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「いやー良い天気で気持ちいーな!おまけに隣りには可愛い姫さんがいてオレ幸せー」
『そ、そうデスカ…』
どうしよう、あたしこういう軽そうな人の免疫が無いからどうして良いか分からない…!助けて経験豊富な澪姐さん!
1人脳内でガクガクしていると、突然ゾロアークさんが足を止めた。
『…?どうしたの?』
「アイツらは…、」
アイツら、そう放った彼の目線を辿ると…またもや出会ってしまった。
『…プラズマ団…!』
彼らは以前ヒウンで遭遇した時の様に、1人のトレーナーと思しき男性に詰め寄っていた。いけない、またポケモンを奪う気だ!
「あれ、姫さん知ってんだ?」
『うん、ちょっと…というかむしろ知りたくなかったって思うような人達なんだけど』
「…そっか、ならオレと一緒だ」
『え?』
ニッ、と笑ったかと思ったら原型に戻り物凄いスピードでプラズマ団の元へと駆け出した。
え、速っ!?
思わず狼狽えてしまったけれど今は彼を追わないと。さっきの言葉を察するに、多分紅矢の時の様にプラズマ団を追い払うつもりだろうから。
「さぁ、俺達にポケモンを渡しな!」
「ポケモンを人間の手から解放するのよ!」
「い、嫌だ!お前達なんかに絶対渡すもんか!」
やっぱりあの時と同じだ。ポケモンを奪おうと迫る団員と、怯えているダルマッカをギュッと抱きしめるトレーナー。
彼らの絆を奪おうなんて許せない…絶対助けなきゃ!
腰のボールに手を伸ばした瞬間、前を行くゾロアークさんがサッとその手を制した。
〈だーいじょーぶ、オレに任せろって〉
口調は軽かったけど真剣な眼差しにあたしは返す言葉が見つからず、ただ頷く事しか出来なかった。
「どうしても渡さないと言うなら力ずくで奪うまで!いきなさいハブネーク!」
『!』
結局実力行使ってわけ…!?
勝ち気そうな女性団員がハブネークを繰り出す。トレーナーさんのダルマッカは戦える様な状態には見えない…やっぱりゾロアークさんにお願いするしかない!
「ポイズンテール!」
「うわぁ…っ!」
ハブネークの鋭利な尻尾が毒を帯びて彼らに襲いかかる。でも技が決まる寸前、勢いよく飛ばされた黒い塊がハブネークを弾き飛ばした。
『あれって…シャドーボール!?』
凄い、ゾロアークさんはシャドーボールが使えるんだ!
彼の放った技の威力は強かったけれど、喜んだのは束の間。それでもハブネークは起き上がった。
「一体何…!?邪魔するつもりなら容赦しない!」
もう1人の団員はポケモンを出して来ない…装備を見る限りでは持っていないのかな?そうだとしたら都合が良い、2対1では分が悪いから。
〈悪ぃけどいくら女の子だからってプラズマ団相手ならオレも手加減しないぜ?〉
ゾロアークさんは余裕だ…きっと勝てる自信があるのだろう。
「まずはお前を片付ける!ハブネーク、どくどくのキバ!」
大きく口を開いて鋭い牙を晒し、勢いよく飛びかかってくるハブネーク。けれどゾロアークさんは余裕の表情を崩さない。
〈甘いっての〉
『!』
姿が、消えた。
いや…そう見えただけなのだけど。彼はこうそくいどうで自分のスピードを大幅に向上させ技をかわした。
団員は勿論ハブネークも追い切れないらしく、どこから来るか分からない攻撃に身構える。
〈一瞬で終わらせてやるよ〉
『あ…!』
「ハブネーク!」
本当に、一瞬だった。
ガラ空きだったハブネークの背後に回り込み、鋭いつじぎりを食らわせる。運悪く急所に当たったのか、ハブネークは目を回して倒れてしまった。
…ゾロアークさんの完勝だ。
「く…っ何て事…!」
「…お、おい、アイツまさか…!」
『え?あたし?』
後ろでバトルを見ていたもう1人の団員があたしを指差し険しい表情を作る。え、何々!?あたし今回何もしていないけど!?
「はっ…!そうよあの顔!報告にあった近頃私達の邪魔をしている子供に間違いないわ!」
「くそ、今回もか…!」
…あれ、もしかしてあたしプラズマ団のブラックリストに入っているの?
〈良かったなー姫さん、有名人じゃん〉
『全く嬉しくないけどね』
確かに遭遇率高いし…目をつけられても無理はないかな。
「おのれ…っ覚えてなさい!必ず私達に平伏す時が来るわ!」
お決まりの様な捨て台詞を吐いて走り去っていくプラズマ団員達。やっぱり何かを企んでるのは間違いないのだろう…今のあたしにそれを知る術はないけれど。
「やーれやれ、相変わらずあんな事してんだなアイツら」
(相変わらず…?)
再び擬人化して伸びをするゾロアークさん。前からプラズマ団を知っている様な口振りだったけど…何だかそれだけじゃない気がした。
「あ、あの…助けてくれてありがとう。ダルマッカが奪われなくて良かったよ」
〈ありがとう!〉
『あ、いいえ!本当に良かったです!また現れるかもしれませんから気をつけて下さいね?』
軽く会釈して去っていくトレーナーさんとダルマッカ。仲良しだな…彼らが離れ離れにならなくて良かった!
「…にしてもさ、本当に姫さんってオレ達の言葉が分かるんだな」
『え?う、うん。生まれつきなんだと思うけど…』
「ふーん…そっか」
…あ、またあの目だ。あたしを通してあたしじゃない誰かを見ている目…。気になったから思い切って聞いてみる事にした。
『ねぇ、あなたは誰を思い出しているの?』
「…え?」
『あたしを見ているようでそうじゃない…誰かを思い出しているって感じだったから』
「…ぶはっ!すげーな姫さん!そんな事言われたの初めてだ!」
『そ、そうなの?』
何故か笑われた…。弧を描いたままの顔で再びこちらを向くゾロアークさん。そしてゆっくりと口を開いた。
「オレさ、昔…まだゾロアだった頃。少しだけプラズマ団にいた時期があるんだ」
『…は!?』
「あ、別に団員のポケモンだったとかじゃ無いけどな。プラズマ団のアジトに住みついてたって言った方が正しいか…。そこでな、姫さんと同じ様にポケモンの言葉が分かる人間に会ったんだよ」
そこまで聞いてピンときた。プラズマ団…そしてポケモンの言葉が分かる人。
それはもしかして、
『…N、さん?』
「え、姫さんアイツを知ってんのか!?」
やっぱりそうらしい。あたしは少なくとも彼しか思い当たらなかった。
『うん!付き合いが長いとかじゃないんだけど、1度助けてもらったしお話もしたよ。本人から昔プラズマ団にいたって事だって聞いたし…』
「そっか…そーなんだ。アイツ…人とちゃんと接する事が出来る様になったのか…」
あたしの言葉を聞いて何だか安心した様な表情を浮かべる。その目はとても優しかった。
「…なー姫さん、オレはプラズマ団の王になる為に生きていたアイツしか知らない。だから…姫さんが知ってる今のアイツの話、聞かせてくれないか?」
…そうか、ゾロアークさんはあたしを通してNさんを見ていたんだね。あんな優しい顔をするくらいだから…きっとNさんが大事なんだ。
でも今はしっかりとあたしを見ていた。それが何だか嬉しくて、あたしは勿論と頷いた。
to be continue…
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