾風に飛んでもらうという手もあるけれど、極力自分の足で旅をすると決めた手前そういう訳にもいかないのだ。






(…あれ?人?)


ようやく橋の終わりに近付いた時、一軒の家の前に男性が座り込んでいた。どことなく力無い印象で何となく心配になる。

ここに住んでいる人で間違いないだろうけれど…一体何をしているのだろう?

けれど心配は余計なお世話かもしれないと思い直し、何事もなく前を通り過ぎる。


…筈、だった。


目の前を行くあたしが視界に入った瞬間、彼は目を見開き神業のようなスピードであたしの腕を掴んだのだ。


『っえぇええ!?な、何ですか!?』

「…ふふふ、久しぶりの…人…!」


わぁああああ何か怖いよぉおおお!?起きて!起きて雷士!ヘルプミー!

強い力で掴まれた腕はビクともしない。慌てふためくあたしに構うことなく、その人はズイッと顔を近付けてニッコリ笑った。


「しかも…可愛い…!!うふふ、これはもう決まりね!」

『決まり!?何が!?』

「いいからいいから、説明は中でするわ!さぁ入ってちょうだい!」

『えぇええええ!?』


ズルズルと家に連れ込まれるあたし。雷士は変わらず睡眠中。あぁ、この子に助けを求めたあたしがバカだった!

無情にもどんどん遠ざかっていく外の景色。そんな中あたしの脳裏に浮かんだのは、この人オネエの人なんだ…という何とも間抜けな感想だった。





−−−−−−−−−−





「さぁさぁ、紅茶でもどーぞ!」

『…あ、ありがとうございます』


座らされてやっと気付いたけれど、どうやらここは家というよりお店らしい。薄いピンクや白を基調とした室内は素直に可愛い。所々に飾られたアンティークもお洒落だ。


「突然ゴメンなさい!おまけに無理やり連れ込んじゃって…ビックリさせちゃったわね」

『あ、い、いいえ…お茶美味しいですしありがとうございます』

「あら、礼儀正しい子ねぇ!お姉さん益々気に入っちゃったわ!」


肩まで伸びた細く柔らかな茶髪に白い肌。顔のパーツも整っていて実に美形なオネエさんだ。こんな人が一体あたしに何の用が…?


「そうそう、申し遅れたけど私はアオイ。この喫茶店のオーナーよ!」

『あ、ヒナタです!よろしくお願いします』


そうか、ここって喫茶店だったんだ。確かに言われてみればそんな感じかも。でもお客さんがいない…?


「そう…つい最近まではね、ここのビレッジサンドを食べる為に他の地方からもお客さんが来るくらい人気の店だったのよ。でも…あのポケモンが現れてからパタリと客足は止まった」

『…あのポケモン?』


アオイさんは綺麗に整った眉を寄せ、チラリと窓の外を見た。


「ビレッジブリッジの下に大きな川が流れてるんだけど…ある日突然そこにラプラスがやってきたの。結構珍しいポケモンだから当然人が集まったわ。そうしたらそのラプラス何の躊躇いもなく攻撃を仕掛けてきたのよ。橋の上まで追いかけてきて襲うもんだから、皆その凶暴性にすっかり怯えちゃって…いつしか観光客も途絶えてしまった。まだここに済んでる住民もいるにはいるけど、最低限の外出しかしないから誰にも会わなかったでしょう?」

『あ…は、はい』


そっか…そんな理由があったんだ。確かにポケモンが本気で襲いかかってきたら人間なんてひとたまりもないよね。


「ラプラスを捕らえようとする人もいたけど…皆返り討ち。今では近付く人すらいなくなったわ。…でも私何とかしてもう一度ここを活気溢れる店に戻したいの。ねぇヒナタちゃん、どうか協力してくれないかしら!?」

『っあ、あたしに出来ることなら!!』

「本当!?」


がっしり手を握られて詰め寄られると逃げ場はない。それに…本当に困ってるみたいだし、お手伝いくらいならしたいとも思う。


〈全くヒナタちゃんは押しに弱いんだから…〉

『う…』


だって…あたしが協力するって言ったときのアオイさん凄く嬉しそうだったんだもん。



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