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涼しくて気持ちの良い風が吹き抜けるフキヨセシティ。その街のある一角で、あたしとゾロアークさんは大いに盛り上がっていた。
『それでね、Nさんリゾートデザートであたしや疾風を助けてくれて…。凄かったんだよ!ポケモンと本当に友達って感じで!』
野生のポケモンとあんなに心を通わせられる人をあたしは初めて見た。彼はポケモンをトモダチと呼んだけれど、それは素敵な表現だと思う。
「ぶはっ、アイツそーゆう所相変わらずだなー。ポケモン命なんだぜ!」
『うんうん、そんな感じ!』
「でもさ、時々電波な所無かったか?急に早口になったりよく分かんねー事言い出したり」
『…あった、かも。あ、でもNさんより電…不思議な人にこの前会ったばかりだしその人に比べたら全然普通だと思う』
「え、マジ?アイツより電波なヤツがこの世に存在すんの?」
『意外と失礼だねゾロアークさん』
ちなみにそのNさん以上に不思議な人とはアクロマさんの事だったりする。
「…ふーん、そっか…」
ベンチに腰掛けていたゾロアークさんは突然立ち上がり、芝生の上にゴロンと寝転がる。葉っぱが高そうな服にかかるのもお構い無しだ。
『どうかしたの?』
あたしもベンチから降りて体操座りで彼の隣りに腰を下ろす。顔をのぞき込むとその水色の水晶体に真っ白な雲が映り込んでいて、まるで彼の瞳の中に青空が浮かんでいる様だった。
「いや、さ…Nって昔はポケモンだけを大事にしてて人間はどーでもいいって感じだったんだ。その辺は何となく本人から聞いてねーか?」
『…あ…、そういえば…』
Nさんからプラズマ団での事を聞いた時、そういった話もしていた気がする。
確かプラズマ団に拾われた後は人間によって傷つけられたポケモン達としか接する事が出来なかったから、自然と人間を蔑ろにする様になったとか…。
それも時たま耳にする「あの方」が仕組んだ事なのだろうか。もし本当にそうだとしたら、Nさんの優しい心を歪ませた事がやるせない。今は彼自身の力で変わる事が出来た様だけれど…それでも許される事じゃ無い。
「…姫さん、眉間にシワ寄ってるぜ」
『え!?あ、え、えっとゴメン!別にゾロアークさんが何かしたとかそんなんじゃ…!』
「わーかってるって!アイツの事考えてたんだろ?優しーな、姫さん」
『そ、そうかな…?』
それを言うなら今嬉しそうに笑っているゾロアークさんの方があたしよりずっと優しいと思う。Nさんを思う彼の瞳はとても穏やかだから。
「でも…そんなアイツが姫さんを助けたって事は、よっぽど姫さんの事気に入ったんだろうな」
『へ?』
「アンタ、何となくポケモンに好かれるニオイがするんだよ。多分Nも姫さんのそう言う所に惹かれたんだぜ?」
ポケモンに好かれるニオイ…?それってどんなのだろう。
『でもそれってあたしがポケモンの言葉が分かるからじゃないの?』
「まーそれも1つの要因だろーけど…それだけじゃねーんだよな。なんつーの、雰囲気?」
『雰囲気…?』
うーむ…益々分からなくなってきた。でも本当にあたしがポケモンに好かれる体質なのだとしたら嬉しいな。
「アンタのポケモン達を見てれば分かる。姫さんが好きで堪らないって顔してるしな!」
『いやそれは確実に無いと思う。特にガーディ』
「分かってねーなー姫さん!あれはあーいう表現しか出来ねーんだって!」
ゾロアークさんはケラケラ笑っているけれど…それはさすがに信じられないよ!?だってあの横暴キングがあたしを好きなんて有り得ない、トレーナーと認識しているかどうかも怪しいのに!
「でもさ、そーゆうの良いよな。アイツも…今は幸せだったら…」
…彼は少し、Nさんに似ている気がする。大人だけれど子供のような面もある不思議な人…。そして時たま、酷く寂しそうな顔をする。
『ねぇ、今度はゾロアークさんの話を聞かせてくれない?あなたとNさんが出会った時の事が聞きたい』
ゾロアークさんが今のNさんの事を知らない様に、あたしも昔のNさんの事は少ししか知らない。どうしてこんなにゾロアークさんはNさんを思うのか…それが気になった。
「…分かった。姫さんになら話してやるよ!」
芝生から体を起こした彼は、胡座をかいてからゆっくり話し始めた。
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