long | ナノ







3

そのまま雷士に指示を出そうとした時、原型に戻った疾風がそれを制した。


『疾風…?』

〈マスター、ボクがやる。ボクに、止めさせて?〉


その時の疾風は今までで1番強い目をしていた。その表情には確かな怒りが見てとれる。

亡くなったポケモン達を冒涜するような行為が許せないんだ…。大好きだったお母さんを亡くした疾風だからこその怒り。

あたしの心も同じだ。


〈…分かった、疾風に譲るよ〉


雷士も感じ取ったらしく、そのままあたしの隣りまで下がる。疾風は雷士と顔を見合わせて笑ったけれど、すぐに鋭い目つきへと変わった。


「そこをどけ!ドリュウズ、メタルクロー!」

『すなじごくで防いで!』

〈うん!〉


鋼と化した爪で襲いかかるドリュウズの動きを激しく舞う砂で止める。ジタバタもがくドリュウズ…よし、効いている!


「く…ドリュウズ!あなをほる!」

『!』


砂に自由を奪われつつも、地面に潜り脱出されてしまった。どこから来るか分からない攻撃…おまけに特性は浮遊とはいえ、今は飛べない疾風には地面タイプの技も当たってしまう。


『気を付けて疾風!』

〈う、うん…!〉


悔しい、こんな指示しか出来ないなんて。けれどこの状況では…


「ふ…っ今だやれ!」

〈―――っ!!〉

『疾風!』


間一髪、盛り上がった土に素早く反応した疾風は体勢を乱されつつもギリギリかわしてくれた。

けれどホッとしたのも束の間、地中から飛び出したドリュウズはそのまま次の技へと移る。


「ドリルライナーだ!」

『いわなだれ!』


体を激しく回転させ突っ込んでくるドリュウズ。疾風も頭上から岩を出現させ降り注ぐが、ドリルライナーの威力はそれよりも上だった。


〈うわぁあああっ!!〉

『疾風!!』


降り注ぐ岩ごと砕き、真っ直ぐ突っ込んできたドリュウズをかわす事が出来ずドリルライナーを食らってしまった。そのまま弾き飛ばされる疾風。

けれど苦しそうに呻きながらも立ち上がってくれた。目に宿る闘志は失われていない…まだやれる!


「ふん…ドリュウズ!じしんだ!」

『!?』


ちょ、こんな所でそんな技を出したら…!

ドリュウズが力強く爪を床に突き刺すと、塔全体が激しく揺れた。フウロちゃんや他の人がまだ中にいるかもしれないのに!

疾風は何とか大丈夫だったけれど、体の小さな雷士は揺れに耐えきれず宙に浮くのが視界に映り、あたしは咄嗟にボールへと戻した。よし、後は疾風と一緒にこの人を…っ


疾風の傍へ行こうと一歩踏み出したその時、強い突風が未だ揺れる塔を襲った。


(――――あ、)


〈…!マスター!!〉


ぐらり、体が傾いた。

強風とじしんによってバランスを崩したあたしは足を踏み外し、空中へと投げ出される。落ちる瞬間、疾風が目を見開いたのが見えた。

手を伸ばしたけれど…届かない。








〈マスターっ!!〉


ボクは落ちていくマスターを助ける為飛び降りようとした。けれど…下を見た瞬間体が震え出す。


(…っこんな…時に…!)


あぁ、ボクは何て臆病なのだろう。マスター達と旅をする事で変わるかもしれないと思ったのに、結局何も成長していない。

お母さんが崖から落ちていく瞬間が脳裏にフラッシュバックする。


(怖い、苦しい、誰か助けて…!)


現実逃避の如く強く目を閉じる。


―――その時、胸にあの優しい声が響いた。



(大丈夫だよ、君は絶対飛べる。あたしは信じてるから!)


〈…!〉


…そうだ、マスターは…ボクにそう言ってくれた。昴も、自分を信じれば飛べるって教えてくれた。

マスターはボクを信じてくれたのに…ボク自身が疑っていたら飛べるわけないじゃないか!!


〈―――…っボクは、飛べる!だってボクは…風よりも速く空を翔ける、ドラゴンだ!!〉



大きく羽根を広げ飛び出した瞬間、ボクの体が目映い光に包まれた気がした。




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