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あまりの近さに思わず後ずさったあたしに気付いたらしいその人は、慌てて距離をとると謝罪の言葉を口にした。
「あ…す、すまない。不躾だったね」
『いいえ…あたしの顔に何かついてましたか?』
「いや、そういう訳じゃないんだ。…その、もし勘違いだったら悪いんだけれど…君はひょっとしてヒナタちゃん、かな?」
『…!?え、どうして…?』
どうして、あたしの名前を知っているのだろう。
今度はあたしが驚く番だった。彼はそんなあたしの反応を見て、どこかホッとしたように微笑んだ。
「やっぱり…そうだったのか。僕の名前はダイゴ、ハルマとは旧知の仲なんだ」
…え、ハル兄ちゃんの…お友達!?
「まぁここでずっと立ち往生しているわけにもいかないし、君はリバースマウンテンを抜けるんだろう?僕もなんだ。だから一緒に歩きながら話そうか」
『あ…は、はい!』
〈ちょっとヒナタちゃんの肩を抱くんじゃないよ〉
「おっと…はは、君のピカチュウは随分ご機嫌斜めのようだね」
『わ、コラ雷士!威嚇しちゃダメでしょ!?』
あたしの肩に触れたダイゴさんの手を弾くように微量の電気を放出した雷士。もう…本当に何で怒っているのだろう。
ダイゴさんに平謝りすると気にしていないと笑ってくれた。あたしは申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、彼の言う通り入り口では邪魔になるのでひとまず中へと入っていった。
−−−−−−−−−−−
『わ…や、やっぱり熱い…』
「まぁ火山の中だからね」
リバースマウンテンの内部にはマグマが噴き出していて熱気が凄かった。ボコボコと蠢くマグマから何か得体の知れないものが飛び出してきそうで少し恐い。
『雷士…大丈夫?ボールに戻る?』
〈ううん…いいよ。何とか平気だし、それにこの人と2人になんかさせたくないし〉
『?どういう意味?』
〈さぁね。でも相変わらずヒナタちゃんはアホっ子だよ〉
『ちょっとぉおおお!!』
「ふ…本当に君はポケモンと会話が出来るんだね」
『!』
し、しまった…またもや人前で普通に喋っちゃった。でも…本当に、って?
「あぁ…はは、君って考えていることがすぐ顔に出るね。最初に会った時もそうだったけれど…」
『う…よ、よく言われます』
なるほど…だからダイゴさんってばあの時噴火のこと色々話してくれたんだ。うぅ、雷士にいつも言われていることをまさか初対面の人にまで言われるなんて…!
「君のことはハルマからよく聞いていたんだ、勿論今のようにポケモンと話せるということもね。僕と彼は学会で出会ったんだけれど…同じ石好き仲間として気が合ってね、そこから付き合いが始まったんだよ」
『へぇ…でも初耳です。ハル兄ちゃん全然そんなこと教えてくれなかったですもん!』
本当にどうしてダイゴさんのこと教えてくれなかったんだろう。勝手にあたしのことは喋っちゃってる癖に!
「はは、ヒナタちゃんの気持ちも分かるけれど…ハルマのことを責めないでやってくれるかな。僕のことをあまり他言しないでくれと頼んだのは僕自身なんだ」
『え?』
「学会はともかく…その他の一般人が集まるような所であまり僕の存在を大っぴらにされるのは少し都合が悪いんだ。色々と…ね、」
…も、もしかしてダイゴさん…誰かに追われてるとか…!?生きている事がバレたら周囲の人も危険に晒されるとかそんな壮絶な事件に巻き込まれてるんじゃ、
「いやいやさすがにそれは無いよヒナタちゃん」
『な、何だ…良かった…!ってまた心読みましたね!?』
〈だから君が分かりやすすぎるんだって〉
『あいたっ!』
久し振りに雷士お得意の尻尾ビンタされた…。後頭部殴られるのって結構痛いんだからね!?
後ろ髪をさすりながらふてくされるようにほっぺを膨らませると、あたしと雷士のやり取りを見ていたダイゴさんが再び笑った。
…綺麗に笑う人だ。上品で、落ち着いていて…どこかのお坊ちゃまだったりして。
「君達は仲が良いね、見ていると和むよ」
『え、今ので和むんですか?あたし完全にバカにされてたんですけど』
「喧嘩するほど仲が良いって言うだろう?」
〈そうそう、可愛さ余って憎さ百倍って感じだよ〉
『雷士それ何か違う!』
全く、無表情なだけに本気なのか冗談なのか分からない。でもバカにしているのだけは分かるから困った相棒だ。
『…あ、そういえばダイゴさんはどうしてリバースマウンテンに来たんですか?』
「さっきも言ったけれど僕は珍しい石が好きでね、よく色々な地方を巡って採掘しに行くんだ。このリバースマウンテンにもそういった価値のある石があるという噂を聞いて来たんだよ」
へぇ、本当にハル兄ちゃんと気が合いそう。それにダイゴさんも学者さんなんだなぁ…石の話をする時目がキラキラしている。
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