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『おぉ…近くで見るとまた高いねー』
〈天辺ここからじゃ見えなくない?〉
目の前にそびえ立つ慰霊の塔、タワーオブヘブン。天辺が雲にかかって見える程の圧倒的な高さに思わず唾を飲み込む。
『よし、とりあえず管理人さん探そっか!』
あたし達はここへ勿論お参りをしに来たのだけど、あるお願いも携えてやって来た。
それは…疾風のお母さんのお墓を建ててほしいと言う願い。
本当は故郷であるリゾートデザートに建てるべきなのかもしれないけれど、やっぱり無法地帯と化す砂漠よりきちんと管理の行き届く場所に建てた方がいいだろうと考えた。
疾風も賛同してくれたし、早速タワーオブヘブンの管理人さんを探す。無理だと言われたらそれまでだけど…それでも話だけでも聞いてもらいたかった。
『わ…見て見て、螺旋階段だよ』
中へ入ると螺旋階段が遥か上へと続いている。何か目が回っちゃいそう…。
入り口付近から周囲を見渡しただけだけど、ぱっと見でもいるのは2〜3人。その中の誰もがお墓参りにきたと思しき人達で、管理人さんらしき人は見当たらなかった。
『んー…もっと上にいるのかな。ちょっと上がってみる?』
〈そうだね。…あ、誰か下りてくるよ〉
螺旋階段を上ろうとした時、雷士の耳がピクピク反応し足音を察知する。初めは微々たる音だったそれは、近付くに連れてあたしにも聞こえてきた。
トントン、と軽い足音…子供か女性かな?
暗がりに灯る明かりに照らされ、段々とハッキリするその姿。
あ、もうすぐ見える…と思ったら。
『―――っひぎゃあぁああ!!??』
突然あたしの目の前に、真っ黒い大きな布のようなものが現れた。その中心に垣間見えたのは鋭く光る牙。そして顔にモロにかかった生暖かい鼻息に鳥肌が立つ。
こ、これってまさか…お化けぇえええ!?
〈…っ下がってヒナタちゃん!〉
雷士があたしの頭から飛び降りて臨戦態勢をとる。え、でもお化けに攻撃って出来るの!?
『む、無理、雷士、ダメ!危ないからに、逃げよう!』
〈何言ってるの、ヒナタちゃんの足で逃げたって追い付かれるだけでしょ。運動神経悪いんだから〉
両頬からバチバチと火花を散らす。ていうか今さり気なく酷い事言われたよね!?いや事実だけども!
逃げ腰のあたしとは反対に全く退く気配を見せない雷士…。あーもう…!どうにでもなれコノヤロー!!
震える足を叱咤し、半ばヤケクソになって雷士へ攻撃の指示を出そうとした。
…その時、
「あ、あの…ゴメンなさい!驚かせちゃった、よね?」
『…へ?』
お化け?の後ろから、ワインレッドの髪をした可愛い女の子がヒョコッと現れた。…あ、さっきの足音はこの子のものだったんだ!
〈…見なよヒナタちゃん、ポケモンだ〉
雷士の言葉通り、あたしがお化けだと思ったものはココロモリだった。布のように見えたのはこの子の翼らしい…なるほど、あの牙も納得。
「本当にゴメンね!そんなつもりはなかったんだけど…だから先に行かないでって言ったでしょココロモリ!」
『あ、う、ううん!大丈夫!こちらこそ勝手に勘違いしちゃってゴメンなさい。その子は悪くないよ!』
トレーナーらしいその女の子に注意され、シュンとするココロモリを見て慌てて謝る。すると女の子はあたしを見てニッコリ笑ってくれた。
「そう言ってくれると助かるよ。あ、私はフウロ!この街のジムリーダーです」
『え!?ジムリーダー!?』
一応ね、と付け加えて照れ臭そうに笑うフウロと名乗った女の子。わ、そんな顔も可愛い…じゃなくて!
凄いなぁ…あたしと同じくらいの歳だろうに。イッシュ地方のジムリーダーを務める女の子は皆若いんだ…。ホミカちゃん然りカミツレさん然り。
『あの、あたしはヒナタです!よ、よろしく…!』
「ヒナタちゃん…うん、よろしくね!」
ギュッとあたしの両手を握ってくれるフウロ、ちゃん。うう、やっぱり可愛い!
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