long | ナノ







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「もう目が合った瞬間にビビッと来たんだよオレ!この子とは結ばれる運命だってな!という事でまずは一緒にお茶でも行こーぜ?」

『いやいやいや何言ってるか理解出来ないんですけど!?絶対人違いだってあたしはビビッと来てないですからぁあああ!!』


突然まくし立てる様にペラペラ話し出したかと思ったらよく分からない事を言われて肩を抱かれた。そのままお茶でもどうかと引きずられる体…


えぇえええ何事ぉおおお!?


「いやーマジついてるぜオレ!まさかアンタみたいな子と出会えるなんてなー」


完全にパニックに陥っているあたしを尻目にやたら上機嫌なチャラお兄さん。運命…ウンメイって…何…。

思考回路が停止しかけた時、視界に映ったのは犬の様な蒼い生き物。それは物凄い勢いでこちらへ向かってくる。あれは…



〈ヒナタ様から離れろ不埒者がぁああああ!!〉

「ぐぉっ!?」

『わぁああぁあ!?』


何だか嫌な音と共にあたしの横からお兄さんが吹っ飛んだ。勿論吹っ飛ばしたのは蒼刃…え、でも大丈夫なの!?


〈あっはは、本当にぶっ飛ばしたよさすが蒼刃〉

『差し金か!雷士の差し金か!』

〈違うよ、ヒナタ様の身の危機を感じる!って言い出したと思ったら急に走り出してこうなったわけ〉

〈ヒナタ様の波動は常に把握していますので、心拍数と同様に異変が生じればすぐ察知出来ると言うわけです。距離が離れすぎると難しいですが…〉


おぉう初耳…!波動使いって凄いんだね!

…ってそんな悠長な事言っている場合じゃなかった!あのお兄さん蒼刃にやられて大怪我してたらどうしよう!?

いや助けてくれた蒼刃を怒るつもりはないけれどやっぱり相手は生身の人間だし何かあったら…!



〈常に把握してるって…何かストーカーみたいなんだけど〉

〈馬鹿を言うな!俺はヒナタ様をお守りする為に日常のご様子まで知っておく必要があるんだ!〉

〈知ってる蒼刃?ストーカーは自分がストーカーしてるって自覚無いらしいよ〉


雷士と蒼刃が何か話しているけれどあたしの意識はあのお兄さんに持っていかれていた。少し離れた所でグッタリ倒れている彼に青ざめる。

いけない、意識を失ってるのかも…!

冷や汗が伝うのを肌で感じながら急いで駆け寄ろうとした、その時。


「…いってー…、いきなりそれはねーだろ。人間なら骨の1本や2本イッちまってるぜ?」


…しっかりと、立ち上がった。

首をコキコキ慣らしてズボンについた埃を払うお兄さん。え、何でそんな平気そうなの!?


〈やはり貴様…〉

「はは、当たりー。気付いたか?」


…あれ?今原型の蒼刃と喋ったよね…?

それにお兄さん自身が言った人間なら、と言う言葉。…もしかして、この人…


「お、アンタもピンと来た感じだな?そー、オレ人間じゃねーんだ」


ニヤリと紅矢とはまた違った不敵な笑みを浮かべ、一瞬でその姿を変える。そして次の瞬間目の前に立っていたのは…


〈じゃーん!どう?カッコいーだろ?〉


所々黒い毛が混じった赤いたてがみを持つ、ばけぎつねポケモンのゾロアークだった。




−−−−−−−−−




『うわぁ…ゾロアークって細いんだね。確かに擬人化した時も細かったしやっぱり名残って反映されるものなんだー』


ただいまあたし達はお昼を終えて休憩タイム。ちなみに何故かゾロアークさんも一緒にサンドイッチを食べました。

あたしが作ったと知ったら良いお嫁さんになれるぜ!と言ってくれてお世辞でも嬉しかった。その後何か蒼刃と喧嘩していたけれど…それに紅矢と疾風も彼を訝しげな表情で見ていた。

そしてあたしはこの地方では比較的珍しいポケモンであるらしいゾロアークに興味深々で、原型の彼の体をペタペタ触っていた。


〈ふ…そんなにオレに興味あんの?〉

『だってゾロアークなんて直接見るの初めてだし…あ、たてがみ気持ち良い!フワフワだー!』


モフモフと彼の長いたてがみを触ると妙に弾力があって不思議な心地良さがある。それが楽しくて思わず口元が緩んでしまった。


〈う、可愛い…!分かったオレ誘われてんだな、よし2人っきりになれる所に行こうぜ!〉

『え?』

「死ね変態が!!」

〈おっと!2度も格闘タイプに殴られたくはねーなー〉


あぁそっか、ゾロアークは悪タイプだから格闘に弱いんだもんね!やっぱりさっきの攻撃少なからず効いていたんだ。悪い事しちゃったな。


「ま、マスター…もう少し、危機感持った方が…」

「バカだな、バカ過ぎる」

「うん、バカだね」

『バカ連呼しないでそこのイジメっ子2人!!』


雷士と紅矢は本当あたしに容赦ないな…。もう味方は蒼刃と疾風だけだよ!

そんなあたし達を見てクスリと笑ったゾロアークさんは再び擬人化をとった。


「いやー、面白いなアンタら!それに…」

『…?』


目を細めてあたしをジッと見つめるゾロアークさん。何となく、その鮮やかな水色の瞳があたしを通して別の人を見ている様な気がした。


「なー姫さん!名前何て言うんだ?」

『ひ、姫さん!?』

「イイ男揃いのナイト達に守られてるんだからお姫サマみたいだろ?」

『あたしそんな柄じゃないけど…。えっと、とりあえず名前はヒナタだよ』

「ヒナタ、か…かわいー名前だな。でもやっぱりオレは姫さんがしっくり来るから姫さんって呼ぶ!」

『自由だね!?』


もう勝手にして下さい…。

それにしてもこのゾロアークさん野生…だよね?フキヨセに住んでいるのかな…。


「うし、そんじゃ姫さん!せっかく知り合ったんだからもっとお近付きになる為にもデートしよーぜ!」

『…はい!?』

「…っふざけるな!これ以上貴様のような男がヒナタ様に近付くことなど許さん!」

「何だよひでーなー、オレ超本気なんだけど」

『ま、まぁまぁ蒼刃…』


何だろう…段々蒼刃が斉に似てきた。小姑って言うと悪いけれどちょっと過保護というか…。


「完全にヒナタちゃんの保護者に成り下がったね蒼刃」

「病んでるな、救い様がねぇ」

「で、でも…蒼刃しっかりしてるし、ボクは良いと思うけど…」


色んな声が聞こえてくるけれど蒼刃は目の前のゾロアークさんに威嚇しっぱなしだ。何となく申し訳なくなってきて、チラリとゾロアークさんを見たら突然苦しげな表情になった。


「うっ…!いてて、さっきやられた所が…っ」

『え!?だ、大丈夫!?どうしようポケモンセンター行った方が良いかな…!?』

「いや…大丈夫、大した事ねーから」

『で、でも…』

「そーだな…だったらお詫びとして、オレとデートしてくれる?それでチャラにするぜ」

「な…!」


ニッコリ、美麗な顔で微笑むゾロアークさん。う…そ、そう言われちゃうと付き合うしかないかな…。

まぁデートって言っても変に身構える事ないよね!そんな経験無いからつい自意識過剰に陥る所だった危ない危ない!


「いけませんヒナタ様!これはこの男の罠です!」

「罠って…アンタはオレを何だと思ってんだよー」

「ケダモノだ!!」

「ぶはっ!間違ってはねーかもな!」


あれ、何だちょっと仲良くなったじゃん!でもケダモノって何だろう?…まぁいいや。


『分かったよゾロアークさん、あたしで良ければお詫びします!』

「お、物分かりがいいねー姫さん!そんじゃコイツらはボールに戻して早速行こーぜ!」

「おい貴様…!」

『蒼刃、何も心配無いって!だからゾロアークさんとお別れするまでは出てこなくて大丈夫だから、ね?』

「っヒナタ様…っ」

「そ、蒼刃…マスターがこう言ってるんだし、ボク達は従おう?」

「…はぁ、何かあったら絶対呼ぶんだよヒナタちゃん。その代わりその時は君もお仕置きするからね」

「後悔すんじゃねぇぞバカヒナタ」

『最後まで酷いね2人』


雷士のお仕置きも恐ろしいけれど今は仕方ない…よね。

皆をボールに戻して上機嫌なゾロアークさんとその場を後にした。




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